11 金の使い方-3
「それはいくらなんでも無茶です。大体閣下ご自身が6m級コンテナ以上は今のライヒのインフラでは対応困難とおっしゃっていたではありませんか!」
シャハト大臣が声をあげる。
「閣下。そのトラックはあまりに巨大過ぎます。12mコン、、テ、ナでしたかな?そんな巨大なものを戦場のどこへ持ち込むのです?]
ブロンベルク大臣も否定的な声をあげる。
『これだから戦場を知らない伍長は』とでも言いたげな顔だ。
(くそっ・・・未来を知らんくせに!って言いたい)
俺が発案した(発案というかは微妙だが)コンテナシステム。
実はあまり受けがよくない。
というのもコンテナシステムの構築には大量の鉄を必要とするわけなのだが、これが良くない。
史実では、というかこの世界線でもだがライヒはこの時期鉄不足に陥る。
軍拡の速度に鉄の増産が間に合わないのだ。
ただし、今現在でいうと史実よりは鉄不足はかなりマシになっている。
なにせ合計10万トンにも及ぶ膨大な鋼材を使用する大型戦艦の製造を中止しているのだ。
また、新規に製鉄所の建設も進めている。
これに関しても史実とはやや異なるアプローチを試している。
史実ではライヒ内での自給自足体制を強化するべく、ザルツギッター地方から豊富に産出する鉄鉱石に目をつけた。
これまでライヒは鉄鉱石をアメリカやスウェーデン、フランスからの輸入に頼っており、地元で鉄鉱石が産出するならそれを使おうとなったわけだ。
だが、そもそもこの鉄鉱石を使わずライヒ産業界が鉄鉱石を輸入していたのには理由がある。
残念な事にこの鉄鉱石は鉄含有量が少ない、いわゆる低品質の鉄鉱石だったのだ。
低品質の鉄鉱石を使用すると製鉄するコストが上がってしまう。
当然、民間企業の例に漏れず、イチマルクでも節約したい願望を持つライヒ鉄鉱業界はわざわざそんな低品質のクズ鉄鉱石なんて使ってこなかったわけだ。
だがそれだと困ってしまうのが未来のライヒだ。
なにせアメリカからは高確率で貿易制裁をくらうことになる。
できるだけ避けるつもりだが、戦争になるリスクすらも完全には排除できない。
だからこれに関しては非効率さには目を瞑り史実同様、鉱山開発をする事にした。
これはシャハト大臣やライヒ製鉄業界の大反対をくらったが、クズ鉄鉱石を国営企業で採掘し、ボランティア価格で流通させることでなんとか同意を得ることができた。
低品質な鉄鉱石からは高品質な鋼材は作りにくいが、コンテナなどはそこまでの品質の鋼材を必要としない。
そのあたりの説明とちょび髭演説を織り交ぜる事で、なんとかシャハト大臣も首を縦に振ってくれたのだった。
ちなみに史実では銑鉄まで行うヘルマンゲーリング工場を建設していたが、それは取りやめた。
ただでさえ国営工場が多いのだ。
先々の事を考えると国営部門の割合はそこそこに抑えておきたいし、国営企業という強力過ぎるライバルの出現は製鉄業界の強烈な反発を抑える為にも、この世界線では国営製鉄工場の建設は見送った。
(ただし生産設備の拡張は義務付けたがな)
国営製鉄工場の建設は見送る代わりに、各製鉄会社には生産ノルマを課した。
そのノルマは生産設備を増強しないと達成不可能な量となっており、実質的には設備投資を迫るものに他ならない。
通常の経営判断ではあり得ない性急な規模拡大を各社は迫られる訳だが、そこは『国営企業の設立』という脅しと1党独裁のちょび髭党への恐怖もあり渋々各社は受け入れた。
(定期的に経済省が査察するとと伝えたら目が死んでいたがな)
何はともあれ製鉄産業界は戦艦に使用予定であった鋼材を規模拡大に充てれる事もあり、史実よりは生産体制の拡充を実現出来そうな構えだ。
「そのことだが、クルップから連絡があった。6トン級の可動リフターは製造可能ということだ。もう一つの課題であったインフラの耐荷重も要所要所の橋を強化すれば6トン級は対応可能との調査結果がトートからあがってきた。」
「しかし閣下」
「分かっているシャハト。そんな大量のトラックを動かす油がどこにあるのかだろう?」
話しかけたシャハト大臣を遮り俺は話し続ける。
「6mコンテナ対応のトラックは確かに製造する。そしてそのトラックを民間にリースもする。だが本当の狙いはそもそもそこではない」
