表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/133

30 幕間 帝国海軍 山本五十六

1936年某月某日 海軍省にて

『海軍軍人はスマートであるべし』


陸軍との差別化の意味もありスマートさを信条の一つとする海軍においては、実態はともあれ士官以上ともなればスマートさが求められるようになり、そうあろうとは心がけるようになるものだ。


だがここ最近の帝国海軍上層部は上へ下への大騒ぎとなっていた。

スマートさを心掛けようなどという気概は台風か何かでどこかに吹き飛んでしまったような様相を呈している。



きっかけは外務省との連絡会の日に起きた。


ドイツから急遽帰国した武者小路大使及び大島武官との連絡会が内閣と軍部で設けられたのだが、その際なんの気無しに武者小路大使が言い放った一言が海軍内で大問題となったのだ。


大使からの報告自体も、『日独防共協定の締結日土壇場の見直し』などというふざけたものだったのだが、それ自体は臨席する各関係者の悲喜交々は別としてなんとか消化された。


協定推進派からすると協定の締結がなされなかったのは痛手だが、協定の主目的であった対ソビエトでの連携は一段深める提案であったし、協定反対派からするとさらに踏み込んだ内容の協定となるリスクは出てきたが、協定締結が延期となった事自体は歓迎すべき事であった。


そしてちょび髭総統の大陸情勢関係の発言もあったとのことで、緊張の高まる大陸情勢にもなんらかの変化があるのでは?という期待も俄かに持ち上がっていた。


ドイツの全ての事前交渉を無にするような強引な方針修正は腹立たしくはあったが、防共協定の内容は賛成派・反対派共に不満足なものではあったため連絡会でもとりあえず軽くドイツに抗議する程度で、あとは大陸情勢をしばし見極めようとの結論に終わった。


そのまでの連絡会での話は陸軍がメインとなっており、海軍は積極的に話に入ってはいない。(ただし、ドイツと連携を深めるということは英仏との緊張が高まりかねないということで、立場的には反対ではあった。)

とはいえ、連絡会においてはあくまで主は陸軍であり、海軍としてはオブザーバーとしての参加という意識の方が強く、「やれやれようやく会議も終わるな」という気持ちを持っていたくらいだ。


「そういえば、総統閣下が別れ際仰っておられましたが、1号艦と46cm砲に敬意を表すと海軍に伝えるよう言われました」


という武者小路大使の発言までは。


それを聞いてから顔色が変わる海軍参加者一同。


「た、確かにそう仰っておられたのですか?」


顔面蒼白となり問い返す海軍大臣。


ちょび髭総統が間違いなくそう発言していたと、大島武官も武者小路大使に重ねて伝えると、「そ、そうですか」と海軍一同は答えを返すのが精一杯だった。


そして先ほどまでの態度と一転し、連絡会が終わり次第ろくに会話もせず海軍省に帰る海軍一同。


帰ってからが大変だった。

海軍省の中で将校が上を下への大騒ぎとなり、呉や横須賀にも至急の通信が行われた。


そして今日の緊急会合が開かれることとなった。


艦政本部はもちろん、永野海軍大臣、米内連合艦隊司令官そして最近まで欧州におり、レーダー提督やリッベントロップとも会ったことがあるということで、私、山本五十六海軍次官も緊急招集されたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「一体どうやってドイツが1号艦の情報を得たというのだ!艦の存在だけでなく最重要機密の主砲口径までバレているではないか」


声を荒げているのは海軍省の人間だ。

連絡会で恥をかく羽目になり、相当頭に来ているようだ。

なんとか取り繕おうとしたが、陸軍や外務省などに明らかに不審な目を向けられることとなってしまっていた。


(これは今日は長くなりそうだな・・・)


すでに日は落ちており、通常だと皆業務が終わっている時間だが、ことの重大さから関係者一同の予定を無理やり調整した結果こうなったのだ。


(とは言え事態が事態だけに仕方ないか)


海軍省や軍令部の面々が青筋を立てているのに対し、艦政本部の面々は顔面蒼白だ。


「し、しかし、艦政本部においても1号艦は最重要機密事項です・・・砲身切削用にドイツに発注した巨大旋盤などからドイツ側が推測したのでは無いでしょうか・・・」


「だったらなぜ1号艦という呼称まで知られているのかね!その上、主砲口径までも完全に当てられているでは無いか!どう考えても建造計画そのものが漏洩したとしか考えられないでは無いか!」


「・・・」


艦政本部の面々は黙りこむ。

他国の海軍戦力がどのようなものになるのか調査すること事態は各国行っていることで、新型主力艦の建造計画ともなると一番の調査対象である。

であるので、1号艦の建造計画自体がどこかの段階で諸外国に漏れるのは致し方ないことであるのだが、こんな初期の段階で詳細に計画が流出するのは大問題だ。


(しかもわざわざちょび髭総統が発言したというのが問題なのだ・・・)


「しかもだな!我が国と友好を深めたいという姿勢のちょび髭総統がわざわざ伝えてきたとこいうのが問題だ!これは総統閣下からのメッセージなのではないかね!1号艦の建造計画は諸外国にも漏れているということの!」


