6 産声をあげる新兵器-ルフトバッフェ-2
「補助戦闘機ですか?」
声に疑問の色を滲ませながら問いかけてくるのはトートだ。
第二次四カ年計画のトップを担う者としてトートにも今回のトライアルに同行させているわけなのだが、計画を監理する者としては機種数が増えることに疑問を呈さずにはいられなかったようだ。
(この場で言ってしまうあたり図太いと言うのか、無神経と言うのか・・・)
現に『いらん事言うな!』と言う意味が込められた殺気混じりの視線を四方八方から浴びせられている。
特にシュミット博士の陣営からの目線は殺気混じりというか、純度100%の殺気が飛んできている。
「言いたいことは分かっているトート。生産機種が増えれば生産性・整備性は低下する。その懸念は正しい」
「・・・そこまで理解しておられるのになぜですか?」
不思議そうにトートがきいてくる。
(まぁ、無理はないか)
この俺の判断には転生者としての知識と、今後のライヒの国家戦略が絡んでいる。
その両方を知り得ないトートとしては非合理的な判断に映る事だろう。
「それはだな、これが主力戦闘機だからだトート。」
俺はトートと、この場にいる皆に向けて話し始める。
「これからの戦場では制空権の確保が必須なものとなる。万が一にも開発に失敗などあってはならんのだトート。現時点ではHe112が優れているのは事実だ。だが、実際に量産するまでに何があるかはわからん。だからこそ保険が必要になるのだ」
(まぁ、実態としては俺がビビってるだけってのも大きいが)
俺にとってBf109とFw190(今はまだ影も形もないが)は約束された戦闘機だ。
だが、He112は違う。
前世での実績がない。
(それに・・・)
「He112は性能に優れるが、生産性がBf109に劣るのでないか?」
俺がそう言うと、ハインケルの面々の顔が強張り、シュミット博士を初めバイエルン陣営の顔色が明るくなる。
Bf109が単純な直線翼(テーパー翼)を採用しているのに対し、He112は楕円翼のガルウイングときている。
誰がどう見てもBf109の方が生産性が高い。
「兵器とは必要な時に必要な数が揃ってこそだ。それにだトート。ライヒにとって問題は機体の生産数よりもエンジンの生産数ではないか?」
俺はダイムラーとユンカースの技術者達に目をやりながらトートに問いかける。
「それは・・・否定できませんね・・・」
少し言葉を濁しながらトートが答える。
内燃機関。
未来においてはありふれ過ぎている存在。
だが、この時代においては最先端技術の塊と言える。
特に航空機用エンジンはその最たるもの。
ライヒのDBシリーズやJumoシリーズも最先端の工作機械を使い出来うる限り精密に作られている。
V型エンジン特有の長いクランクシャフトや複雑な冷却用配管など、大量生産への懸念となる事項が数多い。
それゆえに一朝一夕に生産数を増やすことができない。
エンジンを余るように作れる国など、海の向こうの超大国くらいなものだろう。
「トート。ゲーリング。そういえばエンジンの共同開発はどうなったのだ?」
ふと思い出して俺は二人に尋ねた。
新型機が次々と空を舞うのに気を取られていたが、聞きそびれていた事を思い出したのだ。
「「・・・・」」
ゲーリングとトートが顔を見合わせる。
『お前が言えよ』と互いに圧をかけあっているようだ。
「なんだお前達。言いたいことがあるなら早く言え。まだまだ新型機を見ないといけないのではないかね?」
「・・・それは後ほどの報告でもよろしいでしょうか?」
俺が急かすと、ゲーリングがトートとの睨めっこに根負けしたようで渋々口を開いた。
「まぁ、いいだろう。あとで詳しく聞かせるように。それで次の機体はなんだ?」
俺がそう言うと、『え?』と言う顔をする二人。
『さっさと今言え!』と雷を落とされることを想像していたのだろう。
(いや、そらエンジンの共同開発なんぞそう上手くいかんわ)
命じておいた立場でこんな事を言うのもなんだが、エンジン開発なんてそうそう直ぐに結果が出るものでもないだろう。
前世で技術者の端くれをしていた者として、技術開発の難しさはある程度わかっているつもりだ。
「今回は空冷戦闘機の試作機は間に合いませんでした。フォッケウルフ社とアラド社が来年のトライアルに参加予定です」
「そうか、それは仕方ないな」
『エンジン開発も鋭意進めるように』と付け加えながら俺はゲーリングの言葉に相槌を返す。
素直に頷く俺にトライアル参加者一同は目を白黒させている。
(まぁ、流石に間に合わんか)
そもそも1939年初飛行の機体を一年登場を早めようとしているのだ。
来年中に制式採用を決定できるなら文句はない。
「それで、重戦闘や重爆撃機の開発はどうだ?」
「えー、重爆はもう少し時間を要しそうです。ユンカース社とドルニエ社がウラル爆撃機を改設計しております。あと、ハンブルグ社が応募予定です。」
「・・・そうか。来年のトライアルには間に合わせるように」
(ハンブルグ社・・・?あぁ、なるほど)
聞き慣れない名前に一瞬戸惑ってしまったが、ちょび髭由来の記憶の中にうっすらとその情報があった。
造船業などを営んでいる会社の子会社のようで、飛行艇の製造実績がある。
(そういえばドルニエ社も飛行艇をつくっていたな)
高翼配置の多発機のノウハウとなると飛行艇メーカーに一日の長があるのだろう。
これから産声をあげる超大国の傑作爆撃機B-24 も飛行艇メーカーが開発元だったはずだ。
(これが上手くはまれば、飛行艇メーカーが重爆を製造するのがトレンドになるかもな)
遥か東の故郷を想い、ふとそう思う。
史実では駄作機をつかまされたこともあり、まともな4発重爆をつくることができなかった。
まともな4発機をほとんど作れなかった東洋の帝国だったが、唯一例外的にまともな4発機をつくったメーカーがある。
97式飛行艇や2式大艇を製造したそのメーカーであれば、4発重爆を製造できるかもしれない。
(開発が上手くいけば日本にデモンストレーション飛行させようか)
そんなおせっかいな事を考えながら、俺は引き続き新型機トライアルを続けるのであった。
今後詳細スペックも徐々に明かしていきます。




