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209・あの場所へ

 宝探し開始から一ヶ月と少し経った休日の早朝。

 私は何か怖い夢を見て飛び起きた。


「――ハッ……ハァ、ハァ」


 胸が早鐘を打ち、額には脂汗。

 湿った背中に朝の冷たい空気が触れて全身に寒気が走る。

 飛び起きるほどの衝撃があったはずなのに、内容が思い出せない。わかっているのは、怖かったという事だけ。

 ずっと闇の中をさまよっていたような気もするけれど……。

 すると何故か急に、ウィルに記憶をいじられた時の情景がフッと頭に浮かんだ。

 杖を持った魔道師と、微かに耳に届く記憶封じの呪文、その傍らに立つウィル。

 ――!? どうして今? あの怖い夢もウィルに消された記憶の断片だったのかしら?

 でも私には、そんな怖い思いをした覚えはなかった。


「はぁ……ただの夢だと思うけど、すごく嫌な感じ」


 窓の外に目をやると、空がうっすらと白み始めていた。

 ベッドサイドの目覚まし時計の針が四時半を指しているのがぼんやりと見える。

 起床時間にはまだ早いけれど、すっかり目が覚めてしまった私はそのままベッドから下りて身支度を始めた。

 今日はアルテミに行く日である。

 前回は海側の低い山を登り、思い出の地だというその先の岬から海を眺めた。

 確かに美しい景色だったけれど、そこでも私の中のセンサーは反応しなかった。

 ライラの宝物は一体どこにあるのだろう。これだけ探しても見つからないなんて……。

 その場に行けばピンとくるという私の考えがもし間違っていたら、という不安が心をかすめた。


 バックヤード側から厨房に入ると、作業台の上に今朝使う食材がすでにそろえられていた。

 かまどに火を入れるシンの姿が目に入る。

 珍しく私より先に起きて朝食の準備に取り掛かっていたらしい。

 でもいつになく暗い表情を浮かべるシンの横顔を見て、私は声をかけるのを躊躇った。

 

「ん? おはよう、オーナー。随分早起きだな」

「っ……おはよう、シン。あなたこそ、今朝はとても早起きなのね」


 シンは冷蔵庫脇に佇む私の存在に気が付くと、優しく微笑みかけてくれた。

 さっきのは気のせいだったのかしら? いつものシンだわ。

 

「ああ、何か目が覚めちまったんだ。オーナーは何でこんな早く?」

「私は変な夢を見て飛び起きちゃったの」

「オーナーも?」

「も……って、あなたも怖い夢を見たの?」

「あ……いや、まあ似たようなもんだ。夢見の悪さは女神を待たせてるプレッシャーのせいかもな」

「ふふ、確かにそうかも! シン、今日こそは見つかると信じて頑張りましょうね」


 私が言うと、シンは困ったように笑って頷いた。

 やっぱり少し様子がおかしい。もしかして、女神様だけじゃなく私も彼にプレッシャーを与えているのかも。

 私にもライラだった頃の記憶があれば苦労させずに済んだのに……。

 つい溜息が漏れる。


「本当に、なぜ私だけライラの記憶がないのかしら……」

「……? オーナー、何か言ったか?」

「ううん、私はおにぎりを作るから、シンはお味噌汁をお願いね」

「了解。そうだ、俺達の弁当も忘れずにな」

「ええ、水筒にお茶もね」 


 そして朝食の準備が終わった頃、タキが階段を下りてきた。


「あれ? 僕が当番なのにもう終わってる。二人とも早いよ、まだ六時にもなってないのに」

「楽できたんだから文句は無いだろ。その代わり配膳は頼むな」

「はーい。ラナさん、おはよう。今日こそ見つかるといいね」

「おはよう、タキ。私もそう願うわ。シン、私出かける準備をしてくるわね」

「ああ、じゃあ扉の前で」


 バックヤード側から自室に向かって足を進めた時、タキとシンの会話が耳に入った。

 

「ところで兄さん、様子が変だけど……もしかして、あの場所へ行く決心がついたの?」

「まあ……いつまでも避けていられないしな」

「気が重いなら今日は僕が案内しようか? あそこなら僕にもわかるし」

「いや、大丈夫だ。あの場所に忌避感があるのは俺よりむしろ――」


 あの場所? 

 二人の会話を最後まで聞きたかったけれど、私は自室に戻って旅装束に着替え、扉の前で待つシンと共にアルテミへ向かった。

 



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