26 技術交流
首相との実りの無い会談を終わらせた俺は、駐日独逸大使館へともどっていた。
(時期が悪かったのか・・・?いや、でも今しか来れるタイミングは無かったしなぁ)
本当は、対中国戦略の確認などを行いたかったのだがそれは叶わなかった。
(と、言うよりは交渉するチャンネルが違うといったところか・・・)
前世の常識に引きずられる形で首脳会談に臨んだが、成果は今一つだった。
こんなことなら日本ではなく満州に行くべきだったかとすら思う。
満州にはこの時期、岸信介や石原莞爾などがいるはずだ。
良くも悪くも、この時代の日本を動かしていたのは彼ら軍人や官僚である。(軍人も広義では官僚と言えるだろうが)
政治家は2.26事件の影響もあり、国家を主導するだけの影響力を失いつつあるようだ。
(ただなぁ、俺が軍人や官僚と話をしたら日本の軍国主義は悪化するんだろうなぁ)
堕ちたとはいえ、依然としてライヒはヨーロッパの大国である。
そんな大国の指導者が政治家を無視して軍人や官僚と直接話をしたらますます政治家の権威は失墜することになるだろう。
(祖国が軍国主義に染まるのはあまり見たく無いが・・・)
前世の民主主義国家日本国を知っている身からすると、何となく軍国主義には抵抗がある。
というか、軍人が政治を左右するようでは国がおかしくなるだろう。
軍事は外交の選択肢であって、断じて逆ではない。
(とはいえこうも政治が無力だと仕方ないか)
大日本帝国に史実の通り迷走されるとこちらも困る。
日中戦争などという泥沼だけは断じて避けてもらわないと困る。
その為には日本の軍国主義を助長するのを覚悟の上で、帝国陸軍の面々と会談の場を設けるべきかもしれない。
そうやって物思いにふける俺に大使が声をかけてくる。
「閣下、目録を拝見いたしましたがいささかこれはやりすぎでは無いでしょうか?ライヒが提供する技術と日本が提供する技術は釣り合っていないと思いますが」
大使は俺が渡した技術交流に関する目録を見ながら難しい顔をしている。
「大使、我々は友好国だ。そして同盟国になろうとしている。東洋の友人に多少の支援をしてやってもいいだろう。」
あえて偉そうに俺はそう言ってやる。
この当時のライヒの人間は日本のことなんてまかり間違っても対等だなんて思っていない。
ライヒの人間を説得するにはこれくらいのスタンスでいかなければならない。
「それにだな大使、色々調べてみたがこの国はやはり面白いぞ。確かに多くの点でこの国は遅れているが、独特な技術がたくさんある。こういった技術は未来への種となるのだ」
自信満々の顔でそう言い放ってやる。
「は、はぁ・・・」
だがそうまで言っても大使の顔色は晴れない。
そして本国を遠く離れているせいか反応もどこか反抗的だ。
(まぁ、仕方ないと言えば仕方ないがな)
未来技術の種というのは未来人たる俺だから分かることだ。
普通の人間からしたらものになるかどうかも不確かなものにすぎない。
1937年を生きる人間にはライヒからの技術供与の方が大きいと見えることだろう。
俺は改めて自分の作った目録に目を落とす。
カモフラージュの為に、空母の設計図とか細かいもの他にもあるが、主だったものをピックアップするとこうなる。
ライヒが引き渡せる技術
・人造石油の製造技術
・工作機械の輸出
・DB601のライセンス生産許可
・高周波対応真空管の製造指導
ライヒが日本に要求する技術
・電波産業技術者のライヒへの派遣
・航空魚雷(91式航空魚雷)の技術供与
・矮性小麦(農林10号)の種の供与
ライヒが日本に提供するのは最先端も最先端の技術。
DB601など昨年ようやく実用機が完成したといったレベルだ。
人造石油の技術なども日本が切望して止まない技術である。
それに対し、ライヒが日本に求めるのは航空魚雷を別にすればパッと見では『そんなの役に立つの?』と思えるものばかりだ。
航空魚雷はルフトバッフェにとっての完全な死角。
対フランスでの地上支援が主目的のルフトバッフェにとって、対艦攻撃装備は現状優先度が高くない。
その死角を寝ても覚めても魚雷にこだわり抜いた帝国海軍に教えを乞うことは、誰がどう見ても合理的だろう。
(『気が早く無いですか?閣下?!』とゲーリングに言われそうだがな。)
そこまで思ったところで雷撃訓練を行うように伝えた後のゲーリングの反応が頭をよぎり思わず苦笑する。
俺にとっては合理的なのだが、フランスに勝った後のことを考える俺は今の時代の人間からすると不合理なのかもしれない。
(そのことを忘れるとライヒ内での調整で思わぬ躓きをするかもしれんな)
ついつい未来人の思考をしてしまう自分に少し呆れてしまう。
(航空魚雷はまだしも、後者二つの理解を得るのは本当に大変かもしれんな)
電波産業はライヒがラジオの量産に邁進していることを考えると『んー、まぁそうなのかな?』とまだ説明がつくだろうが、小麦の種に関しては『は?』の一言しか出ないだろう。
(だが、この2つが本丸なんだよな)
前者の電波産業の技術者招聘で狙うのは、今更いうまでも無いがマグネトロンの会得だ。
これがあればレーダー技術でライヒが英米に遅れをとることは無くなるだろう。
後者の小麦の種。
上手くすると、戦争の発生すら止められるかもしれない切り札。
農林10号の種、これは文字通り未来への種となる。
(ある意味、これこそが本命中の本命と言うべきだろうな)
この農林10号は広くは知られていないが、間違いなく前世世界での戦後の経済発展を支えた立役者なのだ。
なぜ第1次大戦と第2次大戦の戦後復興が全く異なる道を辿ったのか。
その答えの一つは紛れもなく農林10号にある。
教科書では第1次大戦の反省をふまえ、苛烈な賠償を敗戦国に課さなかったのが要因とか謳っているがそれは小さな要因に過ぎない。
むしろ、なぜ苛烈な賠償を課さなくとも戦勝国の国民が納得出来たのか?
そこにフォーカスすべきだろう。
ソ連という強大な仮想敵が西側世界にいたせいで敗戦国を早急に味方にしなければならなかったという外交的要因が一つ。
そしてもう一つはほぼ全ての国が絶対的な意味での経済発展を遂げたからだ。
「〇〇の奇跡」と名のつく経済発展が戦後世界には溢れている。
直接的にはそれぞれの国の様々な事情があるが、全世界的に言えるのは戦争による技術革新の恩恵と、原材料価格の下落だろう。
世界単位でマクロ的に有利な環境が整っていたのだ。
そして原材料価格の下落というのは、中東での大規模産油の開始と『緑の革命』がその立役者の筆頭をいくのだ。
(『緑の革命』を今の時代にライヒで起こせれば戦争を止めることができるかもしれない)
この時代のゲームチェンジャーになりうる農林10号に俺は期待を寄せるのだった。
お待たせいたしました。
平日全く執筆できず更新できませんでした。
休日は・・・・
すいません、HOI4やってました。
この作品を読んで頂いている読者の皆様でしたらご存知かと思いますが、時間泥棒のゲームでして・・・




