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4 ライヒのタイムリミット

沈黙が部屋を支配する。

部屋には5月の柔らかな光が窓から差し込んでいるが、中の雰囲気は柔らかと程遠かった。


俺の目の前で二人の大臣が顔を見合わせている。


(流石にいきなり過ぎたか?)


「すぐに答えが出んのなら後日の報告でも良い。経済省、財務省の見解を取りまとめて報告しろ」


無理に答えを迫り、いい加減な回答をされてはたまらん。


ライヒの経済がいつまでもつかのか。


その逆算で今後の戦略をたてる必要がある。


「いえ、おおよその目処はたっております」


そう口を開いたのはクロージク大臣だ。


「閣下の言葉が意外でしたので回答がおくれました。申し訳ございません。」


クロージク大臣の言葉を補足するようにシャハト大臣がそう言葉を続けた。


「我々の見解としては、現状のペースの財政支出を続けると1939年にはメフォ手形を含む政府債権の償還が行き詰まります」


そのまま一気にシャハト大臣が今後のライヒの経済展望を語る。


「そうなると、ライヒはマルクの増刷をせざるを得なくなります。メフォ手形は国内で流通しておりますのでデフォルトを避けれますが、そうなると著しいインフレは避けれんでしょうな。閣下が大量の金をライヒにもたらしたお陰で来年は乗り切れると思いますが、再来年には判断をする必要が出てきますぞ」


『軍事支出を落とせ』と言外に匂わせながらシャハト大臣はそういった。


(まぁ、そうなるか)


スペインの金でいくばくか楽になるとはいえ、そもそもの経済支出がいびつだ。

早晩の破綻が、少し先の破綻に延命されたくらいの違いしかない。


軍事支出なんてなんの生産性も国にもたらさない。

どんな無駄な高速道路でも戦艦よりかはよっぽど国の経済の為になる。


「そうだな、大臣。言いたいことは分かる。軍事支出を減らせと言いたいのだろう。」


俺がそう言うと、『まぁ、そうですな』とクロージク大臣がボソッと言う。


「だが、諸君らも分かっているだろう。今からの急な方針転換は無理なことは。」


『ですな』と、やはりクロージク大臣がボソッと相槌をうつ。


「シャハト大臣。クロージク大臣。これが一番肝となる質問だが、ライヒ経済を落ち込ませず政府財政を適正に戻すことは可能か?」


「・・・それはおそらく不可能ですな。政府債務による需要喚起によりライヒの経済は上向いておりますが、債務とは元気の前借りのようなもの。前借りした資金でインフラ投資を行えば英国のケインズ博士がのべるように経済発展がおこり、不況を構造的に脱したかもしれませんがライヒが行ったのは軍事投資です。ライヒ政府は過去の債務の返還分、新規支出は抑えねばなりませぬ。ライヒ経済全体としては落ち込みを経験することになるでしょうな」


『短期的で済むのか長期的になるのかは読めませんがな』とさらにクロージク大臣が付け加える。


(・・・なんか俺がいない間になんかあったのか?)


連携が取れているのかいないのか。

二人の大臣の何とも言えない空気感を感じる。


(まぁ、いい。喧嘩しないのはいいことだ)


とりあえず二人の微妙な空気はスルーしておく。


「そうなると、1939年までにライヒ国内を安定させて、不況で荒れることになる民意を抑えれるようにするか、他の手段を考えるかだな」


「・・・他の手段ですか」


『そんな便利な手段がありますかな?』とでも言いたげにシャハト大臣が問い返してくる。


「それはこっちの話だ。ライヒ経済の概要は理解した。あとは細かな点の報告があれば頼む」


シャハト大臣の質問は一旦無視して、そのまま他の報告がないか促す。


「では、鉄鉱石の輸入に関してですが・・・」


その後しばらく俺は二人の大臣から報告を受けるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


二人の大臣が部屋を後にしたのは、結局5月の太陽がかなり傾いてからだった。


二人が出ていきがらんとした部屋。


「はぁ・・・」


そんな部屋の中で俺は思わずため息をつく。


予想はしていたがやはりライヒの経済状況は市中経済、国家財政ともに厳しいものだった。


スペインの金もどうやら焼け石に水らしい。


うまく信用創造の種になるとかでレバレッジがきき、ライヒ経済を好転させてくれないか淡い期待をしていたのだが、うまくいかなかったようだ。


(と、なるとやはり取るべき道はブレーキではなくアクセルか)


スペインの金と財政緊縮の合わせ技でライヒ経済を軟着陸できるのならそれがベスト。


だが、その道が選べない以上ライヒがとりうる選択肢は多くない。


ヒムラーはあぁ言っているが、ちょび髭党のライヒ掌握など砂上の楼閣のようなもの。


ちょび髭党はここ10年ほどで頭角を現した基盤が薄い組織である。

民意という砂の上に築かれた非常に不安定なもの。


それを理解しているからこそ、ちょび髭党は分かりやすいスケープゴート(ユダヤ人)を用意して、さらにはゲシュタポを初めとする秘密警察でもって国内統制を図るのだ。


だが、その道のりはまだ途上。


ちょび髭党政府の方針修正に端を発する不況が発生しても、現状では抑えがきかないだろう。


(史実ルートか・・・)


軍事とは平時ではただの金食い虫でなんの生産性もない。


だが、軍事力を背景に実行できることもある。


自国にお金がないのなら、持ってるところと合併したらいいのだ。


(ほんとままならんな・・・)


強盗めいた発想の自分に思わず苦笑するのだった。









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― 新着の感想 ―
借金が返せないなら...踏み倒せしかないな... そして戦勝国になって、敵が返せる借金額出すしかない...
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