13 ソラへの道
1937年 11月 ペーネミュンデ陸軍研究センター
「閣下!これで私もちょび髭党の一員です」
そうニコニコ無邪気に話しかけてくる20代の若者は、ブラウン博士だ。
「それは何よりだブラウン博士!君の様な優秀な人材が加わってくれると我が党もますます安泰だな!」
(時代ゆえ仕方はないが、、、複雑な気持ちになるな)
ブラウン博士には歓迎を伝えたが、ブラウン博士を筆頭に優秀な科学者や技術者が予算欲しさなどを理由にちょび髭党に加入してくるのは中島勝としては複雑な心境だ。
「それでブラウン博士。ロケット開発の具合はどうかね?更に大型のロケットを製作中と聞いたが?」
ヴァルナー・フォン・ブラウン博士。
言わずと知れた現代ロケットの父だ。
史実では戦争中に初の弾道ミサイルであるV-2ロケットを開発。
戦後はアメリカに引き抜かれ、宇宙開発チームの一員としてその才能を発揮する事になる。
彼抜きには宇宙開発を語れない、そう言っても全く過言ではない人物と言えるだろう。
「それなのですが、総統閣下」
「ん?どうした?問題でも発生しているのか?」
神妙な顔をするブラウン博士に俺はのんびり訊ねる。
普通はこういう革新的新技術の開発に投資するのは、出資者にとって非常なリスクを伴う。
だが、俺にとってブラウン博士のロケット開発は成功が約束されているものだ。
むしろ『モノになるかどうか』ではなく『どれだけ早くモノになるのか』が関心ごとだ。
(予算を増額している以上、1940年頃には兵器として実用段階となって欲しいがな)
ブラウン博士のロケット開発やポルシェ博士のビートルの開発などについては、わりと呑気に俺は構えている。
ちなみに俺のこの態度はやや周辺との軋轢の種になっていたりもする。
ロケット開発や乗用車開発や自動小銃開発などは精力的に推進するが、いくつかのプロジェクトは容赦なく中断させた。
例えば双子エンジンなどがその典型だ。
重爆撃機などの多発機を設計する際、エンジンナセルの数は少ない方がいい。
1000馬力×4より2000馬力×2の構成の方が、機体重量も軽くなるし、空気抵抗も低減できる。
そんな訳で、ライヒは出来るだけ高出力のエンジンを開発すべく、双子エンジンに手を出す。
発想は至ってシンプル。
『2倍の出力が欲しいならエンジンを二つくっ付けちゃおうぜ!』という、酔っ払いが考えるようなことをガチで取り組んだのだ。
結果は惨憺たるものだった。
一応戦時中にモノにはなったが信頼性に欠ける代物で、何より戦争の肝心な局面に全く間に合わなかった。
そんなモノを開発させる程、ライヒの国家予算は潤沢ではない。
容赦無く開発中止命令を出した。
後は、半自動小銃(フルサイズ小銃弾使用)や統制型軍用車両(ライヒ技術者の悪いところが全部出て、やたらと高コストの軍用車となっていた)、ジークフリート線(マジノ線のライヒ版)の建造などといった史実で役に立たなかったものは次々に中止させた。
列車砲などちょび髭ライヒを代表する超巨大兵器たちも泣く泣く中止させた。
俺も『男の子』なので硬くてデカくて強いものは大好きだが、コスパが悪いそんな超兵器に費やす金は残念ながら金欠ライヒに存在しない。
勿論、俺の判断に拍手喝采を送る人間も一定数いたが、全体的にはどちらかと言うと反感を買っていると言える。
俺のそんな境遇を思いやったのかどうかは分からないが、ブラウン博士の言葉は俺の予想を裏切るものだった。
「それがですね!A-3ロケットがつい先日完成したのです!」
『ギリギリ閣下の来訪に間に合いました!』そう言ってブラウン博士は見事なドヤ顔を浮かべた。
「そ、そうか!それは素晴らしい!」
(どうりの目の下にでっかいクマができているわけだ)
「それは喜ばしいことだが、ブラウン博士。君からの報告ではジャイロ設計に由来する問題があると書いていたが、それは解決したのかね?」
横から口を挟むのはフリッチュ陸軍大将だ。
ロケット開発プロジェクトの現場指揮はブラウン博士が行なっているが、流石に20代の若者に全ての権限を付与することは何かとぶっ飛んでいるちょび髭党ライヒでもありえない。
最終的なトップはフリッチュ大将が勤めている。
「それなのですが、経済省にいい会社を知らないかと問い合わせたところ新型ジャイロを送ってもらえました!それが結構高性能でして」
「経済省?あぁ、そういうことか」
ブラウン博士はエウリカブルグで開発された新型ジャイロを組み込んでいるようだ。
エウリカブルグの存在は一般には伏せられているので、ブラウン博士からすると経済省が新型ジャイロを提供してきたように映ったのだろう。
「さぁ、さぁ。閣下。この奥に発射試験場があります。ぜひ、発射実験をごらんください!」
そう言うと、しれっと車を建物にまわしてくる。
国防軍所属の車が手配されていることを鑑みると、このサプライズはフリッチュ大将もグルなのだろう。
『やってくれたな』という目線を大将に向けると、『こういうのお好きでしょ?』と言わんばかりに笑顔で頷いてきた。
(いや、まぁ好きだけどね!)
