12 カルタヘナ奇襲-5
「くそ、あいつらどんだけいるんだよ!」
隣のタコツボからトーマスが悪態をついている。
「あぁ、撃っても撃ってもキリがない」
俺も自分のkar98kを打ちながら叫び返す。
ピュン!
「うぉ!」
思わず変な声が出る。
頭のすぐそばを弾がかすめたようだ。
(い、今のは危なかった)
背中を冷たい汗がながれる。
「大丈夫か?!」
トーマスが声を掛けてくる。
「あぁ、なんとかな!」
パーン!パーン!パーン!
俺は自分が撃たれたと思わしき方に撃ち返す。
当たったかどうかは分からないが、とりあえず相手からのプレッシャーは減ったような気がする。
(くそ、そろそろマジでやばいぞ)
俺たちがスペインに上陸してから4日がすぎた。
初日に敵基地を攻撃した以外は、激しい戦闘はなかった。
二日目は散発的に敵斥候や敵小部隊との遭遇はあったが、数発小銃を撃ったら慌てて引いていったのだ。
小隊でも『やっぱりスペイン兵なんて大したことないな』なんて笑いあっていたくらいだ。
だが、3日目に入り次第に状況がきな臭くなってきた。
敵が威力偵察をかけて来るようになったのだ。
小部隊で散発的に攻撃を仕掛けてくる。
明らかにこちらの配置と勢力を探っている様子だ。
(しかも悪いことは重なるもんだ・・・)
初日、2日目と順調に金を運び出していたが、3日目は機械故障が発生したらしい。
2日目の夕方で5割終了していた作業が、3日目の夕方でもまだ6割ちょっとしか完了していなかったのだ。
それを伝える補給班の顔も暗く焦燥感が滲み出ていた。
(そして期限の3日をすぎ、4日目に突入しているわけだが・・・)
今日に入り次第に敵からの攻撃は激しさを増してきた。
昼前までは散発的だった敵の攻撃も、昼にひと休憩挟んだ後本格化した。
ヒョロロロ....ドーン!パラパラパラ。
「くそ、あいつら迫撃砲まで撃ってきやがった。こいつは本攻だぞ」
「あぁ、マジでやばいな。いつまでもここを守るなんて無理だぞ」
迫撃砲まで撃ち込まれ始め、いよいよ小隊の空気も逼迫してくる。
敵の照準はあまり正確ではないが、真上から降ってくる迫撃砲弾は歩兵にとって悪夢だ。
当たりどころによっては分隊単位で吹き飛びかねない。
「軽迫撃砲班、撃ち返せ!」
小隊長からの指示が飛び、小隊付きの軽迫撃砲が反撃を開始する。
2日かけて橋頭堡からも物資を持ってきたこともあり、景気良く撃ってはいるがこちらも照準は良くなさそうだ。
味方の支援射撃を拠り所に斜面を登って来ようとしていた敵兵の一団が慌てて遮蔽物に身を隠す。
敵の頭を下げさせるのは成功しているが、どうもダメージを与えているようには見えない。
(とはいえいよいよこれはまずいな)
敵も迫撃砲を持ち出したと言うことは本格攻撃がじきに始まるだろう。
だと言うのに時間がなく、十分な塹壕が掘れていないのだ。
俺たちの分隊はまだ大丈夫だが、他の分隊ではパラパラと死傷者が出始めているらしい。
敵が歩兵砲まで持ち出してきたら大損害は免れまい。
そんな焦燥感を胸に、小隊は各々の武器で敵と激しい銃撃戦を繰り広げるのだった。
kar98kからひっきりなしに打ち出されるモーゼル弾。
MG34からも散発的に放たれる牽制射撃。
めくら打ちする軽迫撃砲。
そんな中、ようやく皆の待望していた人物が小隊の防御線に現れる。
「待ってました!」
気が早いトーマスがソワソワ身の回りの品を確認しだす。
「報告します!」
そう言って小隊長に何かを伝えているのは、中隊付きの伝令兵だ。
(やっとか)
小隊中に弛緩した空気が広がる。
この時点での中隊本部からの伝令は撤退命令に間違いない。
そのことを察知し、身の回りの装備を集め出すのはトーマスだけではなかった。
(ん?小隊長の顔色がおかしいぞ)
俺はふと違和感を覚える。
小隊長が伝令兵に何度も何かを確認している。
伝令兵は困った顔をして何事かを小隊長に告げている。
しばらくすると小隊長はあきらめた顔で何かを言うと、伝令兵は答礼して中隊本部に戻っていった。
俺とトーマスは顔を見合わせる。
「おい、クラウスどうも雲行きがおかしいぞ」
「あぁ、俺もそう思う」
しばらくすると、小隊本部の伝令兵が来て分隊長に報告を始めた。
分隊長も小隊長と同じような顔をしたのち、諦め顔になった。
「おい、お前たちよく聞け。これから我々は橋頭堡に向け撤退を開始する」
そう分隊長が指示を出し始める。
(ん、結局撤退なのか?)
俺は嫌な予感が外れたという希望を持つが、それはすぐに打ち砕かれる。
「我々は大隊隷下部隊の制圧砲撃の後、敵陣地を制圧する。制圧後、我々は街道に出てそのまま橋頭堡へ向かう。なお、本作戦には我々が所属する第1中隊の全小隊と第2中隊の2個小隊が参加する」
「・・・分隊長殿。大隊隷下部隊と仰りましたが大隊隷下に有力な砲兵部隊はございましたでしょうか?」
俺は思わず、分隊長に質問してしまう。
「やかま・・・いや、なんでもない。俺も詳しくは知らん。だが支援射撃は実施されるとのことだ。あと、大隊本部から増援部隊も来るそうだ。1個分隊程度らしいがな」
分隊長は『やかましい、黙って従え!』と言いかけたようだが、SSの信条『精鋭は情報交換で生まれる』を思い出したようで分隊長が伝令を受けた内容をめんどくさそうに喋る。
「陸軍じゃなくてよかったな」
トーマスがニヤニヤしながら言ってくる。
そうして気が抜けすぎて、頭が高くなったトーマスの近くを敵銃弾が通過する。
「あばば」
そう言って慌ててトーマスは頭を引っ込める。
(ざまぁ)
不謹慎にも俺はそう思ってしまった。
丁度その時だった。
「おい!上を見ろ!」
誰かがそう叫んだ。
俺も声につられて上を見ると、数機の航空機が飛んでくるのが見えた。
(あれは・・・ルフトバッフェじゃない!)
俺たちは橋頭堡に向かって降下してゆく敵爆撃機をなすすべなく見送るしかなかったのだった。