そうなのだ。

他国の建造計画を調査するのは普通なのだが、それが詳細に分かったとしてもそのことは黙っているものなのだ。

それを公にしたところで自らの情報収集能力をバラすだけの結果となってしまう。

だが、今回ちょび髭総統はあえて我が国に伝えてきた。


(我が国の防諜体制への警告か・・・)


「しかし閣下!艦政本部のみの責任とされるのは非常に遺憾であります!確かにドイツに新型旋盤や新型プレス機を発注したの艦政本部ではありますが、建艦計画自体の流出となると他部署からの流出の可能性も十分考えられます!」


「貴様!海軍省から流出したと言いたいのか!」


「そんなことを言っているのではありません!ですが艦政本部から流出したと決め付けられるのは甚だ不本意であります!」


最重要機密の流出ともなると、ことと場合によっては担当者の首が物理的に飛びかねないとだけあって、艦政本部の面々も必死である。

見苦しい責任のなすりつけあいを海軍省や軍令部の面々と繰り広げている。


(だが、これは好機ともいえるな)


「やめんか、起きてしまった事は仕方ない事でないか。海軍内の分裂は百害あって一利なしだ。今後どうするかを考えるのが先決であろう」


それまで黙って聞いていた永野大臣が不毛な言葉の応酬となりかけていた面々をみて口を開く。


「今後と申しますと?・・・」


「決まっておろう、防諜体制の抜本的な見直しと、そもそもの建艦計画の見直しである」


「建艦計画の見直しですか?」


永野大臣の発言に対し、艦本部のみならす海軍省、軍令部の面々の一部も困惑した顔をする。


(これでピンとこない人間はセンスがないな)


困惑した顔をしてる面々を見て、私もやや呆れた思いを抱く。


「建艦計画の見直しは当たり前であろう。1号艦のコンセプトは質をもって米英の量に対抗するというものであっただろう。だが、1号艦の情報が米英にも流出していることが疑われる今、現状の1号艦でもって米英を質で上回れるかは甚だ疑問となる。聞けばドイツも新型戦艦の建艦を中止したそうではないか、1号艦の情報が漏れていたとなれば辻褄が合う。米英の新型戦艦も大幅にその規模を拡大して建造することになるのでないか?」


米内司令官がまだ分かっていない面々に噛んで含めるように親切に説明をした。


「そ、それは・・・」


1号艦のコンセプトそのものが脅かされることとなったことに気付いた面々は皆顔色を変えることになった。


「し、しかし・・・諸外国が40cm以上の口径の主砲を計画するとなると、帝国にはそれに対抗できる戦艦が存在しないことになってしまいます。なおさら1号艦は建艦するべきではないでしょうか?」


艦隊派(戦艦派)の将校が口を開く。

『新型戦艦建艦そのものがキャンセルとなってはたまらない』といった雰囲気だ。

(これは本当に好機かもしれん)


「そもそも主力艦で米英に対抗しようというのが間違っているのではないか」


「山本次官、それとこれとは・・・」


「何が違うというのだね?1号艦など建艦する金があるなら陸攻をサイパンに大量配備すれば良い!1000機も陸攻があれば米英の主力艦など軒並み海の藻屑にしてくれるわ!」


私はここぞとばかりに自説を説く。


「山本君、話が拗れるからその話は別の機会としなさい」


「承知いたしました。ですが、1号艦の建造はひとまず先送りにするのが肝要かと考えますが」


(1号艦をボツにする事は決してあきらめんがな!)


1号艦をなんとしてでも建艦したい艦隊派の面々の凄まじい眼力を受け流しつつ、私は改めて決意を固めるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


合衆国海軍・王国海軍の新型戦艦が大幅にその規模を拡大するとの情報が帝国海軍に入ってくるのはその後しばらくしてからのことであった。


その情報を得て、帝国海軍は1号艦の建艦計画を正式に中断。

合衆国及び王立海軍の新型戦艦の艦容を把握した上での新型戦艦の検討と一旦先送りにすることとした。


そして艦隊派と航空派・水雷派との妥協の産物として、既存の条約型重巡洋艦を駆逐し、水雷戦隊の援護を主目的とする嚮導巡洋艦とでも呼ぶべき大型巡洋艦の建造が決定されるのであった。


皮肉なことに、その艦容は「秩父型大型巡洋艦」(米英が帝国海軍が建造中と勘違いしていた架空艦。情報戦の混乱の産物)と酷似していた。

その後の諜報活動の結果、米英は秩父型大型巡洋艦についての情報を一周回って正しい情報として受け取り、反対に帝国海軍は修正したはずの建艦計画を米英にさらに把握されたと勘違いしたことで、1号艦の情報が漏れていたことに確信を持つとともに、通信暗号も含めた防諜体制の総点検を実施するのであった。


さようなら大和。こんにちはモンタナ・コンカラー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
艦本部となっていますが、正しくは艦政本部ではないでしょうか?
ちょび髭総統、なぜ、 『波動エンジン』の事を言わなかったの、 総統「だって、まだ宇宙戦艦ヤ○ト、企画すらされてないから。」 (*´∇`*)わかりました。
大和は役に立たなかったからね〜。 八面六臂の働きをしたのは金剛姉妹だったので、戦艦はあのサイズが丁度いいんだろうね。 五十六さん。敵を撃破しても帰還できなかったら、ジリ損だよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