まわされてきた車に乗り込み、森の中の道をしばらく進むと不意に森が開けた。
「これは・・・すごいな」
「そうでしょう!これがA-3ロケットです!」
森の中の空き地に鎮座してのは、高さ6mほどのロケットだった。
未来のH2AロケットやH3ロケットと比較するとミニチュアサイズ。
だが液体燃料を使用し、簡易的ながらも姿勢制御装置も備えており現代ロケットに必要な要素を初歩的ながらも全てそなえており、後々の全ての宇宙ロケットの先祖に間違いなくあたる機体が鎮座していた。
博士の合図とともに繋がれていたケーブルやホースが次々と外されていく。
「閣下、こちらをどうぞ」
「あぁ、助かる」
俺は博士が差し出してきたサングラスを装着する。
『では宜しくお願いします』と博士が職員に告げるとカウントダウンが開始される。
3・2・1・・・0
カウントダウンが終わると同時に轟音と閃光をあげロケットが大地を離れる。
それと同時に一同からどよめきがおこる。
「500メートル、1000メートル、1500メートル・・・」
観測員が声に緊張をにじませ、ロケットの高度を報告する。
その数字を皆固唾をのんで聞き入っている。
「7000、8000、9000、1万!1万メートルに到達しました!」
そして予定高度の10,000メートルに達すると、一斉に拍手が沸き起こった。
「やったな博士。この実験の成功はライヒにとって100年先まで誇れるものになる。博士の名声も末代まで轟くことだろう!」
「ありがとうございます!」
そう答えるブラウン博士は会心の笑みだ。
フリッチュ大将をはじめ、同行した陸軍将校らも興奮冷めやらぬ様子で口々に話している。
(みな無邪気だな)
そんな彼らを見て俺は思わずそんな感想をもってしまう。
ロケット技術は未来に続く技術なのは間違いない。
だが、それは良くも悪くもだ。
俺はつい先日、エウリカブルグの科学者と技術者にある理論に基づく装置の開発を依頼した。
その装置の名は『遠心分離機』。
質量がごくわずかに異なる物体を分離する為の装置。
『なんでこんなものがいるのですか?』と、開発を命じられた機械メーカー出身の技術者は首をかしげていたそうだ。
あったら便利な機械かも知れないが、国家予算をかけてまで秘密裡に開発する意味がわからなかったのだろう。
(積極的に使うつもりはないが、準備はしておかないとな・・・)
俺は今空からゆっくり落ちてくるロケットに、民間利用にも軍事利用にも無限の可能性をみている。
というか、知っている。
戦争のあり方、兵器体系を決定的に変えてしまう革新的技術。
だからこそ、パラシュートを開き落ちてくるロケットを見上げて『これでどこの国よりも長射程の大砲が手に入る!』などと、物騒と言えば物騒だが、ある意味呑気な事を言っている将校達を俺は生暖かい目で見てしまうのだった。
究極の知識チートです。ぶっちゃけ、ライヒが本気になれば核は容易に製造できるでしょうね。このことが主人公の行動パターンに結構影響を及ぼしていたりもします。




