24 ちょび髭総統と首脳会談-1
「こちらが帝国議会議事堂になります」
そうどこか自慢げに説明するのは外務省から派遣された案内人だ。
「ほう、これはこれは素晴らしいものですな」
俺は、昨日の到着から一晩明けて霞ヶ関に案内されていた。
俺も案内してくれる外務省の担当者の説明で初めて知ったのだが、国会議事堂(帝国議会議事堂)は去年の11月に完成したところらしい。
残念ながら(?)俺は初見では無いのだが、それでもやはり石材を多用し圧倒的な重厚感を醸し出す建物に深い感慨を覚えざるを得ない。
当時の日本の建築技術と建築資材の粋を結集して建てられた国会議事堂はまさしく日本の誇りとでも言うべきものだった。
(説明する外務省の担当者の顔が誇らしげなのも無理ないな)
前世での俺は建物マニアでも何でもなかったが、流石に国会議事堂はテレビでもよく目にしていたし、実際に見学したこともある。
(今回は議事堂の中にまで、それも衆議院本会議場にまで入る訳だが)
今回の訪日で俺は、廣田首相との会談、国会での演説、そして天皇陛下への謁見が主なスケジュールとして組まれていた。
通常、天皇陛下への挨拶が真っ先に来るような気がするが、今回の訪日ではメインのスケジュールの中では後の方に組まれていた。
(ちょび髭総統ということで警戒されているのかもしれないな)
この時代の危険分子筆頭の自覚は俺にもある。
まずは、首相などが会談をし様子を確かめるというのは、自然な流れのようにも思えた。
そんな俺の内心はつゆ知らず、外務省の担当者は引き続き説明を続ける。
「この帝国議会議事堂は、まさに帝国の粋を結集しており、建築技術もさることながら建築資材も日本全国から最高のものを取り寄せております」
あまりに自慢げに解説するので、俺の中のイタズラ心がムクムクと鎌首をもたげてしまう。
「ほう、それはそれは素晴らしい。確か床の大理石は秩父という場所で取れる珍しいものを使用しているらしいですな。拝見するのが楽しみですな」
そう俺は担当者に答えた。
俺が話す、ドイツ語に突如日本の地名が混ざったことに担当者は困惑する。
※ちなみに俺は山本次官との会談から日本語を封印している。ライヒの随行員からあまりに不評だった為だ。
どうやらこの担当者は国会議事堂にそこまで詳しくなかったようだ。
『イタズラ失敗か?』とちょっと残念な気持ちにもなったが、担当者が別の日本の随員に相談したところ顔色が一変する。
「・・・そこまで、帝国についてご存じ頂いておられるとは、いち帝国人としてとても感激いたします」
どうにか担当者はその言葉を絞り出す。
つい数ヶ月前に完成した国会議事堂についてもどこからともなく情報を入手しているちょび髭総統に絶句してしまっているようだった。
(こちとら転生チートもなしに転生したんだ、すまんがこれ位の楽しみは見逃してくれ)
俺は絶句してしまっている担当者に心の中で静かに合掌する。
そうやって俺が日本の外務省の人間で遊んでいる間に、車は永田町の首相官邸に到着した。
(これが旧首相官邸か懐かしいな)
前世での首相官邸は平成後期に建て替えがされており、俺が晩年にテレビで見る首相官邸はガラス張りの新官邸であった。
前世で若い頃によく見かけた首相官邸に懐かしさを覚えた。
そんな懐かしさをちょび髭総統が感じていることなどつゆ知らず、廣田首相が俺を出迎えてくれた。
「ようこそ、ちょび髭総統。遠路はるばるのお越しありがとうございます。」
「廣田首相わざわざの出迎え痛み入る。なんの、極東の友人を直に見たいと我儘を言ったのはこちらのほうです。」
そんな無難な会話をしながら俺は首相官邸の貴賓室に案内される。
そして、貴賓室についても引き続き無難な外交辞令の会話にしばらく終始する。
その辺りの会話は、流石外務省あがりの廣田首相。
結構、軽妙であり様々な話題を適度に振ってくれ、気まずさを感じる瞬間はなかった。
(どうしたものかね。)
俺は通訳に話しかける廣田首相を見て迷う。
正直、廣田首相に対しての事前情報はない。
前世で俺は残念ながら歴史学者などではなく、ただのいわゆるミリオタだった。
外務省出身の廣田首相など全く知らない。
ライヒの外務省からレクチャーされた表面的な情報しか俺の頭の中には入っていない。
「ときに総統閣下。中国では貴国の将軍が恥ずべきテロリズムの阻止に一役果たしたそうですね」
意外な事に、外交辞令を終わらせたのは廣田首相だった。
(いや、意外という意識が出るのはよくないな)
歴史上そこまでビッグネームではなかったが、通り一遍等な人間がこの難局に首相の任を受け入れる訳がない。
どうも前世の知識に流され、俺にはこちらの世界の人間を前世での知識の枠で見てしまう癖がある。
ライヒにいる間は、俺の中のちょび髭の知識がその欠点をかき消していたが、日本に来てその癖が顕在化している気がする。
改めてフラットな目で廣田首相と対峙する事にする。
「ええ、このタイミングで蒋総統になにかあるのはライヒにとってもプラスとは考えれませんからな。」
そこを切り口に俺は廣田首相と本格的に会談を始めるのだった。




