20 幕間 SS海兵団自動車化第一連隊-2
1938年 3月12日未明
「おい、お前ら。気抜くなよ!国境をこれから越えるぞ」
軍曹が俺たちに告げる。
そう言う軍曹の声色には隠せない緊張が滲んでいた。
「まったく、なんで俺たちはいつも貧乏クジなんだ」
ブツクサとトーマスがぼやく。
「あぁ、まったくだ」
俺もトーマスに相槌を打つ。
俺たちはライヒからオーストリアに続く道をトラックに揺られ進軍している。
前のスペインの時と違うのは、前も後ろも延々と続く味方の列に挟まれていることだ。
3日前のブリーフィングでは最初にオーストリアに足を踏み入れるのはグデーリアン将軍直率の第2装甲師団の手筈だったのだが、燃料補給などがあまりうまくいかなかった事もあり急遽俺たちの部隊と共同で先鋒をつとめる事になった。
第2装甲師団は単独で先陣をきりたかったそうだが、状況がそれを許さなかった。
いかんせん急な出撃で準備が整いきらず、彼らは三々五々の到着となってしまっている。
兵力はそれなりに揃いはしたが、戦力にはなれていないといった具合で、第2装甲師団だけでの先鋒はストップがかかったそうだ。
(まぁ、それ自体は仕方ないんたろうけどなぁ)
こちらが自動車化師団なのに対し、向こうは装甲師団。
戦車の配備数がまるで違う。
こちらが一個戦車中隊20両なのに対して、向こうは2個戦車連隊がいる。
定数の400両はまるで満たしていないらしいがそれでも200両以上の戦車が配備されているそうだ。
燃料をガブ飲みする装甲車両をろくな準備もせず動かして、上手くいかなさそうなのは一兵卒の俺にもでもわかる。
「これでオーストリア軍が実はやる気満々でしたってオチなら俺たちは終わりだな」
いつもは飄々としているトーマスの顔もややひきつっている。
今回の作戦、ふざけたことにオーストリア軍との交戦は厳禁されている。
『向こうが撃ってきてらどうするんですか?』とトーマスがブリーフィングで訊くと、小隊長殿の返事は『その時は全力で逃げろ』というふざけたものだった。
「愚痴っても仕方がないぞトーマス。俺たち兵隊は上からの命令にはハイかYESしか選択肢がないんだ」
「だな」
俺たちは手元のKar98kを祈るように握りしめ、オーストリアの検問所に差し掛かるのだった。
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ほぼ同時刻。第2装甲師団司令部
「将軍、我が師団の先鋒と、 S S自動車化連隊は無事国境を越えたとの報告が入りました。オーストリア軍からの発砲はないとのことです」
「そうか、それはよろしい。総統閣下はもう来られるのか?」
「はい、将軍。総統閣下もSS司令部と共にベルリンからこちらに向かって来られております。あと2時間ほどでこちらに到着されます」
「わかった。閣下が到着され次第、我々第2装甲師団司令部もオーストリア国境を越える。先鋒の部隊は引き続きウィーンに進軍を続けるよう伝達せよ」
「承知いたしました」
そう言って部下の将校が踵を返すのをグデーリアンは頷きながら見送った。
(なんとか無事いけそうか)
昨晩、オーストリア首相が辞任するというオーストリア政府の事実上の降伏宣言を受けてある程度楽観視はしていたが、軍の末端や市民たちがどういう反応を示すかは結局のところ出たとこ勝負に近いものがあった。
部下の手前、あまり表に出さないようにしていたが、オーストリア軍からの攻撃がなかったことにグデーリアンは心底安堵していた。
というのも第2装甲師団はあらゆる面で準備不足だったからだ。
進軍のための準備期間がまるで足りず、食料と燃料は最低限なんとか準備したが、本格的な戦闘が勃発し作戦行動が長引けば危機的状況になりかねない水準だったし、弾薬に至っては各員の手持ち分くらいしか用意出来ていないほどだ。
師団隷下の各部隊も準備不足と経験不足で全く連携が取れておらず、まともに戦闘を行える状況ではなかった。
そんな補給状態劣悪な第2装甲師団に対して、SS自動車化連隊は食料・燃料はもとより弾薬果ては戦車の整備パーツに至るまで全てを引っ提げて行軍しているらしい。
自動車化部隊という、過去に前例がない機動力を発揮する部隊が戦略機動するにするにあたってのノウハウ不足ゆえに手間取っている様子は見られるものの、こちらの師団よりはるかに段取り良く進軍できているとの伝令兵からの報告があがってきている。
それどころか、故障した戦車やトラックの補修部品の融通すらしてくれているそうだ。
(パレットシステム・・・か。)
SSの素早い出撃や潤沢な補給状況の影には、総統閣下の肝煎りで経済省が進めている新しい流通システムの存在があるらしい。
グデーリアンもうっすらとはその概要を聞かされていたが、半ば強引にこちらの司令部に連れてきたSSの補給将校から実際の運用を聞くことでその効果を初めて実感したのだった。
倉庫から一々食料や武器弾薬をトラックに積み込んでいた第2装甲師団に対して、 SSでは倉庫の中でパレットという物資をまとめて載せる台に行軍に持っていく物資を積み込んでしまい、それをフォークリフトという機械がまとめてトラックの荷台に積み込んでいたらしい。
(全軍はもちろん、ライヒ全体でこれを採用すればとんでもないことになるな)
今回の第2装甲師団とSSの差と、その詳しい内容を聞いてグデーリアンは直感する。
今回、 S Sは倉庫の中でパレットに荷物を積み込んだと言っていたが、それは倉庫の中で物資がバラ積みで保管されていたからだ。
これがもし運ばれてくる物資もパレットに載っていて、それがそのまま倉庫に保管されていたらどうだ?
これまで兵士総出で1日掛かっていた積み込み作業が、ものの数時間とかからず終わるのではないか?
(これは間接的に軍の機動力を大きく向上させることができるかもしれん)
兵站の効率化は、部隊の戦略規模での機動力を大きく改善することができる。
軍の自動車化や機械化で機動的な作戦の実現を信条とするグデーリアンにとって、自動車化や機械化での戦術的機動力の向上と、兵站の効率化での戦略的機動力の向上の組み合わせはまさに理想的な新時代の軍の姿だった。
(是非とも陸軍に導入しなくてはならん)
グデーリアンはこの作戦が終わり次第、陸軍上層部の石頭たちにパレットシステムの導入の必要性を叩き込む決意を固めたのであった。




