19 幕間 SS海兵団第一自動車化連隊-1
1938年 3月9日 ベルリン郊外SS駐屯地
俺たちの訓練漬けの日常は突如としていて破壊された。
午前中のランニングなどを中心とする体力錬成の訓練がやっとこさ終わり、官舎の方に戻りつつあった俺たちを待っていたのは軍曹の唐突な言葉だった
「お前ら、喜べ。出撃だ。」
「出撃で、、、ありますか」
思わず俺は聞き返してしまう。
「だからそうだと言っている!30分後少尉殿からブリーフィングが行われる。クラウス、トーマス、貴様ら他の者も集めておけよ!」
「「承知致しました!」」
軍曹は俺たちの返事を半身で聞くと、慌ただしく連隊司令部に去っていった。
「クラウス、大変な事になったな」
いつになく真剣な顔でトーマスがそう言う。
「あぁ、そうだな。最近の訓練の内容からすると前回以上の大規模作戦になるだろうな」
昨年、共和スペインの海軍基地が置かれているカタルヘナを強襲した俺たちSS海兵団はライヒに戻ると同時に大きく組織再編された。
カタルヘナの活躍で俺たちSSの価値が認められたらしく、もともと大隊規模だったSS海兵団は連隊規模までその組織を拡大する事になった。
もっともトーマスが何処からともなく仕入れてきた情報では、上層部は更なる規模拡大を計画しているらしい。
たが流石にこれ以上の急激な規模拡大は逆に組織がガタガタになるため、とりあえず連隊規模への拡大となったというのが真相だそうだ。
(まぁ、そりゃそうだよな)
口で言うのは簡単だが、短期間で規模にして3倍にするのは大変な事だ。
それは現場で体感する俺たちは身をもって味わう羽目となった。
それでも兵卒の俺たちはマシな方だ。
総務部の連中は死んだ顔をしていたし、少尉殿をはじめ士官の方々は死んだ顔を通り越してゾンビのような顔になっていた。
(まぁ、軍曹も死んだ顔になっていたけどな)
部隊の拡大は俺たち兵卒や軍曹のような下士官にも影響が及んでいて、俺たち伍長は軍曹に昇進するための教育を受けされられ、軍曹は尉官に昇進するための育成教育を受けさせられていた。
トーマスや俺は前の部隊で一応伍長用の教育を受講済みだったから、今回受けた軍曹昇進用の教育は大したボリュームではなかったが、軍曹が受けた教育は悪夢のような量だったらしい。
ライヒ陸軍は軍曹までを下士官としており、大尉までを士官とし、少佐以上を将校として区別している。
軍曹のように、カテゴリーを跨ぐ昇進の際は徹底的な錬成教育を受けさせられる仕組みとなっているそうだ。
軍曹は通常訓練にプラスされる教育に涙目になりながらも『まさか俺が士官になる日が来るとは』と若干嬉しそうな顔をしていた。
教育が未了のため、階級は軍曹のままだが完了次第昇進となるらしい。
そして軍曹が昇進するタイミングで俺とトーマスも軍曹に昇進するそうだ。
そうやって急拵えで規模を拡大させたSSなのだが、部隊構成にも変化があった。
カルタヘナ奇襲の際、敵戦車部隊の攻撃で危機的状況に一時追いやられたことが問題視された。
降下猟兵やちょび髭党親衛隊の武装部門(本来の S S)が母体であるSS海兵団は重火器を多くは所持しておらず、戦車も数両しか配備がなかったのだ。
カルタヘナの教訓をうけ、SS海兵団も連隊規模に拡大されるのに合わせてその役割りを変化させることとなった。
『上陸作戦専門の部隊』という範疇を越え、『即応作戦部隊』という形に役割りが切り替わったのだ。
それに伴い、戦術、戦略規模での機動性を向上させる為連隊全員が乗車されるだけのトラックが配備される事になった。
一台に10人は乗れると言っても、連隊3000人を収容するとなると膨大な数になる。
ただでさえ膨大な量のトラックだが、SS海兵第一連隊には本来ライヒ陸軍の構成では含まれないはずの戦車中隊と重砲中隊が含まれている。
配備されるトラックや自動車の数でいったら通常の歩兵師団に匹敵する量が配備されているのだ。
(しかもそれだけじゃないんだよなぁ)
新しい試み尽くしのSS海兵団なのだが、装備する兵器なども様々な新兵器・新装備が配備されている。
噂では『どうせ新しい事を色々試す部隊なら新兵器も色々配備して試させよう』と上層部の誰かが言ったか言わなかったとか。
(俺たちはモルモットかってんだ)
新兵器の優先配備と言えば聞こえはいいが、要は実験台だ。
実際、色々の配備される新兵器は初期不良が潰せていないものも少なくない。
(戦車中隊の奴らもぼやいていたもんなぁ)
戦車中隊には見た事もない大型の戦車が新規配備されていた。
トーマスが聞き出してきたところによるとIV号戦車という名前の戦車だそうだ。
なんでもII号戦車の3倍もの重量があるらしい。
そんなII号戦車がオモチャに思えるほど大型の戦車だから当然初期不良が多発しているそうで、『訓練してる時間より整備してる時間の方が長いんだよなぁ』と戦車兵は苦笑していたらしいが、『これこそがホンモノの戦車だぜ』と誇らしげにもしていたそうだ。
『あいつらも難儀な性格してるよな』と戦車兵たちの悲喜交々とした事情をトーマスは肩をすくめながら笑っていた。
兎にも角にもそんな具合でトラックや戦車だのを大量に配備された事で、最近のSSの訓練内容は車両を駆使した部隊の機動訓練が多く盛り込まれいた。
そして俺も伊達にもう何年も軍で飯を食っているわけではない。
訓練というのはだいたいなんらかしらの目的があってやるものだ。
今回の急な出撃とこれまでの訓練が無関係と思うほど能天気な性格は俺もしていない。
(今度の任務地は地続きの所に違いない・・・」)
どこの国かは一兵卒の俺には分からないが、一つ言えるのは前回よりも大規模な作戦になるだろうってことだ。
「何言ってんだクラウス。そんなの当たり前だろう。そんなことよりもだ」
そんな事を考えながらトーマスに俺は話しかけたのだが、トーマスからの返事は予想の斜め上だった。
「作戦規模がデカくなるってことはブリーフィングが長くなる。てことはだ」
そこまで言うとトーマスはいい匂いを漂わせる食堂の方を見る。
つられて俺も食堂の方を見る。
そして自分達が昼飯寸前だった事を思い出す。
「今日は確実に昼飯を食いそびれるぞ」
哀愁を漂わせながらトーマスはそう言い放った。




