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28 ちょび髭総統とアポなし客


(ふーんこれが、ご本人か)


俺は目の前の坊主頭の男をまじまじと見た。


いつもはカーキ色の軍服を着こなしているであろう彼は、今日は地味な洋服を着ている。

ちょび髭総統である俺に臆することなく、むしろどこか不敵な笑みすら浮かべているように見える。


(流石の胆力といったところか)


本来、この男との会談は予定していなかった。

この時期日本本土にいるという認識が俺にはなかったし、彼が前世で為したことを考えると交流をもつこと自体にリスクがあると考えたからだ。


(だが、こうしてリスク自ら勝手にこっちを訪ねてきたわけだ)


ちょび髭総統の訪日というのは、俺にとってもチャンスだが一部の日本の人間にとっても一大チャンスである。

このチャンスを逃すまいと、突撃をかまして来たのが目の前の男である。


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ことの発端は一日前にさかのぼる。


首脳会談を終えたのち、駐日独逸大使館で俺は駐日大使と打ち合わせをしていた。

ライヒが求める技術と、日本へ提供できる技術の内容をすり合わせを行っていたのだ。


打ち合わせも佳境となり、コーヒーの給仕を頼んでいたりもしたのだが、そのタイミングで困り切った顔の職員が給仕と共に部屋に入ってきた。


ちょび髭総統と大使の打ち合わせを邪魔は出来ないが、なんとか至急に大使と相談したい事項があるらしい。


「かくかくしかじか・・・」


職員が俺の目を気にしながら、小声で大使に耳打ちしている。


(ん?俺関係か?)


耳打ちする職員がチラチラと俺の方を見ている。

よく耳をすますと、『通常だと追い返すのですが』とか『良い回答をもらうまで門から動かんとおっしゃっており』など、いささか物騒なワードが飛び交っている。

職員は完全な板挟み状態になっているようで、完全に眉がㇵの字になってしまっている。


(助け舟を出してやるか)


ちょび髭である俺が、大使の頭越しに職員に声をかけるのは気が引けたが、サラリーマンであった中島勝からするとその職員の立場が気の毒に思えたのだ。


「何やら騒がしいが、何かあったのかね?」


ちょび髭に話しかけられた職員がビクッとなる。

ついでに大使もビクッとなる。


「い、いえ。大した事ではございません。閣下とお話をしたいと押しかけて来た者がいたようでして。なかなか弁が立つ者なようで、係の者が言いくるめられてしまったようなのです・・。部下がお騒がせして申し訳ございません。直に追い返します。」


「そうか、一々話を聞いていては埒があか・・・。いや、ちょっと待て大使。その男弁が立つといったが、独逸語で話したのか?」


大使はイレギュラーな訪問者を追い返すよう指示を出そうとするが、それに俺は口を挟んだ。

そんな突然の訪問者など、普通相手にしてなどいられない。

こちらも遊びで訪日しているわけではない。(趣味が混ざっているのは否定できないが!)

そんなアポなし突撃してくる人間に割く時間などないし、そもそも身元が確かでない人間とおいそれと会える訳がない。


そこそこ世界中から嫌われている自覚が俺にもある。

俺の暗殺を企んでいる人間なんて沢山いるだろう。


だから、『追い返す』という大使の判断に異論があった訳ではないのだが、その者が流ちょうに独逸語を話すということに少しだけ興味が引かれた。


「はい、なかなか流暢な独逸語でございました。」


なにか意を決した表情で職員が答える。

ちょび髭総統に話しかけるにはかなりの覚悟が必要だったらしい。


「ほう、となるとライヒへの留学か駐在経験がある訳か。医者か軍人かなにかかもしれませんな」


大使は『ライヒを留学先に選ぶとは曲者のくせに良い見識だ』などと呑気にそんな事を言った。


(森鷗外かな?いや、あの人はもう亡くなっていたな)


いったい誰だろうなんて考えながら給仕が出してくれたコーヒーを一口、口に含む。

苦さの裏に酸味がうっすら感じられる深入りの豆と、濃厚な甘さの生クリームが口の中でまざりあう。


流石は大使館とだけあっていい豆を置いている。


ちなみに俺はウィーナーコーヒーが好きで、打ち合わせ後や会議中の休憩などでそれを頼むことが多い。

たっぷりと生クリームをのせたウィーナーコーヒーは、カフェインで頭の覚醒と、糖分での栄養補給を同時にしてくれる気がする。


そんな俺の趣向の情報をどこで仕入れてきたのか、給仕が俺の目の前においたのは生クリームがたっぷりとのった俺好みの一品だった。


思わず顔がほころぶ俺を見て部屋の空気が弛緩する。


「ちなみに君、その者は名を名乗っているのかね?」


そんな中、もののついでといった雰囲気で大使が職員に尋ねた。


「えーと、はい。カンジイシワラと名乗っております。しがない臣民と自らの事を言っております。」


と、なんのてらいもなく職員がそう言い放った。


ブーーッ


ちょび髭総統が口に含んだコーヒーを噴きだす音が、部屋に響くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(おかげで恥をかいたわ!)


その時の事を思い出し、目の前の男に八つ当たり気味に怒りを覚える。


そんなことをつゆ知らず、その男は口をひらいた。


「お初にお目にかかる。ちょび髭総統閣下。石原莞爾と申します。」


こうして、ちょび髭総統と『満洲国の生みの親にして、戦前日本軍国主義のフィクサー』石原莞爾との対談が始まったのだった。





ウィーナーコーヒーって美味しいですよね。

筆者も大好きです。

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― 新着の感想 ―
有名人、(押しかけて)来たァァァァ( ̄^ ̄)ゞ ちょびヒゲ「おいおい( T_T)\(^-^ )」
石原莞爾か、東京裁判での判事とのやり取りは爽快だったな。
分かります、、大好物飲んでリラックスしてるところにあらゆる意味で大物な人が予期せず来たらそうなりますよね、、しかしちょび髭さんコントみたいなことしたので日本の人に親近感持たれたかな?(合唱 私も生ク…
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