20 ちょび髭総統訪日 横須賀上陸
「か、閣下・・・?!」
俺はお付きの者の声でふと我にかえった。
(そうか、そうだよな。もう4月だったな)
横須賀に上陸して歓待をうけたのだが、俺は咲き誇る桜に茫然自失していた。
今が盛りと咲き誇る桜は、俺の中の中島勝を強烈に揺さぶった。
(桜は日本人の魂そのものなのだろうな)
とても言語化できない感慨が俺をゆさぶる。
そしてこの感慨が、『やはり自分は中島勝なのだ』と俺の自意識を強く刺激する。
ライヒから連れてきた随行員も『ほう・・・』とか、声をもらしていたがその程度だ。
この桜がもたらすなんとも言えぬ高揚感は日本人の魂をもつが故なのだろう。
「桜がお気に召されたようですな」
そう、通訳越しに話しかけてくるのは山本五十六海軍大臣次官だ。
こちらからの要請で、横須賀から帝都東京市までは山本次官に同行してもらうこととなった。
ちなみにこれは俺がリクエストをした。
(やっぱり、未来から来た日本人としては山本五十六には会っておきたいよね)
実は俺が転生する前の話にはなるが、ちょび髭総統自身は山本次官が過去ベルリンを訪れた際、面談する予定もあったのだ。
だが、ちょび髭総統の危うさを危惧する(いたって良識的判断)の日本側の懸念もあり、その時の会談は流れたのだった。
そして今回、ようやく念願の山本五十六とのランデブーが実現したのだ。
(とはいえ、これは気をつけないといけないな)
俺は日本語が分かる。
当然だが、通訳に山本五十六次官が何を言っているのかはリアルタイムで分かる。
だが、今のところそれは秘密だ。
となると、通訳が日本語をドイツ語に訳して話すのを待たずに会話をするとおかしな状況となるわけだ。
面倒だが、通訳が言葉を翻訳するを待ってから話さざるをえない。
(とはいえ、どうするかだな・・・)
通訳も万能でない。
当然、山本次官の話す言葉の細かいニュアンスまで伝えれるかとというと、そんなことはない。
ある程度は意訳する形になるし、そもそも微妙に通訳を間違う時すらある。
そんな時、間違った通訳をもとに会話を続けるのが正解か否か判断に困るところだ。
そして根本的に、『日本語を話せることを隠すべきか否か』問題もある。
当たり前だが、日本語で会話した方が日本人との友好は深めることが出来るだろう。
外国人が日本語を喋ってくれるのは悪い気がしないものだし、当然意思疎通もスムーズになる。
俺がちょび髭総統でさえなければ、日本語で話す一択となる。
(しばらくは様子をみるか)
取り敢えず、『日本語を話すか否か』は脇におき、通訳越しに話をすることにした。
「いやぁ、桜とは素晴らしいものですな。聞きしに勝る美しさだ。是非ともこの花の下でピクニックなどしゃれこみたいものですな」
俺は取り敢えず無難な返事をする。
「ほう、独逸の方にも桜の素晴らしさは伝わりますか。この花はまさに日本の国花にも等しいものです。桜の下で行うピクニックを『花見』と呼んでおります。ぜひ、閣下も機会があれば体験して頂きたい。とても良いものです」
「ほう!『花見』ですか!是非、お願いしたいものですな!日本の酒は『SAKE』といいましたかな?是非、それも併せてお願いしたいものですな」
日本側がざわつき始める。
『どうもちょび髭総統が想像以上に日本に詳しいようだ』と、皆気付き始めたようだ。
ここで、『へぇ~、ちょび髭総統って案外物知りなんだねぇ~』なんて呑気に考える人間はこの場にいない。
「それは、それは・・・。閣下は大変な見識家でいらっしゃる。よく帝国の文化をご存知のようですね」
山本次官も、やや顔色を変え始める。
ちょび髭総統が日本の事をよく知っている。
そして、そのことを発言する。
このこと自体がいかにライヒが対日関係を重視しており、今回の訪日をどれだけ真剣に捉えているのか端的に表していた。
「いやいや、友好国の事を色々と調べるのは当然ですな。なにより船に乗っている間、時間だけはあったものですからな!貴国の文化や、言葉を色々勉強させてもらいました」
この俺の発言に今度は違う意味で顔色を変える帝国海軍関係者一同。
『色々と調べる』という発言がひっかかったようだ。
顔色を変える海軍一同に対し、外務省から派遣された人間はキョトンとしている。
「なるほど・・・ですね・・・。総統閣下から見た日本の姿を是非ご教授頂きたいですね」
なにかの記憶が蘇ったのか、やや苦い顔になる山本次官。
「えー、そろそろ汽車の時間もございますので、、、移動させて頂きたく」
遠慮がちに外務省から派遣された担当者が口をはさむ。
「それもそうですな!色々と段取りがある事でしょう。移動をしましょ・・・」
俺の事を通訳が驚いてみてくる。
(あ・・・これはやっちまったか)
今度は外務省から派遣された担当者が顔色を変える番だった。
ちょっと短めです。
なんか仕事が忙しくてストックが・・・




