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78・不本意ながら、彼に助けを求める事にしました

「___と、言うわけで、巫女様は無事快復されたわ」

「わぁ、良かったですね!」

「そうか、そんなに危険な状態だったのか。オーナーが今日すぐに行動したのは正解だったな」

「うん、ラナさんならきっと助ける事が出来ると思っていたよ」


 私は、今日の報告を聞きがてら夕食を食べに来たシンとタキ、それにチヨの三人に、教会での出来事を説明した。

 以前聞いたタキの体験談から、自分なりに女神をイメージして力を使ったけれど、前より力が増していると感じる今なら、私のイメージした現象が現実に起きるのかと思えば、そうではなかった。

 だからきっと、タキの時のように、巫女様の夢の中に私が現れたのではないかと考えている。できればもう一度巫女様に会って、あの時どんな風だったのか聞いてみたい。

 でもそれをするとなれば、また旅のヒーラーに変装しなくてはならない。フレドリック殿下の件が無ければ迷わずそうしたいところだけど、まだ手を打つ前だし、どうしたものかしら。 


「シンとタキが教えてくれなければ、あの方はあと数日で命を落としていたでしょう。いつサンドラと接触したのか分からないけれど、タキは何年もかけてあの状態になってしまったのに対し、巫女様は長くみても半年の間にタキよりも酷い状態になってしまっていたわ。きっと元凶の側に居るほど進行が早いのかもしれないわね」

「あ、そういえば、こっちに引っ越してきてから、少し体が楽になった気がしたのは、そのせいだったのかな」


 タキは実際に経験したのだから、やっぱりそういう事なのでしょうね。

 ならば、巫女様の他にも被害にあった人が神殿内部に居るとしたら大変な事だわ、すぐにでも助けなくてはいけないでしょう。

 いいえ、神殿だけではない。一般市民や、学園関係者の中にだって、サンドラと関わって、原因不明の病に苦しんでいる人が居るかもしれない。

 私には見えないけれど、その黒いモヤというのが、誰にでも影響してしまうものだとしたら、被害者は無限に増える可能性があるわ。でもそれだと、疫病か何かだと騒ぎになりそうなものだけど……。今までに、そんな話は聞いた事が無いわね。

 では何か、ルールのようなものが存在するのかしら? 例えば、相手が聖職者である事? タキは違うけれど、その素質があるもの。

 あ、妖精の力を借りているのだから、霊力を持っているかどうか、かもしれないわ。

 まずは、一番命の危険が迫る神殿関係者に被害者が居るのかを知りたいけれど、そうなると、やっぱり巫女様に尋ねるのが一番手っ取り早いのよね。神殿の中で起きた事は、外部の人間に伝わってこないとフレッド様は仰っていたもの。


「オーナー、今、何を考えている? 人助けをする為に、またあの格好で外に出ようと思っているんじゃないだろうな。人助けも良いが、頼むからまずは自分の身の安全を優先してくれ。またあの王子が来たらどうするつもりだ。タキがお前を男だと認識させる為に、親父の名を使って逃がそうとしたが、あの王子、好みの顔なら男も女も関係ないみたいだぞ。聖女だって自分の女にしちまうような奴だ。あんなの、権力を笠に何をするか分かったもんじゃない」


 私が黙って考え込んで居ると、シンが心配そうに声をかけて来た。


 ああ、言われてみれば、あの二人は、サンドラが聖女だと認められる前から付き合っていたから、聖女かもしれない平民娘と王太子との、乙女ゲームのようなシンデレラストーリーだと私は解釈してしまっていた。

 でもそれは、民からすれば、王子は聖女を個人の感情に任せて自分のものにした愚か者。

 公の場で婚約者を捨て、聖女を選んだというのに、結局はその後すぐ別れてしまったというのがさらに良くない印象に繋がってしまうのだろう。

 おまけにシンは、私がその元の相手だったと知っているのだから、殿下の評価は地に落ちてしまっているに違いない。だから殿下を前にしても、態度を改める事もできないほどに感情が前に出てしまったのでしょう。だけど、それでは駄目なの。

 あなたには、みっちり礼儀作法を仕込んであげる。

 私のはおじい様仕込みよ? 覚悟してね、シン。

 うちの従業員としてだけではなく、一人の男性としても、かなりレベルアップできるわよ。あなたの個性はそのままに、いざと言う時に冷静に対処出来るかどうかが大事なの。

 

「あ、フレドリック殿下の事なのだけど、フィンドレイ様にお伝えして、殿下を止めていただこうと思うの。ただそのためには、どうにかしてフィンドレイ様と連絡を取り合わなくてはならなくて。だから私、明日の朝、学校へ向かう前のフィンドレイ様をつかまえて、お願いしようと思うの」

「はあ? あいつに頼るのか?」

「それは僕も嫌だけど、彼は側近なんだよね? なら、主を窘めるのは彼の仕事なのかな」


 リアム様の方でも対処して下さるというのは話せないから、エヴァンに相談するということだけを伝えたけれど、この前は少し彼への嫌悪感が薄れたのかと思ったのに、そうでも無かったみたい。

 単純に、私の事が面白くて二人の気持ちがほぐれていただけだったのね。


「ラナさん、僕も一緒に行くよ」

「待て、俺も行く。あの屋敷の場所を知っているのは俺だけだろ。オーナーは道に迷うかもしれないからな」

「なっ、大丈夫よ、多分……?」


 シンは凄く意地の悪い目で私を見ている。

 一度行った事のある所なら、一人でだって行けるはず。私には方向音痴の疑いがあるけれど、前世ほどじゃないと思いたい。確かに前世の私は何度も同じ場所で迷子になったわよ? でも今の私は……


「やっぱり一緒に来て、シン」


 私はちょっとふてくされた様にシンにお願いした。するとシンは、そんな私を揶揄うようにとても優しく微笑んだ。


「ククク、初めからそう言えよ。何時に登校するのか、分かってるのか?」

「多分おにぎりを買いに来ていた時間に出ているのだと思うわ。だからそれよりも少しだけ早く着いて、門の前で待とうかと思うの」

「それじゃ不審者だと思われないかな?」


 それもそうなのだけど、今の私ではどうにもできないわ。エレインと名乗れば、問題なく呼び出してもらえるでしょうけど。


「門番に頼んで呼び出してもらうのも、朝からどうかと……第一、名乗ったところで不審者だと思われてしまいそうだわ」

「そうかな? 妖精の宿木亭の女将って、この地区では有名だと思うけど。同じ地区に住んでるのに、貴族には伝わってないって事? お客様の中に、平民の振りをした貴族も紛れ込んでいるけどね」


 タキは気付いていたのね。私も気付いていたわ。だって、来ているのは知っている人達なんだもの。

 皆、慣れた様子でしっかり変装もしているから、普段からたまにああして息抜きをしているのだと思って黙っていたのだけど。


「そんなの、明日の朝、俺達を見る門番の反応を見て決めたらどうだ? 警戒されるようだったら、少し距離を置いて様子を見るとか、あ、頼まれてた物を届けに来たとかなら良いんじゃないのか? ほら、おにぎりを届けに来たと伝えてもらえば、向こうもすぐに分かってくれるだろ」


 シンはそう言うけれど、残念ながら、事前に伝えられていない届け物はすんなり通らないのよ。良くても、品物は門番が預かるという形で、私達はそのまま帰されてしまうのが落ちでしょうね。


「多分それは無理ね。事前に連絡も無く届け物なんて来たら、もっと怪しまれると思うわ。だったら素直に、面会を申し込んだ方が良さそう。おにぎりは、そうね、話を聞いてもらうお礼くらいにはなるかしら」

「貴族って面倒だな。会いたければ、段階を踏めって事か」

「そうね、でも仕方の無い事なのよ。親身になって考えてくれて、ありがとう、シン」

「役に立たなくて悪かったな」

「ううん、その気持ちが嬉しいわ。タキも、チヨも、こんな事に巻き込んでごめんなさい」


 私のその言葉に、三人は口を揃えて反論した。


「悪いのは王子だ」「悪いのは王子様だよ」「悪いのは王子様です!」

「……それは、そうなのだけど」

「うん、ラナさんは気を遣いすぎだよ。もっと僕らを頼って良いから。フィンドレイ様に頼むだけじゃ不安だから、他の対策も考えようよ」


 それから、タキが中心になって、エヴァンが当てにならなかった時の事を考えて、今後の対策をアレコレ提案してくれた。

 この後は、シンに居残りしてもらい、早速礼儀作法の個人レッスンを開始する。私はおじい様仕込みの厳しいレッスンを再現し、ひとまず最低限のマナーだけでも、今夜中に彼に叩き込む事にした。


「相手が王子様だと、こちらは逃げる事しかできないっていうのが辛いね。反抗したら、この宿一つくらい簡単に潰してしまえそうだし」

「まさか、そこまではしないわよ。王族だって、国民に嫌われては困るもの。あら、もうこんな時間だわ。じゃあ、また明日ね」


 シンが先頭に立って部屋を出て行こうとしたので、私は慌てて彼を引き止めた。


「待って、シン、あなたは部屋に残って欲しいの」

「あ? お、俺だけか?」


 シンは戸惑いを隠せず、タキとチヨの顔を交互に見て、今度は私の真意を読もうと、真面目な顔をしてこちらを見た。

 

「チヨとタキは、お休みなさい。また明日ね」

「えー、こんな時間にシンと二人きりですか?」

「……おやすみ、ラナさん。兄さん、じゃあ、僕は先に帰るよ」

「へぇー、タキったら、本当にシンを置いて帰るんですね。ふーん……ラナさん、シン、それじゃあ、お休みなさい。くふふ」


 タキは少し微妙な表情を浮かべながらも、好奇心いっぱいの目で私達を見るチヨの首根っこをつかまえて、部屋を出て行った。


「うふふ、じゃあ、始めましょうか」

「何を? つーか、不味いだろ、こんな……」


 シンは、この部屋の妖精達も寝静まり、ヴァイスもベッドの片隅で休んでいる状態の静まり返った室内で、かなり緊張した面持ちでその場に立ち尽くしていた。


「そう、このままでは不味いのよ。私、あなたを立派な紳士にしてあげるわ。もう、王族や貴族相手に無礼な態度なんかさせないから、覚悟してね」

「あ……?」


 シンは、ノリス公爵家の厳しいマナーレッスンを、この後みっちり叩き込まれたのであった。



 そして翌朝、私は迎えに来てくれたシン達と一緒に、手土産のおにぎりをいくつか持って、川の向こうにあるフィンドレイ家の屋敷に向かった。


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