32 ちょび髭総統と晩餐会-1
(これだ!これが食べたかったんだ!)
俺は随行員がドン引きする中、寿司を頬張っていた。
(流石、国賓に出すだけのことがある)
出された寿司は素晴らしい出来だった。
前世で普通のサラリーマンだった俺は、いわゆる回る寿司しか食べたことがない。
あれはあれで美味しいもので、不満を覚えたことはなかった。
が、今食べているものと比べると見劣りがするのは否めないだろう。
(米は前世の方が美味しい気がするが・・・ネタの旨さが全く違うな)
品種改良が繰り返された前世の米と、この時代の米とでは食感が違う。
プロ中のプロが炊いてくれているシャリだとは思うが、こういった細かいところでも未来の日本が先人の汗の結晶の上に築かれていたことを実感する。
「お寿司がお気に召したようですね、ちょび髭総統」
「えぇ、ライヒにはない食文化ですが非常に美味しいです。海の幸に恵まれた陛下のお国だからこその一品ですね」
「そういってもらえると嬉しい限りですね。しかし、日本食を晩餐会の品書に要望されたお聞きしたときは驚きました。」
『実際にお会いしたらお箸まで使いこなしておられてさらに驚きましたよ』と、ニコニコと語りかけて頂くのは天皇陛下である。
俺は、陛下に招かれ宮中晩餐会に参加しているのだった。
俺は、かつて無いほど今緊張している。
俺は転生してから多くの人物と会食をしてきた。
その中には、マンシュタインやグデーリアンといった後世にその名を轟かす将軍もいたし、ファシズムの生みの親であるドゥーチェことムッソリーニとも盃を交わしたほどだ。
(だが、やはり天皇陛下との会食は、俺にとって全然意味が違うな)
日本人にとって、天皇陛下とは特別な存在だ。
転生してライヒの人間になったとはいえ、俺にとってもそれは変わらない。
それに心理的な意味だけでなく、転生的な意味でも天皇陛下との会食は特別な意味がある。
前世でテレビ越しとはいえ、姿を見たことがある人物に俺は初めてお会いしているのだ。
過去に転生してきたということを改めて実感するのだ。
俺が前世でテレビ越しに見たことある陛下はすでに歳を召されたお姿だったが、目の前に座っておられる陛下は30代の若々しいお姿だ。
(お若いせいか生でお会いしているせいか分からないが、テレビ越しと違って何か覇気のようなものを感じるな)
前世で俺が知る陛下は象徴天皇として、陛下。
それに対して目の前の陛下は国家元首にして陸海軍の総帥たる陛下。
実際に軍の指揮の指揮をされたり、積極的に政治に関わったりはこの世界でもされていないのだろうが、それでも漏れ出る覇気のようなものを俺は感じてしまう。
(もっとも、俺はさほど歓迎はされていないようだがな)
ニコニコと気さくに話しかけてくださる陛下だが、俺はおそらく歓迎されていない。
昨年、俺と同じく国賓待遇で満洲国皇帝溥儀が訪日した際は陛下自ら東京駅まで迎えに行かれたらしい。
だが、今回俺のときはなかった。
そして宿泊場所に関しても、赤坂離宮などの皇宮施設の斡旋はなかったらしい。
(ちょび髭総統としては残念だが、中島勝としては陛下のご判断の正しさを嬉しく思ってしまうな)
実際、ライヒの随行員や大使館員の中には『無礼な!』と憤る者もいたが、自分の危険人物度合いを自覚する俺としては、陛下のご認識の正しさに尊敬の念を覚えても、怒りの感情など出てくる訳もなかった。
「こうして折角東洋の友人のもとに来れたのです。貴国の文化を堪能させて頂こうと思いましてな。いやぁ、本当に素晴らしい!生で食べる魚がこんなに美味しいとは!この黒い液体、醤油と言いましたかな?これがまた素晴らしい!是非ともライヒでも作りたいものです!」
『いやぁ、食文化についてはライヒの完敗ですな!』『それでしたら醤油や日本酒など、ライヒ行きを希望する職人がいないか聞いてみましょう』などと、日本の食文化について俺は陛下と和やかな会話をするのだった。
ちなみにこの間、ライヒからの随行員はドンびいている。
『生魚食べるってマジかよ?!』と、かなりひいている。
だが、リーダーのちょび髭総統が絶賛しながら食べているのだ。
全員相当無理しながらではあるが、なんとか食べていた。
(なんか、流石にスマン・・・)
一応、彼らには俺と同じメニューに無理にしなくともいいと伝えてはいたのだが、彼らも言ってみれば公務員である。
『総統閣下が食べるものが食べれない』なんていう失点は避けようと皆俺と同じく日本食を用意してもらうこととなった。
(別に失点ではないのだがな・・・)
こういった所は組織人の悲しき性であろう。
なお、日本側も普通にひいている。
普通に箸を使いこなし、西洋人からすると抵抗があるはずの魚の生食を軽くこなし、日本酒を『旨い旨い!』と言いながら堪能するちょび髭総統。
未来のようにグローバル化が進んでいない時代である。
東洋と西洋とはほぼ異世界にも等しく、そんな異世界の食文化を躊躇なく味わうちょび髭総統は、感心の域を通り越して、もはや怖いもの扱いである。
「ちょび髭総統、では早速担当のものに貴国行きを希望する職人がいないか探させようと思いますが、貴国では日本人を快く受け入れてくれるのですか?」
陛下は俺の目をまっすぐにみて、そう問いかけてこられた。




