5 産声をあげる新兵器-ルフトバッフェ-1
ブロォオオ
俺の目の前で倒立V型12気筒エンジンが唸り声をあげている。
排気量30L超の化け物レシプロエンジンを心臓とし、金属でその身を覆う怪鳥が2機誇らしげにその威容を誇っている。
先ほどまで空を舞っていたその2機は、まだ飛び足りんと言わんばかりにその心臓の鼓動を響かせる。
(甲乙つけがたいな)
機体のまわりにはそれぞれの機体の親・家族とでも言うべき技術者や整備士が居並んでおり、固唾をのんで俺たち上層部の様子をうかがっている。
自分たちのこれまでの努力が報われるか、無に帰するかがかかっているのだから当然だろう。
前世で技術者をしていた者として、彼らの気持ちは痛いほど分かる。
(こんなことなら会議室で決めればよかったかもな)
そんな本末転倒なことすら頭をよぎるほどだ。
俺はふたたび、ベルリン郊外のシュレースヴィヒ空軍基地にきていた。
だいたい前回きてから半年ぶりである。
前回のトライアルで本来だと次期戦闘機を決定するはずだったが、ちょび髭総統の横やりで延期してしまっている。
半年も時間があったので最終的にトライアルにのこったBf109もHe112も完成度が相当あがってきている。
Bf109は史実だとこの時期採用のバージョンは着陸脚回りが非常に脆弱で、かつ航続距離も短いものだった。
だが、目の前の機体は前回の俺の指摘をふまえ着陸脚の強度が増しているほか、取り付け角度の変更や尾輪の延長などを行い着陸時の安定性を増している。
勿論、機体内部の配管経路を見直すことで増槽の装備を可能としている。
(着陸脚まわりの改良は史実と酷似しているな。まぁ、そらそうか)
史実でも、というか史実を踏まえて着陸脚まわりの改良を指示したのだが、興味深いことにその改良方法は史実とほぼ同じであった。
史実と同じ開発チームが同じ課題を与えられたら、史実と同様の結論にたどり着いたようだ。
一方のHe112も完成度が飛躍的にあがっている。
むしろ上がり幅でいうとこちらのほうが大きい。
半年前のトライアルでは機体重量過多などによりBf109 と比較してぱっとしない機体だったが、ぜい肉をそぎ落としたことで見違えるような性能の機体に仕上がっている。
もちろん増槽装備も対応しているし、なんなら当初から翼内兵装が可能な設計となっており現時点でもBf109より強武装だ。
基本的には速度最優先のBf109と総合性能のHe112という構図だが、BF109にとって売りであるはずの速度性能に関してもHe112に軍配があがってしまっている。
楕円翼を採用し運動性に長け、かつ涙滴型風防を採用して視界性能にも優れ、速度は同等。
これでは勝負にならない。
先程まで2機は模擬空戦を繰り広げていたのだが、当然として結果はHe112の圧勝。
試乗したルフトバッフェのパイロット達もHe112 を口々に推している。
(´・ω・`)
ふとシュミット博士の方をみるとこんな顔をしていた。
博士本人も認めざるを得ないほど性能に差が開いているのだ。
(`・ω・´)
ちなみに一方のハインケル社の面々はこんな顔である。
開発者の顔を見るだけでも、今回のトライアルの結果が透けて見えるというものである。
(うーん・・・・)
だが、それでも俺は結論を出せずにいた。
その理由は単純で、He112には実績がないのだ。
Bf109は良くも悪くも前世の実績がある。
着陸脚の改良と増槽の装備を可能にした目の前のBf109は少なくとも戦争中盤までは第一線機としてライヒの空を支えることが、『確実に』できるのだ。
それに対してHe112には前世の実績がない。
もしかしたらスピットファイアを圧倒して、紅茶紳士達を涙目にすることが出来るかもしれない。
だが、もしかしたら試作機では見えてこない問題が量産機では出てきたりして、まともに主力戦闘機の役目を果たせないかもしれない。
そうやって、転生者ゆえのジレンマに悩まされ沈黙を続ける俺を見かねてゲーリングが話しかけてきた。
「それで、閣下どうしましょうか。ルフトバッフェとしてはこうなった以上は前回のトライアルと異なる結論にならざるを得ませんが」
『これも閣下の慧眼ゆえですが』とさりげなくゴマをすりながら、結論を促してくる。
ふとウーデットなど他の将校を見わたすと、皆一様に『もう決め切ってくれ』といいたげな顔をしている。
(無理はないか・・・スピットファイアの情報も入ってきているしな)
この年の序盤に紅茶紳士達が次期主力戦闘機の開発に成功し、量産を開始するという情報がライヒにもたらされた。
全金属製の単葉低翼の高性能機という情報だ。
当然、ルフトバッフェは焦る。
『このままでは英国に突き放される』→『一刻も早く量産機の配備を』→『このトライアルでなんとしても制式採用を』
という方程式がルフトバッフェの面々の頭の中で組みあがっているのだ。
(実際、今回決めないとまずいわな)
おそらく既に史実よりも戦闘機の正式採用が遅れているはずだ。
正式採用の遅れは、開戦時の戦闘機配備数に直結してしまう。
このトライアルが最終期限なのは間違いないだろう。
「そうだな、ゲーリング。バイエルン社もハインケル社も実によく頑張ってくれた。両機とも実にすばらしい」
そう俺が口をひらくと、ハインケル社の面々は誇らしげに、バイエルン社の人間はシュミット博士をふくめほろ苦い顔になる。
「両機種とも主力戦闘機として採用したいところだが、それは国力上からも整備の観点からも難しい」
バイエルン社の面々の顔が一気に暗くなる。
「したがってHe112を主力戦闘機として採用し、Bf109は補助戦闘機として採用することとする」
「「「「やったー!!!!」」」」
バイエルン社の面々から歓声があがる。
その声はなぜか主力戦闘機として採用されたハインケル社の面々よりも大きなものであった。




