19 ちょび髭総統 海外遠征
トリエステでドゥーチェと会合して3週間の月日が流れた。
スペインの金強奪作戦が成功したこともあり、ドゥーチェとの会合は非常に首尾よく進んだ。
ただ、ギリギリまで本当の作戦目標を伝えなかったことは、ドゥーチェとしても思うところがあったらしく、『友よ、最初から金が狙いと言ってくれれば残りの金も奪えたものを』と、少し嫌味と言われたが。
(それでイタリア陸軍に出張ってきてもらっていたら、作戦目標ダダ漏れになっていただろうな!)
欺瞞のため、目標として伝えていたアリカンテ襲撃は見事に失敗しているのだ。
敵の反応の早さからして、おそらく事前に情報が漏れていたに違いない。
ヘタリア、ヘタリアとよく言われるが、案外こういう博打的作戦はイタリア人の得意とするところで(普通の正規作戦が弱すぎるだけかもしれないが)アリカンテ襲撃作戦一方的なワンサイドゲームの様相を呈す有様となったというのは、敵に待ち構えられてしまっていたことが主な原因だろう。
兎にも角にも、今回の作戦の成功は俺の発言に大きな信憑性をドゥーチェに与えたようで、会談の前半では『我が国は邪魔はしないので勝手に石油の調査をしたまえ』的なテンションだった石油捜索も、『イタリア政府内部に専門部署を設置して支援しよう、なんでも言ってくれ』と、かなり前のめりにドゥーチェもなっていた。
そして合わせて三日ほどトリエステに滞在した俺は、ライヒ海軍に事前に派遣させていた巡洋艦に乗り込んだ。
もっと穏やかな時代であれば普通の客船などで良かったのだろうが、俺も世界から疎まれている自覚はある。
移動するにしたってある程度の武装が必要になってしまうのだ。
軍船にしたことで、大英帝国を刺激しないかヒヤヒヤしたがこの時代だと要人が軍船で移動することもそこまでは珍しくないようで、『おいたはするなよ?』と、圧はかけられたそうだがスエズ運河の通行まで許可をしてくれた。
ただ、ロイヤルネイビーもただ自分たちの庭を通らせるのは面白くなかったらしく、護衛と称して示威を行ってきた。
なんと地中海艦隊を大々的に動員し、こちらを護衛もとい威圧してきたのだ。
(戦艦が隊列を組んでいるのは壮観だったな)
俺の周りの海軍将校は歯軋りをせんばかりに悔しがっていたが、未来人の俺としては『大量の戦艦が見られて眼福眼福』という呑気な感情しか湧かなかった。
(※このちょび髭総統の余裕ぶりを見て、海軍将校に一目置かれるようになるのは別の話である)
そして、人類のまさに偉業の一つと言えるスエズ運河を抜け、アラビア半島を臨む紅海に至った。
(ここでもイギリス陸軍がずらっと戦車を並べていた。暇なのかな大英帝国は?)
その後も、インド、シンガポールと大英帝国の港を借り、俺は一路目的地に向かった。
そして、その全ての港で歓迎もとい示威行動を受けたのち、俺はようやく目的地に着いたのだった。
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(そろそろ横須賀か・・・)
俺は最終目的地の大日本帝国にようやく到着しようとしていた。
イタリアでの滞在も考えると、ライヒを出てすでに1ヶ月の月日が流れている。
よほどの問題が起きれば知らせるようにとヒムラーに伝えてあるが、未来と違いリアルタイムの通信手段なんてない。
やりとりするとしたら在日大使館経由などになるだろうが、情報を知ったところでどうしようもない。
(だからこそ、この時期に来るしかなかったのだがな)
現時点ではライヒと日本との行き来には諸々含め2ヶ月はかかる。
会談などのスケジュールをこなすことも考慮すると3ヶ月近い日数がかかりかねない。
ライヒと日本を直行できる実用可能な航空機なんて存在しないし、まさかソヴィエトのシベリア鉄道を使わせてもらう訳にもいくはずがない。
各種兵器の開発結果が出てくるのはもうしばらく先のことだし、外交関係でのビッグイベントも今年の後半から本格的に動き始める。
俺が数ヶ月ライヒを空けることができるとしたら、もうこの時期しかないのだ。
(側近連中には反対されたがな)
『ナイフの夜』を潜り抜け、ちょび髭の独裁体制がある程度固定化されてからしばらく経ったが、十分に国内がまとまっているかというと疑問が残る。
ユダヤ人への扱いを緩和したことで、インテリ層との軋轢は緩和された。
だが一方でちょび髭党の元々の支持層からは不興を被っている。
ライヒの国内情勢はヒムラーやゲッベルスの努力の上で絶妙なバランスの上でとりあえずの安定をしているといえよう。
それに国際情勢が一旦落ち着くなんていうのは、未来人の俺だから知っていることだ。
『スペインでがっつり内戦をしていて、宿敵フランスの国内情勢も危うい今の一体どこが国際情勢が落ち着いているというのですか?』
俺からイタリア・日本外遊の調整を指示されたノイラート大臣は呆れた顔をしていた。
だが、それでも俺は強引に押し通した。
日本が日中戦争に深入りするのを食い止めないといけないし、マグネトロンを筆頭にいくつか技術提携したい事項があるのだ。
「「「おぉ!」」」
ふと、周りでどよめきがおこる。
(あれは・・・扶桑型戦艦と長門型戦艦か?)
違法建築の艦橋が特徴的な戦艦と、それより若干大きめの戦艦を含む帝国海軍艦隊が港の外まで出迎えに出てきてくれたようだ。
不思議なもので、似たような艦隊行動をしているのにロイヤルネイビーから感じた威圧感は感じない。
建前だけでなく、本当の意味での歓迎の意図を感じることができる気がする。
(まぁ、元々の母国だからかもしれんがな)
周りを見ると、他の面々は割と険しい顔をしていた。
アジアの2流国と内心蔑んでいる国が、自分たちの海軍より戦艦を遥かに多数運用しているのがプライドを刺激しているのかもしれない。
(その辺の心情は抑えて欲しいものだがな)
未来の日本においても白人や欧米へのコンプレックスが抜けたわけではないが、この時代の日本人は未来よりももっとその辺りに敏感だろう。
ライヒの人間の内心は容易に見破られるに違いない。
(なかなか友好を深めるのも骨が折れそうだな)
歯軋りをせんばかりに日本戦艦を睨むライヒの面々の姿に俺は、一抹の不安を抱くのだった。
すいません、今週末は忙しく時間がとれませんでした。
友人の結婚式に参加してきたのですが、やはり結婚式っていいものですね。
前へ、前へと進むエネルギーをもらいました。