「・・・エンジンですか。」
腕組みしながらおもむろに言葉を発するのはブロンブルク国防大臣だ。
(へぇ、、、)
ブロンブルク大臣に関しては特にテクノロジーに詳しい印象はなかった。
それだけに今の発言は少し意外と言えた。
「そうだ。3号戦車は足回りで手間取っていると聞いているが、4号戦車は順調に試作が進んでいると聞く。これから1、2号戦車と入れ替えるべく量産を行うが、トートによるとボトルネックはやはりエンジン周りになる予想だそうだ。」
俺が横槍を入れたことで4号戦車の試作は遅れていたが、基本的にはボギー式サスペンションを採用したままであったり、エンジン配置も後部エンジン、前部トランスミッションという伝統的な配置を踏襲したりと無難な設計に留めていたことが幸いし、今年中にも先行量産型がロールアウトしてくる。
「そこでだ。トラック工場をシュトゥットガルト郊外に建設するが、トラックのエンジンはマイバッハの戦車用ガソリンエンジンをデチューンしたものを使用する。」
トラックと戦車では求められる性能がかなり違う。
過給機などの補機関係のグレードを落とし、信頼性を向上させる為に出力制限をかけたバージョンをトラックエンジンとして使用し、逆に過給機などで出力を可能な限り向上させたバージョンを戦車のエンジンとして使用する。
そのあたりの工夫でもって同一のエンジンで民生用と軍事用をかねさせる狙いだ。
(だからどちらかというと因果関係が逆なんだよな)
4号戦車に使用するエンジンは300馬力は出力する物となる。
排気量20リッターにもなる化け物エンジンだ。
そんなエンジンをどうデチューンしても200馬力は出力する。
この時代では破格の出力の超強力エンジンとなってしまうのだ。
そんなエンジンを搭載しても車格的にも経済的にも妥当なサイズのトラックとなると、6mコンテナ搭載可能で最大ペイロード10トンにもなる超大型トラックになってくるのだ。
だから超大型トラックを製造したかったというよりは、戦車とエンジンを共有できるサイズのトラックを考えるとこのサイズになったというのが実態だ。
(こればっかりは民間投資では不可能な判断だからな)
需要のあてが全く不明な中で巨額の設備投資を行える民間企業など存在しない。
なんせライヒとは比較にならないほどモータリゼーションが進んだアメリカですらこの時代にここまで大型のトラックはそうそう出回っていないのだ。
ライヒでそんな大型トラックの需要があるなんて判断できる民間企業は皆無だろう。
むしろそんな判断をする経営者がいたとしたらそれこそそいつは転生者だろう。
「そういうことであれば国防大臣の立場としてはなんの不満もございませんな。」
(いや、別に許可を求めている訳ではないが?)
なぜか満足げに腕組みしているブロンベルク大臣を見て俺は思わず半眼になりそうになる。
「経済大臣としても、まぁ許容範囲かと。」
(いや、だから別に許可をだな・・・)
『輸入の外貨は残しておいて貰わないと困りますぞ』と釘を刺してきながらシャハト大臣も頷いてきた。
「ライヒ政府から特に追加で財政出動する話ではないでしょうから、財務省も問題ありません」
そう言って一転ニコニコ顔なのはクロージク財務大臣だ。
「わかってくれたのならそうでいいが・・・。なんだ諸君。最初と比べるとエライもの分かりがいいではないか。なんだったのだあれは?」
会議の初めはえらく微妙な空気だったのが、気付いたら普通に和んでいる。(レーダー提督以外)
俺がそう聞くと高官達が顔を見合わせる。
「一体なんだというのだ。はっきりと言いたまえ諸君。ヒムラー!お前にはなんの事かわかるのか?」
一向に答えようとしない高官連中に業を煮やし俺はヒムラーに答えを迫る。
『また私かよ』と言いたげな顔をしながらもヒムラーが渋々答えてきた。
「・・・それはですね閣下。閣下が自らの個人資産に加えると皆勘違いしたので・・・」
「・・・は?個人資産・・・?そんな訳あるか!」
(一体ちょび髭総統に皆どんなイメージ持ってんだ!)
国家予算級の金額をポッケにないないすると思われていたことにようやく気付いた俺は、ちょび髭節を炸裂させるのであった。




