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21 Götterdämmerung 2


「ノイラート大臣、よく来てくれた。席にかけてくれたまえ」


「分かりました。」


俺は『ダンツィヒか戦争か』の後始末をするべくノイラート大臣を再び呼び出していた。

仮病でも使って呼び出しを拒否してきたらどうしようかと懸念していたが、流石にそれは杞憂であったようだ。


「まずは大臣、先日はすまなかった。私はライヒにとって最善の策をとったつもりだが、君を騙しうちにするような格好になったことは申し訳なく思う」


そう言うと俺は席を立ち上がり、大臣に頭を下げる。


「閣下頭をあげてください。困ります」


そんな俺を見て大臣も立ち上がりそう言った。


自らの権威の問題があるので、独裁者ちょび髭総統に転生してから俺はほとんど人に謝ったり頭を下げたりしてない。


が、中身は元日本のサラリーマンだ。


しかももう既にトータルで90年ほど生きている。


俺は頭くらいは自然に下げれるが、そんなちょび髭総統の姿は周囲を困惑させ慌てさせるらしい。


俺が頭を下げるのを初めて見たものは大体慌てふためく。

日本人であれば『いえいえこちらこそすみません』などといって、お互い何を謝っているのかよく分からない『すみません合戦』が勃発したりするが、そんな文化がないライヒにおいてはただただ困惑するらしい。


流石にもう俺が転生してから数えても数年の付き合いになるノイラート大臣は見慣れてきたのか慌てはしなかった。

ただ、やりずらさを感じているのもまた事実のようだ。


「いや、本当に大臣にはすまない事をしたと思っている、何はともあれまずは直接謝罪をしたかったのだ」


『驚かせてすまない、かけてくれたまえ』と、俺にあわせて立ち上がってしまった大臣に改めて席を勧め、俺も自分の席に座わる。


(さて、どこから話したものかな)


言葉の選び方を誤れば、俺は優秀な外務大臣を失うことになる。


一拍おいて大臣に種明かしをしようとしたが、先に口火を切ったのは大臣の方だった。


「閣下は勝てると思っているのですか?」


「それはやってみんと分からん」


大臣の問いに俺は間髪入れず答えた。

『そんな賭けじみたことにライヒを』と言いかける大臣を俺は制し言葉続ける。


「大臣。私は勝てるかどうかは分からないと言った。だがな、大臣。負けはないことは君とライヒ国民に約束できる」


「・・・約束、ですか。」


一瞬言葉を失った大臣だったが、すぐに核心に踏み込んでくる。


「閣下、これまで私は閣下の外交を出来るだけサポートしてきました。閣下の根拠のない賭けにものってきました」


『テーブルにのっているのが閣下ご自身だけでしからな』と笑みともつかない苦笑を浮かべて大臣はそう言う。


「ですが、今回は別です。一度戦端を開いてしまえば戦局がライヒ不利に傾いたその時、英仏が閣下の進退のみで講和に応じるなんてことはないでしょう。それこそヴェルサイユ条約よりも不利な条約を突きつけられるでしょう。」


『分割統治されるかもしれませんな』などと、地味に史実の未来を見てきたかのようにぼそっと大臣は呟く。


「そして今のライヒで英仏を敵にまわして敗北に至らない道が私には思いつきませぬ。閣下には悪いですが、閣下の『約束』と言うお言葉だけではとてもではないですが外務大臣を続けれません。」


(まぁ、大臣の立場だったらそうなるわな)


ノイラート大臣の基本外交路線は国際協調。


別に、平和主義者というわけではない。


ただ、ライヒの国力では英仏を相手取って戦争などは出来ないという、堅実で地に足がついた感覚を持っているだけだ。


ノイラート大臣がおかしいのではない。


ちょび髭総統とその愉快な仲間達がイカれていただけなのだ。


「大臣。根拠ならある。」


そう言うと俺は大臣に1冊の冊子を渡す。


「なんですかこれは?一般相対性理論?アインシュタイン博士・・・?これがなんだと言うのですか?」


大臣は困惑した表情でパラパラと論文をめくる。


当然だが物理学の専門用語で埋め尽くされた論文を大臣が理解できるはずもない。


(まぁ、俺も完全に理解できているわけではもちろんないがな)


前世で俺が生きた時代では知らぬ者の方が少ない理論。


というか、科学者・技術者を志すものなら一度は聞いたことがある理論。


そして大国間の戦争を不可能なものとし、国際情勢の大枠を固定化する理論。


だが、この時代だとその有用性・危険性にほとんどの者が気づいていない理論。


「これはだな大臣。戦争を終わらせる理論だ」


そう言って俺はE=mc2乗について大臣に説明するのだった。



1939年7月 某日 アメリカ ロングアイランド


「博士、ではよろしくおねがします」


「あぁ、シラード君。これは殿下の耳に必ず入れた方がいいものだ。伝手をあたってみよう」


そう言ってアインシュタインはドイツ時代の教え子であるシラードと固く握手をした。

シラードと共に訪ねてきていたウィグナーとも続いて握手をする。


『ありがとうございます、博士。どうぞよろしくお願いします』と感謝することしきりで、シラードとウィグナーはアインシュタインの別荘から踵を返した。


(自動車か、アメリカは本当に自動車がおおいな)


流石はモータリゼーションがすすんだアメリカらしく二人は車で帰っていった。

そんな二人を見送りながらそんな益体もないことをアインシュタインは思った。


「連鎖的核分裂反応・・・ね」


二人が帰るのを見送った後、アインシュタインは二人が持ってきた書簡を改めて開いた。


そこにはウラン鉱石を使用した連鎖的核分裂反応と、それの兵器利用可能性。

そしてちょび髭ドイツがベルギー領コンゴから大量のウラン鉱石を輸入し、かつ今では事実上ドイツの領土となったチェコスロバキアからのウラン鉱石輸出停止などから推測される可能性。


すなわちちょび髭ドイツがすでに連鎖的核分裂反応とその実用化に着手している疑惑について語られていた。


シラードとウィグナーはアインシュタインを通じてどうにかアメリカ政府、もっといえばルーズベルト大統領に書簡を渡し、核分裂の兵器利用の可能性を伝えようとしていたのだ。


アインシュタインはちょっとした機会があり、ベルギー王室とパイプをもっているのだが、そこに二人は目を付けたようであった。


ユダヤ系であるかれらにとって、ちょび髭ドイツか最終兵器をもつのは悪夢といっていい。


(まぁ、最近は軟化しているとはきくけどね)


アメリカに避難したドイツ系ユダヤ人は多くおり、中にはアインシュタインの別荘をもてるほどの好待遇で迎えられている者もいる。


だが一方でまだまだ大恐慌の影が残るアメリカであまり良い職につけず、ドイツ本国に出戻りする者も最近はちらほらいた。


「まぁ、とは言え、ちょび髭ドイツがこの兵器を持つ可能性があるなら大統領に警告しないわけにまいるまい」


そうボソッとつぶやいたアインシュタインはペンをとり、書簡の内容の推敲を始めるのだった。


だが、この時アインシュタインは気付いていなかった。

2人の客を見送ったのが、アインシュタインだけではなかったことを。






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― 新着の感想 ―
自国の核兵器開発が終るまでアメリカが参戦を遅らせる可能性も。
むしろアインシュタインに核兵器の脅威とちょび髭が核兵器を所持している可能性が高いことを宣伝して貰って全面戦争できないようにするんじゃね
アインシュタインを消すのか!?
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