37 ちょび髭と下町
(うーん、どちらかと言うと明石焼きに近いか・・・?!)
俺は聞きなれた見慣れない食べ物を目を白黒させながら食べている。
他の随行員達も俺とは違う理由で目を白黒させながら食べている。
「いかがですか閣下。これが大阪で流行りつつある『たこ焼き』というのもです。お口にあいますでしょうか?」
市長が不安げな目をしながら俺に話しかける。
「そうですな。出汁がきいていて美味しいですな。中の『タコ』という具もコリコリしているがプニプニしていて不思議な食感ですな。」
『いやぁ、でも美味しいですね』などと呟きながら俺は球状の食べ物をパクパクほおばる。
ちなみに随行員達は『タコってなんだ?!』などと言い合いながらタコ焼きを慎重に頬張っている。
(タコの姿を知ったら驚くだろうな)
スマホなんてないのがこの時代だ。
聞いた事がない食材が出てきても、どこかで図鑑でも開かない限りその正体を知る事なんて出来ない。
(これに関してはマジですまん)
日本の食事に関しては当然食べれるが、基本的に俺は食に対しては保守派だ。
パクチーとか、魚醬とかエスニック料理とかは前世でも出来るだけ避けるようにしてきた。
だからこそ、必死にトップと同じものを食べる彼らには同情を禁じ得ない。
聞いた事もない者を食べる羽目になった随行員達に俺は心の中で合掌する。
「流石は総統閣下ですね。タコを気にせず食べられるとは・・・。いかがですか大阪の下町は?」
俺は大阪砲兵工廠からほど近い下町に来ていた。
『市民の生の生活を視察したい』などと理屈をつけ、工廠近くのプチ繁華街に足を伸ばすことになったのだ。
勿論外務省の人間はライヒ側も日本側も双方相当いやがったが、『うわべの視察をしてどうする!等身大の姿をとらえようとせずなんとする!』と雷を落とし、視察の実現にこぎ着けたのだ。
そして、下町の人間の暮らしぶりの紹介の中で『たこ焼き』が出てきた次第だ。
だが、出てきたたこ焼きにはソースもマヨネーズも何もかかっておらず、明石焼きのような外見をしている。
(これはこれで美味しいが・・・あの味を食べれることを期待しただけに残念だな・・・)
ソースは大阪人の故郷の味である。
(※作者の偏見あり)
この下町視察を通じて故郷の味を味わえると期待していただけに非常に残念だ。
「そうですな。水路が張り巡らされた独特な街並みをされてますな。東洋のベネツィアとは伊達ではないですな」
などと、市長に言葉を返すが、内心気もそぞろである。
(間違いない。ここは俺の生家の近くだ)
期待していなかったと言えばウソになる。
大阪砲兵工廠近くの下町となると、さほど候補は多くない。
その候補の筆頭に近い立ち位置に俺の生家があった下町はあった。
市長の話しや、随行員達の話に適当に相槌を打ちながらも俺は必死に頭の中の地図を広げる。
(未来では埋め立てられた水路がまだあったり、大通りのはずがまだ拡幅前で道が狭かったりはするが・・・)
俺の幼少期の頃の記憶からさらに40年も前の街並みだ。
だが、それでも随所に未来の面影があり俺に望郷の心を沸き立たせる。
そしてつぶさに街並みを観察する俺はとうとう発見した。
(あれが・・・多分そうだ)
俺の親父の実家は田んぼの小作人だったが、母親の実家は大通り沿いでタバコ屋を営んでいた。
俺が物心ついた時にはすでに店はたたんでいたが、店の場所自体は親からよくきいていたし何度も前を通ったことがある。
大通りを挟んで反対側で慎ましく営業するタバコ屋。
あれこそが中島勝の祖母が営む店に違いなかった。
「総統閣下、どうかなさいましたか?」
黙ってタバコ屋を見る俺を訝しく思ったのだろう、随行員が声をかけてくる。
(覗いてみたい気もするが・・・)
タイムパラドックスというワードがふと頭をよぎる。
俺がもしここでタバコ屋を訪ねて、祖母にあってしまったら俺は蒸発して消えてしまうかもしれない。
(まぁ、タイムパラドックスはおそらくこの世界線では関係ないだろう。)
もしタイムパラドックスがこの世界線にも適応されるなら俺はとっくに蒸発していることだろう。
戦争の行方を変えるべく派手に動いているのだ。
前世では死ぬ筈だった者が生き残るといったこともあるだろう。
そしてその逆もあるだろう。
(そういや、祖父は中国戦線に出征したと言っていたな)
そんな事をふと思いだす。
祖父は決して中国での事を話さなかった。
母親にも話さなかったし、孫の俺にも何も話さなかった。
(今世ではどこの戦線に送られるのだろうか・・・)
祖父は陸軍の軍人だったと聞いている。
今世での戦争でも、どこかの戦線に送られるのは間違いないだろう。
もしかしたら、どこか南方の島で命を落とすことになるかもしれない。
(・・・これが過去を変えるということか)
俺はちっぽけなタバコ屋を見つめながら、そんな事を考える。
「閣下・・・?」
黙りこくる俺を不審に思ったのか市長までも声をかけてくる。
「いや、少し味が足りないかとおもいましてな。甘しょっぱいソースとマヨネーズなどかけてみてはいかがですかな?魚の削り節などをかけても美味しいかもしれませんな」
黙り込んでいたことの気まずさを紛らわすために、俺は気付けばそんなことを口走っていたのだった。
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この世界線の大阪でたこ焼きの『ソースとマヨネーズかけ』のセットが総統セットと通の中でいわれるようになるのは、また別の話である。




