3 報告-2
「以上かな?諸君?」
俺は閣僚をぐるりと見渡す。
長方形のテーブルに腰掛けた面々は俺の言葉を聞いてホッとした顔を浮かべる。
ちょび髭総統得意の『演説』が今日はなかったことに安堵しているようだ。
ちなみにゲーリングやレーダー提督などを筆頭に、軍部の面々からも新兵器関連の報告がひとしきりあがってきたが『新兵器類は実際に現場を視察しに行く』と伝えた。
その際、必ずしも仲が良いわけではない彼らが一斉に顔を見合わせるあたりは思わず笑いそうになった。
『また無茶な方針転換をいわれたら堪らん』という空気がありありと出ている。
中でもゲーリングは口を開きかけていたが、俺の視線を感じると慌てて口を閉じた。
昨年末に俺が立て続けに各開発部署に落とした雷の記憶は未だにゲーリング達の脳裏に焼き付いているらしい。
(いや、別に無茶を言う気はないんだがな・・・)
技術や兵器の方向性の指示をする気ではあるが、それぞれの兵器開発の細部に口を突っ込む気はない。
突っ込む箇所があるとするなら生産性や実際の使い勝手の観点からにするつもりだ。
だが、俺の指示も未来からの視点のもの。
俺の指示に後押しされる者はいいだろうが、計画の修正を迫られる者からしたら相当理不尽に感じるだろう。
それに実際問題として現場で現物を見て、現状を把握しないと俺も自分自身の指示が的を得ているかどうかなんて分かりようがない。
「では、ほかに報告がないならこれにて閣議は終了とする。」
俺がそう言うと、『今日は平穏だったな』という顔をして、皆席から腰を浮かす。
「ただし予算関連の確認が必要だ。財務大臣、経済大臣は残るように」
腰を浮かした面々のうち二人が静かに腰をおろす。
そんな二人を横目に『お気の毒に・・・』という顔をして、クロージク大臣とシャハト大臣を残し他の閣僚達が退出していく。
「どうした、ヒムラー、ゲーリング、ゲッベルス?お前たちも早く退出しろ」
「い、いえ」
「出来ればわれらも」
そう言って粘るのはヒムラー、ゲッベルスだ。
ゲーリングも声こそあげていないものの、まだ部屋に残っている。
おそらく自分たちの知らないところで重要な話をされるのが嫌なのだろう。
(この辺が今のライヒ政治の難しさか・・・)
日本と比べたらある意味マシとはいうものの、ライヒの政治も相当不安定だ。
与党の立場にちょび髭党は立っているが、相当に血生臭いプロセスを経て今に至っている。
ナイフの夜などという内ゲバもまだまだ記憶に新しいところだ。
当然、少なくない人間から恨み妬みをかっている。
ちょび髭党の連中もその辺りは理解しており、自分たちの権勢維持に躍起になっているのだ。
そしてややこしいことに3バカトリオをはじめとして党内部でも権力争いを繰り広げている。
そんな感じだからちょび髭総統が他の閣僚とどんなことを話すのかは気になって仕方ないところだろう。
(だが、奴らがいては冷静に話が出来ない話題もあるからな)
「なんだ、私はハッキリ言ったはずだが?それとも、予算関連で言いたいことでもあるのかね?」
「「わかりました・・・」」
そういうと渋々3人には部屋から出て行った。
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「さて、シャハト大臣、クロージク大臣。実際のところライヒの経済とライヒ政府の財政状況はいかがかね?」
3バカトリオが退出してから俺はしばらく間をとって二人に話しかけた。
俺の言葉に二人は顔を見合わせる。
「これはこれは閣下・・・。そうですな。閣下のおかげでライヒは相当な量の金を手にいれました。しかしながら・・・。」
言いにくそうに話し始めたのはシャハト大臣だ。
「そうか・・・。やはりマルク安は止められんか」
「・・・残念ながら。確かにライヒの金保有量は増えましたが、これは公表できない金です。金準備額が増大したことをあからさまに公表すれば、諸外国から厳しい追及を受けることになるでしょう。」
『既にノイラート大臣の恨み節が聞こえてきますがな』と肩をすくめながらシャハト大臣がそう語る。
(まぁ、そうなるか)
俺はスペイン内戦の混乱に乗じ、カルタヘナ強襲作戦を実行させて大量の金を手にいれることに成功した。
実にライヒ国家予算の10パーセントにも相当する膨大な量だ。
膨大な量ではあるが、これを単に換金するだけだと今のライヒの状況だと焼石に水に過ぎない。
出来れば、マクロ経済事態に影響を及ぼすよう信用創造の種として使いたかったのだ。
例えば、シンプルな話だがマルクを2倍現状より高い水準に保つことが出来れば2倍の数量の物資を輸入することだ出来る。
輸出には勿論不利になるがそもそも今の世界はブロック経済の真っただ中である。
通貨安で輸出財の価格を抑えれたところで関税を高く設定されるだけだ。
それにそもそも軍需産業という何らの生産性のない分野にライヒは多くのリソースを割いている。
兵器は急速に充実していっているが、それに圧迫され民需品の生産は国内需要すら十分に賄えていないのだ。
輸出しようにもそもそも余剰な財を生産出来ていない。
不足する原材料や食料品などを輸入したいライヒにとって今はライヒ高こそ望ましい。
だが、通貨の価値というのは貿易による需給の具合と、その国家への信用度に大きく左右される。
輸入超過かつ金準備が乏しいライヒはマルク高とは程遠い立ち位置となってしまっている。
(と、なると問題は・・・)
「シャハト大臣。クロージク大臣。君たちの見解を聞きたい。今のレベルの財政支出でライヒ経済と政府財政はいつまでもつかね?」
俺はライヒのタイムリミットを二人に尋ねるのだった。




