9 金の使い方-1
3億ドル相当の金。
それすなわち国家予算の10%。
個人にとっては想像すら出来ない膨大な単位と言える。
だが、ライヒ経済からするとごく小さい金額ともいえる。
使い方を誤ればほとんどライヒ経済にほとんど影響を与えないまま消えてしまうような金額だ。
だが、そうは言っても奪取した金は普通に考えれば膨大な量だ。
これをシンプルに軍事費に費やしたとしてもかなりの規模の部隊が出来上がる。
比較の為に手元にあるデーターをみると、例えば、建造予定であったビスマルク級戦艦は一隻5000万ドルのコストが見積もられていた。
4号戦車だと1両3万ドルで、一個装甲師団には200両ほどの戦車が配備されるので600万ドルほどのコストとなる。
UボートⅦ型で1隻120万ドル、試作が進むUボートⅧ型で1隻160万ドルと見積もられている。
よく後世の歴史家が、バルバロッサ作戦においてあと1師団でもドイツ軍がモスクワ前面にもってくることが出来れば、モスクワを落とせていた(※それでソ連が倒れるとは言ってない)というが、それくらいの条件は整えることが十分に可能になる。
(とは言え3億ドル分の金をフリーハンドで使える訳ではないがな)
スペインの金のうち、ある程度は対価としてフランコ総統に相当額の兵器を引き渡さなければならない。
流石に全額をそのままネコババしたら、フランコ総統も他の国に泣きつきに行きかねない。
武器支援、義勇軍派遣費用として1億ドル相当は必要とみておかなければならないだろう。
(そもそもそんな大量の金を一気に換金出来ないしな)
そんな膨大な量の金を一気に市場に流通させてしまうと金市場の混乱を招く。
そんな混乱を引き起こしてしまえば各国に早々に目を付けられることになりかねない。
『そんな金があるなら賠償金を払え』と、となりのカエル野郎の国がフランス版ラインラント(ライン地方への軍進駐)をしかねない。
それを避けるにはポンドやドルにじわじわと変えながら、メフォ手形の償還や各種資源や工作機械の購入に充てるというのが妥当なところと言えるだろう。
そうやって出来る限り目立たないように、スペインの金をしゃぶっていこうとしているのだが人の口に戸は立てられない。
ライヒ上層部では次第にカルタヘナ奇襲と金奪取の件はひろまっている。
『そんな金があるなら我が省に予算を!』と、言いだしかねない状況なのだ。
折角、プラスアルファで手にした資金で不和が起きるのは避けたい。
そんな訳で、俺はシャハト大臣、クロージク大臣、ブロンベルク国防大臣、ゲーリング航空省大臣、レーダー提督などの関係者一同を再度あつめたのだ。
ちなみにヒムラーとゲッベルスはあまり関係がないと言えばないのだが、呼ばないとへそを曲げそうなので一応呼んでいる。
前回の報告会からひと月ほどしか経っていない。
だというのに声をかけた全員がすぐにそろったのは、ちょび髭総統への恐怖かはたまた金の輝きに釣られたといったところだろう。
「さて、諸君」
俺が話し始めると、皆の注目が俺にあつまる。
「知っての通り、ライヒは莫大な資金を手にした。」
そう俺が切り出すと、ヒムラーがどことなく自慢げな顔になる。
今回の作戦はSS(Speziell Staffel)の活躍によるところが大きかったのだが、それによりSSは正式に軍隊となった。
これまでは母体に武装親衛隊が含まている以上、正式な軍隊としてライヒ内では扱われていなかったのだ。
だが、今回の戦果で特殊作戦(強襲上陸作戦や空挺降下作戦を含む)実施用の部隊を専門に錬成することの意義が軍内部でも広く認められた。
その結果、武装親衛隊出身のメンバーも晴れて正式に軍の一員となった訳だ。
(ヒムラーは難色を示したがな)
ちょび髭党直属の武装組織を取り上げる形となったのでヒムラーは嫌がったが、そもそも武装組織を持っていないゲッベルスや、ヒムラーに対抗するという意味もあり降下猟兵を組織したゲーリングの賛成もあってどうにかこうにかちょび髭党から武装親衛隊の大部分を切り離すことに成功したのだ。
(とはいえ完全に武装親衛隊を解散できたわけではないが・・・)
武装親衛隊の中には本当にどうしようもなくちょび髭イズムに染まっている人間がいる。
正式に設立される特殊作戦梯団(SS)を思想的に染め上げかねない人間たちだ。
そういった人間たちは党警察として規模を縮小した上でちょび髭党直下の武装組織として残留させている。
本当は一気に解体してしまいたかったのだが、反発の大きさが読めないのでとりあえず段階を踏むことにしたのだ。
そうやって新たに設立された特殊作戦梯団だが一応これまでどおりヒムラーの指揮下に置かれている。
だが、ヒムラーの私軍と化さないように陸海空軍からそれぞれ将校団を派遣させており、かつ最高指揮権は国家元首(つまりは俺な訳だか)が持つと定義させている。
これには他の3軍、特に陸軍が難色を示した。
というのも、『各軍の最高指揮権は国家元首に属するが、その指揮権は各軍の最高司令部に委任される』というのがライヒ国防軍の最高指揮権のあり方となっている。
要するに、形式上は最高指揮権を国家元首が握っているが、実態としては各軍の最高司令部が握っているという仕組みを取っているわけだ。
そしてさらには、島国の日本と違い大陸国家のライヒでは陸軍が圧倒的にイニシアティブを他の2軍に対し握ってきた。
なので陸軍最高司令部がライヒの国防の指揮権を担っていたことにほぼ等しいのだ。
名目共に国家元首直属の軍隊が新たに出現することは、特に陸軍にとって既得権益を侵されることに他ならない。
そんな訳で、指揮権が国家元首に存する点に関しては陸軍がかなり嫌がったが、まがりなりとも自分たちの息の根のかかった人間が多く所属する事になる特殊作戦梯団のほうが、武装親衛隊よりもマシという結論にいたり、渋々陸軍の連中も首を縦にふったのだ。
(少し考えが逸れてしまったな)
ヒムラーの得意げな顔が目に入ったことで、脇道にそれてしまった思考を俺はもとにもどす。
「それから得られる資金について諸君には色々と期待があることだろう」
チラッとレーダー提督を見ると、鼻の穴を膨らませている。
ビスマルク級の建艦計画を白紙にされた提督はおそらく代わりの戦艦を欲しているのだろう。
「だがな、予め諸君にこれだけは言っておく。」
俺は居並ぶメンツをぐるっと見渡してからおもむろに告げる。
「この資金は私が立案した作戦で、私が獲得した資金だ。私が好きに使わせてもらう」
「「「「?!」」」」
俺はライヒ高官達の目が一斉に点になる珍しい光景を目にする事になった。




