36 軽戦車と中戦車
「なるほど!実に素晴らしい!被弾時のダメージコントロールや燃費を考慮したディーゼルエンジンの採用!使用目的にあった装甲と攻撃の選定!実にお見事ですな!」
俺がチハたん(97式中戦車)の卵をべた褒めすると、帝国陸軍の技官や将校の顔が一斉にゆるむ。
押しも押されぬ大陸軍国の指導者に絶賛されたことが嬉しかったのだろう。
『ほら、俺が言った通りだろう』的な事を技官に話す将校すらいた。
だが、俺の次の一言で帝国陸軍の表情が凍りつくのだった。
「実に素晴らしい『軽戦車』だ!いやぁ、こんな素晴らしい『軽戦車』をおつくりになる貴国のことだ、さぞ図晴らしい中戦車もおつくりになる事でしょうな!」
「け、軽戦車・・・ですか?」
たまらずといった形で将校のうちの一人が声をあげる。
「ん?これは歩兵直掩用の軽戦車なのだろう?島嶼部や中国大陸などのインフラ整備が未発達な地域で対軽歩兵用途で使用する戦車ではないのかね?」
「・・・」
俺のあまりに純粋(もちろん確信犯)な感想に声をあげた将校も沈黙する。
「閣下、日本側にも明かせる部分とそうではない部分があるのでは?」
狼狽する日本側を見かねたライヒの随行員が助け舟をだす。
「確かにそうですな。いや、失礼した。もちろん貴国も明かせる情報、明かせない情報はありますわな!いやぁ、しかし残念だ。出来れば貴国の中戦車も拝見したかったものだ!ソヴィエトを仮想敵国とする帝国陸軍の回答を是非拝見したかったのですがな!」
『いやぁ、残念。残念』と大げさな身振りで話す俺に対し、帝国陸軍一同は完全に固まってしまっている。
「あの、できれば貴国の回答をお聞かせ頂く事は出来ますでしょうか?」
そんなフリーズを起こした帝国陸軍一同だが、その中の若い技官が声をあげる。
『馬鹿者!』としかりつけるような顔を他の将校や技官がその技官に一斉にむける。
おそらく本来この場での発言が許される様な立場の人間ではないのだろう。
(だが、絶好のアシストだぞ名もなき技官)
これ幸いとばかりに俺は口をひらいた。
「そうですな、同盟国とはいえ軍機につき詳細は言えぬがコンセプトだけはお伝えしよう。」
「ありがとうございます!」
そう言うと技官はメモ帳を上着から取り出した。
それを見て、他の技官達や若手の将校も一斉にメモ帳を手にしだす。
(・・・さすがは技術屋たちだな)
遠慮なくメモを取り出す将校や技官達に少し圧倒されるものも感じつつ俺は言葉を続ける。
「戦車は走攻守のバランスをどう取るのか、そして質と数のいずれを取るのか。それが戦車に限らず兵器開発を行う際は肝要というのは、ここにいるあなた方もプロとしてよくご存知のことだろう。」
そう、俺が話し出すと一同が一斉に首肯する。
「そこのバランスの取り方は各国の技術的基盤や、生産力により最適解は異なる。だが戦車開発を行う上で最も重要な事は共通している。それは敵戦車の装甲を貫通できる事だ。特に対戦車戦闘をになう中戦車にとってそれは死活問題のスペックと言えるであろうな。」
俺の言葉をきいて、何人かの将校がうつむく。
「・・・その点からするとこの試作戦車は閣下から見ると失格でしょうか?」
若い技官が恐る恐るといった形で口を挟む。
一歩間違えなくとも、試作戦車を全否定する事に繋がりかねないため限りなく慎重な口ぶりである。
「失格とまではいわんが、ソヴィエトの戦車と戦うのであれば恐らくその短砲身砲では攻撃力不足に陥るでしょうな。最低では長砲身の47mmあたりが必要なのではないですかな?」
『長砲身47mmか・・・』と『それでは支援射撃能力が・・・』とかざわつく一同を一旦スルーして、俺はさらに言葉を重ねる。
「現在のエンジンや懸架装置等の技術の進展などを考えると、早晩20トン級30トン級の戦車が出てくるでしょうな。そういった戦車と戦うとなると数年内に長砲身75mm砲クラスの攻撃力が求められるのではないですかな?」
「75mm・・・ですか・・・」
聞いていた帝国陸軍一同の誰ともなくうめき声をもらす。
47mmと75mmでは全くサイズが異なる。
47mmだとチハたんにも載せれるが、75mmとなると戦車として載せることはままならないだろう。
技官によっては『75mm搭載だと・・・車両重量は・・・』などとメモ帳片手に何やら計算している者までいる。
(俺に言えるのはここまでかな・・・)
あまりここで傾斜装甲がどうとか、駆逐戦車がどうとか言ってしまうとまわりまわってライヒの首を絞めかねない。
チハたんには申し訳ないが、ライヒのことを考えるとあまり帝国陸軍にヒントを与えすぎるのも良くないだろう。
(新砲塔チハたんがデフォルトになってくれれば、それで当分は十分だろう。それに・・・だ)
ライヒの指導者そっちのけでざわつく帝国陸軍の技官達を眺める。
大まかなコンセプトを与えられた日本人技術者の冴えはすごい。
(こちらからこれ以上のヒントを出さずとも、彼らなりの結論を導きだすだろう)
どこか確信めいたものを感じつつ、俺は大阪砲兵工廠の見学を再開するのだった。




