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53・まるで迷路のような町

 西門の外側にある市場は、話に聞いていた「門の外にちょっと市が立っている」では済まされない規模の市場だった。それに、市場の裏側には、平屋や二階建ての背の低い建物が、壁から十メートル程間隔を空け、どこまでもビッシリと建ち並んでいる。

 きっと上空から見下ろせば、王都を取り囲む壁に分断されているだけで、そのまま町が広がっているように見えるだろう。

 壁の中と外の違いと言えば、建物がどれも低く統一されているという事と、街道以外の道は、まったく舗装されていないという程度の差しか無かった。

 これはもう、立派に一つの町と言って良い。少なくとも、王都内のスラム街と呼ばれる地域よりも清潔で、ここに住む人々の着ている物も綺麗で、皆、豊かな暮らしをしているように見える。

 西門を利用した事の無かった私達は、ただただこの光景に驚いてしまった。

 門から都を出たつもりが、いきなり知らない町に入ってしまったのだから。

 私は、ずっと、この門を出た先には、広大な畑が広がっているものと思っていたのだけれど、どうやら都に入りきれなかった移民達は、この門の近くに家を建て、街道を通る商人や旅人相手に商いをして暮らしているという事なのだろうか。

 露店で売られているものは、農産物や畜産物だけではなく、衣料品、日用品などは勿論、旅の商人から買い付けた珍しい品を扱う店まで並んでいた。

 

 それでもお目当ての園芸店は、門を出てから、わりとすぐに見つかり、花や観葉植物などを買い終わった私達は、お留守番中のチヨとタキの為のお土産を物色していた。


 はずなのだけど……。


「ここ、どこ?」


 多分少し前の事だと思うけれど、私が周囲の店を眺めながら、シンの少し後ろをついて歩いていると、ある露店の店主から、シンがしつこく声をかけられていた。

 そのほんの一瞬の隙に、私は背後から突然、何者かに口を塞がれて、狭い路地に引きずり込まれてしまった。

 路地の奥では、ちょっとオドオドした四人の男達が待ち伏せをしていた。

 私はそれを見て、何とか暴れて逃げようとしたけれど、非力な私では男性の力で捕らえられた体は身動きすらできず、すかさずその中の一人が前に出ると、懐から取り出した小瓶を私の顔の前に差し出し、蓋をはずして中に入った液体の香りを強制的に嗅がせようとした。

 口を塞がれていた私は息を止め、抵抗しようとした。けれど息が続かず、熟した果物のような甘い香りを吸い込んで、そのまま意識を失ってしまった。

 そこからは記憶がぷっつりと途切れてしまって、何があったのか、まったくわからない。

 遠くの方から、私の名を呼ぶシンの声が聞こえたような気がした。

 でもここの土地カンの無い彼が、私の行方を捜す事は、多分不可能に近いと思う。

 それからどれだけの時間が経ったのかわからないけれど、空の明るさは変わっていない事から、まだそれほど時間は経っていないと思われる。

 気づいたら、私は建物の壁を背もたれにして座っていた。

 そして目が覚めた私の目の前には、何故か路地裏で見た四人と、ガタイの良いもう一人の若い男が全員ボコボコにされ、身動き出来ないようしっかり縛られた状態で足元に転がっていた。


 まさか、この人達は私をエレイン・ノリスと知っていて拉致したのかしら……? 身代金目的? それとも、何も知らずに私をどこかに売るつもりで……? 最悪の場合、もしも、私の正体を知って何かを仕掛けてくる人物が居るとしたら、皆に危険が及ぶ前に、すぐにでも宿を離れなくてはいけないわ。

 ううん、それだけじゃ駄目。私をおびき出すために、利用されるかもしれないじゃない。もし本当にそうなら、チヨを即故郷に帰して、宿を畳んで、解散するしかない……。


 この男達の目的がはっきりするまで、私は気が気でなかった。今の自分にそれほどの価値は無いと思っているけれど、万が一という事もある。


 今居るのがどこかの路地裏である事は分かるけれど、周囲を見ても人影は見当たらず、気配すら感じられない。

 ここがどの辺りなのか見当もつかないけれど、私自身は拘束もされずに放置されていたようなので、とにかくこの場から逃げる事にした。

 しかし何度試しても、迷路のような路地裏からは抜け出せず、同じ所に戻ってきてしまう。 


「何かしらこの感じ、どこかでいつか体験した事があるような気がする……。前世の私は、巨大迷路に行った事があったかしら?」


 もしかしたら途中にあった扉のどれかが、家のドアではなくこの袋小路だらけの路地裏の抜け道なのかもしれない。

 私が考えるに、適当に空いた土地に家を建てていくうちに、自然とこうなってしまったのではなく、王都の中と同じように、敵に攻め込まれた時などには、簡単に抜け出せないよう考えて作られた町のようだ。今は住民の数よりも、物件が飽和状態になってしまっているという事だろう。

 そして、この空き家のある区域は、悪いやつらのたまり場なのか、勝手にどこかをアジトに使っている可能性もある。


 私は諦めて、その場で助けが来るのを待つ事にした。

 この町には、こんな場所が他にどれだけあるのかしら。

 シンならきっと、近くにいる誰かに助けを求めて、私を助けに来てくれる。あそこに居た誰かは、私が拉致されるところを見ていたはずだもの。

 でも、一体誰がこの人達を伸してくれたのかしら? まさか気を失った私が、女神の力で無意識に動いた……なんて、そんな漫画みたいな事は、流石に無いわよね。大体、彼らを縛る縄をどこから調達するのって話よ。

 どなたか存じませんけれど、どうせ助けてくれるのなら、逃げ道も示しておいてほしかったです。

 

 助けを待って、黙って座って空を見上げていると、どこからか風に乗って、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「やつらのアジトは、この先で間違い無いのか? まだ建設中の区域だし、人目につきそうなものだが。作業する者達の出入りも頻繁だろう」

「はい、間違いありません。私が昨夜、やつらの後を付けて確認しました。それに先ほど、市場で若い女性が連れ去られたと騒いでいる連中が居ましたから、もしかしたら、その女性はそこに連れ込まれている可能性もあります」

「何? それを早く言わないか……! すぐに案内しろ。やつらの捕縛も大事だが、女性の救出が最優先だ」


 どこかのドアの開く音がして、数人の足音が近づいてきた。しかし彼らは私の方ではない路地を進み、通り過ぎてしまった。

 そんな中、最後尾に居た一人が縛られた男達の存在に気付き、こちらに見に戻ると、まるでその男達を見張るように座る私を見つけて、声をあげた。


「居ました! 女性は無事です、エヴァン様!」


 


 

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