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207・お宝はまだ見つからないけれど

前回までのお話。

女神に頼まれた探し物の途中でアルテミ王に出会ったラナとシン。

国王はラナ達が洞窟神殿に入って行くところを目撃し、二人の事を探していた。

ラナは焦るが、国王はアルテミ復活が二人の手によるものだと気づいていて、何度も感謝の言葉を伝えたのだった。

 予定より一時間遅れて宿に戻った私達は、急いで仕事着に着替えて厨房へと向かった。

 開店に間に合うのか、正直微妙なところだ。

 しかし私とシンが戻ってきたことに気づいたチヨは、ニコニコ笑って小さく手を振ってきた。


「あ! おかえりなさい、ラナさん!」

「二人とも遅くなってごめんね!」

「あれ、その様子だと今日もダメだったんですね」


 私は苦笑いを浮かべつつ首を横に振って答えた。

 そしてエプロンのひもを結びながら、今日一番に報告すべきことを思い出す。


「そうそう、今日初めて人に出会ったの」

「本当ですか? 確か前に、人が住んでる気配があったって言ってましたもんね。どんな人でした?」

「それがね……」


 ストレートに「王様に会った」と伝えるのもつまらないなと思っていると、黙々と肉をさばいていたシンがボソッと答えた。


「アルテミの国王だよ」

「こくおう……お、王様ですか? いきなりすごい人に会いましたね」

「私もビックリ。この二週間、毎日私達を探していたんですって」

「ああ、あっちの宿木亭の所有者を探していたんですね」

「うーん、それもあったんだけど……」

「……? 他に何があるんです?」

 

 別に悪い事をしたわけではないが、何となくバツが悪い。

 視察だけのつもりで気軽に出かけた初日、私達は何も考えずに神殿へと向かってしまった。

 そして図らずも私の声が女神に届き、あの土地の封印が解かれるように水が消えた。

 結果オーライではあったけれど、まさかあんな朝早くに神殿に入って行く私達を見ている人がいたなんて思いもしない。

 私はゴクリと唾を飲み込み、二人に責められる覚悟を決める。


「あのね、アルテミの視察に行った初日の事なんだけど……神殿に入って行く私達の姿を、国王様に見られていたみたいなの」


 タキとチヨは顔面蒼白になり、作業の手が止まった。

 チヨの手からこぼれたジャガイモが床に落ちてコロコロと転がる。


「そ……それって物凄くマズいんじゃないですか?」

「兄さん……まさか、今まで捕まっていたの? 帰りが遅かったのはそのせい?」


 予想と違う反応をされて、私とシンは慌てて否定した。


「待って二人とも! 拘束なんてされてないわ。ね? シン」

「ああ、コレのお陰で変な誤解はされずに済んだ」


 そう言ってシンは首元からペンダントを引き出した。

 虹石がキラリと光り、皆の視線を集める。


「そっか、おばあちゃんのペンダント! それが身分の証明になったんだね」

「そういう事だ。心配しなくても向こうには初めっから敵意は無かった。オーナーはかなりビビッてたけどな」

「だって帯剣してたんだもの!」


 それを聞いたチヨは、タキと一緒に大きく安堵の息を吐いた。

 そしてジトッとした目で私とシンを睨みつける。


「もうっ、ビックリさせないでくださいよ! これから温泉宿を開業するのに、計画が台無しになるかと思ったじゃないですか!」

「何だよチヨ、心配するのはそっちか?」

「当然ですっ」


 鼻息荒くそう言いきったチヨは、得意げに言葉を続けた。


「だって二人には神様と聖獣と妖精王がついてるんですよ? どうして危険な目に遭うと思うんです? むしろ二人に何かしようものなら、その人には神罰が下ります!」

「……チヨちゃんて意外と冷静だよね。慌てた僕がバカみたいだよ」

「ふふん。ところでラナさん、せっかく王様とお話出来たんですから、当然宿の開業の件も話してきましたよね?」

「もちろんよ。開業許可は頂いたし、私達の事も歓迎してくださるって」

「本当ですか! そこが心配だったんですよ。住民として認められなくちゃ話になりませんからね」

「それから一応、あの村の役場で一通りの手続きを済ませてきたの。書類には王様のサインが入っているから、戻って来た人達とトラブルが起きる心配もないわ」

「さすがラナさん!」


 今、私は冷静に話しているけれど、実はすごく驚く事があった。

 村役場の住民記録では、なぜかあの一帯の土地建物の所有者はラナ・クロンヘイムと記載されていたのだ。

 つまり宿も家も私の曾祖母が元の所有者という事。

 ヴァイスによれば、神の力で記憶と記録の改ざんが行われていたそうな。

 お陰で手続きがスムーズに進んで良かったのだけれど、何も知らされていない私達は話を合わせるのに苦労した。


「じゃあ早めにここを任せる料理人と支配人の手配をしますね。人選は任せてください!」


 チヨは満面の笑みを浮かべてフロントへ向かうと、引き出しからペンと便箋を出して何やら書き始めた。

 早速実家に手紙を送るつもりらしい。本当に頼もしい相棒である。

 いよいよ本格的にアルテミ移住に向けて動き出した。

 不安もあるが、仲間が一緒ならどこに行っても楽しく暮らせる気がする。




 そしてその日の夜。

 疲労が蓄積していた私は早めにベッドに入った。

 身体は疲れてずっしり重いのに、なぜか頭は冴えている。

 何も考えずに早く寝ようと思っても、今朝の出来事が頭に浮かんでしまうのだ。

 エルカット王は私達を疑う素振りなど少しも見せず、すんなり受け入れてくださった。

 その理由は、私が初めて知る曾祖母の秘密のせいだった。

 

次話「208・曾祖母の秘密」

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