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1 幕間 それぞれの憂鬱1

スターリンの場合


「つまりなんなのだ?はっきり言いたい事をいいたまえ。」


スターリンは口元に微笑を浮かべながら、外務省の官僚に問い返した。


「・・・。同志スターリン、私は同志を批判している訳では決してありません。ですが、最近のちょび髭総統の共産党弾圧は目に余るものがあります」


圧をかけられた官僚は青ざめながらそう答えた。


「ふむ、まぁ言いたいことはわかる。だがな、ちょび髭総統ほどの男は他にいない。奴は間違いなく英雄の器だ。同志たちは何も心配することはない」


「わ、わかりました」


青を通り越して真っ白になりながら官僚は掠れた声で返事をする。


スターリンはそう返事する官僚に『わかれば良いのだ』と微笑を口元に浮かべたまま頷いた。

スターリンにとってちょび髭総統の共産党員弾圧など些細な問題だ。


世界革命を目指したトロツキーなら怒り狂うだろうが、『共産主義の輸出』を国家方針ではなく外交の一部としてスターリンは捉えていた。


本気で共産化を目指し、自国の衛星国にしようとしている国ならいざ知らず、ちょび髭総統が率いるのはドイツである。

ドイツ共産党がドイツの足を引っ張ってくれるならそれはそれで歓迎だが、ドイツが共産主義に染まるとはスターリンも考えていない。

そういうわけでちょび髭総統のユダヤ人弾圧が共産党弾圧に変化したとて、それはスターリンにとってそこまで目くじらを立てることでもなかったのだ。


「それよりどうなのだ?ちょび髭総統が昨年日本を訪問して以来彼の国は日本との関係強化に勤しんでいると聞くが」


現実主義者のスターリンにとってちょび髭総統がドイツ国内の共産主義者を弾圧することよりも、そちらの方がよっぽど気になるポイントであった。


「関係を強化しているのは間違いないと思われます。ドイツ・日本は防共協定を数年前に締結しております。」


(ふん、こいつはダメだな)


そう答えるさっきとは別の官僚を見てスターリンはそう思う。


「同志よ、そんな事は分かっている。その中身についての考察をきいているのだ」


スターリンは相変わらず口元に微笑を浮かべたままそう問いかける。


スターリン、いやロシア人にとって日本というのは忌々しい想いを起こさずには語れない国だ。


日本に勝てなかったことで、ロシアは『アジア人との戦争に勝てなかった唯一の白人国家』という汚名を被る事になった。


前政権のロシア帝国に対して特になんの愛着も無いが、日本についてはスターリンも忌々しく思うところしきりである。


そしてそういった感情的な側面もさることながら、満州国という傀儡国家を立ち上げソヴィエト沿海州の間近まで勢力を拡大させた日本は軍事的、地政学的に純粋な脅威だったのだ。


(そして、それだけではない)


表情は変えないが、スターリンは苛立ちを覚える。


スターリンは世界革命を起こす気はないが、他国の共産党を動かすことを国家戦略の一部としては組み込んでいる。


それは対日戦略でも同じことだ。


日本の目をこれ以上ソヴィエト方面に向けない為に、中国共産党に命じて日中関係を緊迫化、あわよくば全面戦争にもつれ込ませたかったのだ。


だが、目論見は外れた。


国共合作はならず、張学良による襲撃はむしろ蒋介石に共産党への警戒感を植え付けるだけに終わってしまったのだ。


その襲撃での唯一の収穫は、身内から襲撃を受けた蒋介石が共産党への攻撃を延期したことで中国共産党が首の皮一枚で繋がったことだ。


『もはや見捨てた方がいいのでは?』という損切りを支持する声もチラホラきかれたが、スターリンは黙殺した。


むしろ損切りどころか出資を積み増しする事にスターリンは舵を切った。


これまではある種ひっそりと行っていた軍事支援を一気に拡大しテコ入れにかかったのだ。


その結果、どうにかここ数年国民党との戦いは勝てないまでも負けてもいないといった具合に戦局を安定化する事に成功している。


が、これではなんの意味もない。


肝心の日本への牽制にも何にもなっていないのだ。


手駒として残しておきたいから中国共産党は支援しておいたが、これだけでは全く足りない。


(とはいえ、今は一旦手詰まり・・・か)


慌てて日独関係について喋れる限りを喋り出す官僚の言葉を聞き流しながらスターリンは思う。


日本は弱体化するどころか中国との関係改善の道に進みつつあるようで、中国人を使っての工作はもはや手詰まりだろう。


そして気になるのは日中の関係改善の橋渡しをしたのがちょび髭総統だという情報がチェーカー(KGBの前身)からもたらされたのだ。


そうなるとスターリンの思惑を間接的に邪魔したのはちょび髭総統だということになる。


(とは言えドイツはソヴィエトの重要な友好国だ)


先ほどの官僚はちょび髭総統の最近の共産党弾圧激化に懸念を言っていたが、世界から孤立するソヴィエトにとってドイツは有力な友好国だ。


食料や各種鉱物資源、石油といったソヴィエトの資源を輸出し、工作機械を始め機械製品を輸入する。


まさに持ちつ持たれつの関係なのだ。


最近確かに工作機械の輸出自体を渋ったり、単純な部品レベルで良いから工業製品との抱き合わせじゃないと汎用の工作機械も売ってくれなかったりもするが、一方でドイツ製の高精度な部品はソヴィエトの工業界から歓迎されていたりもする。


(ドイツの方針変化は気になるところではあるが・・・まずは日本だ)


同じ独裁者として根本的なところでちょび髭総統にシンパシーを抱くスターリンとしては日本への対処の方が優先順位が高かった。


「同志よ。君の見解はわかった。で、何を提案してくれるのかね?」


「そ、それは、同志スターリンのご指導の通り中国人を使って日本の力を削ぐべく・・・」


声を震わせながら官僚がそう言い募る。


「同志よ。私はもっと直接的な行動が必要だと思うがどうだね?」


「・・・」


もはや官僚は青ざめて何も答えれないでいる。


「もう良い。諸君らは下がりたまえ。」


 『お、お待ちください』と抵抗する官僚を無視しそう告げると、スターリンは赤軍将校の誰を呼び出すか思案にくれるのだった。

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― 新着の感想 ―
毎話、楽しみにしています。1939年は、ノモンハン、ポーランド侵略のイベントがありどうなるのか、ワクワクしています。
ソビエトが先にフィンランドに宣戦すれば欧州の支援がそっちに行くから 1940年に戦争が一番良いかも知れない
となると、ノモンハンかな?
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