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203・妖精王と恋バナ

 シンを呼び止めたレヴィエントは、ラナが隣の建物に入るのを確認して徐に口を開いた。


「シン、そなた一度異世界に転生していたそうだな」

「ああ、ラナも一緒だった」

「異世界で生まれ変わるなど在り得ない事なのだが……。実を言うと、死後に転生待ちしていたそなたの魂を、女神が異世界に弾き飛ばしたそうなのだ」

「は? 何でだよ? 俺何かしたか?」


 理不尽極まりない話だ。

 ジンはライラや村の皆を助ける為に尽力し、命を落としている。なのにその扱いは到底納得出来るものではない。

 レヴィエントは顔を強張らせ、申し訳なさそうに目を伏せる。


「女神はそなたが愛娘に絶望を味わわせた事が許せず、カッとなってこの世界から追い出したと言っていた。悪いのは私の兄弟なのだが……それを知ったのは最近の事だからな。そなたらには本当にすまない事をした」


 女神は生まれ変わった二人が再会するのを阻止する為に、ジンの魂を異世界に送ったのだ。

 正直そんな逆恨みをされても、残念ながら異世界で再会して楽しく付き合っていたし、今も一緒にいる。

 それだけ二人の結びつきが強かったという事である。


「俺、妖精に殺された上に女神に恨まれていたのかよ……。まあ、俺の事は仕方ないとしても、何でラナまで異世界に転生したんだ?」

「そなたの魂を追いかけたのだ。女神の娘だから出来た事だろう」

「そっか……あいつ俺を追って来てくれたのか……」


 自然と口元がゆるむ。

 そしてふと、ある疑惑が浮上する。

 彼女に告白しようと思っていたタイミングでの突然の死には、女神が関わっていたのではないか? というものだ。

 折角異世界に飛ばしてまで引き離した男が、また娘に近づこうとしていたのだ。無くはないだろう。


「なあ、前世の事だけど、女神に恨まれてる俺の巻き添えで、あいつも一緒に事故死したって事はあるか?」

「いや、その事故を機に、異世界の神がそなたらを元の世界に戻したと考えるのが自然だな。神といえど、異世界には干渉できないルールがある」

「なら、俺の魂に呪詛の類がかけられてるって事は?」

「それについては何とも言えぬが……」


 前世は若くして死んだ事以外特に悪い出来事は無かったが、シンとして生まれ変わってからというもの、自分は呪われているのでは? と考えてしまうほど不運続きだった。

 祖父母を早くに亡くし、その後両親は事故死、タキがサンドラに襲われて死にかけ、世話になったレストランのオーナーの急逝。

 すべてが好転したのはラナと出会ってからだ。

 もうダメかと思っていたタキが助かり、一緒に働けるまでになった。ついでに身を守る為の魔法と剣術を体得したし、タキはもう独り立ちだって出来るだろう。


「思えばラナと出会ってから急激に運気が上がったんだ。あいつとは毎日長時間一緒にいたから、俺も知らない間に浄化されていたのかもしれないな……てか、そんな話がしたくて俺を引き止めたのか?」

「ああ、すまぬ。女神がそなたへの償いに、何か一つ希望を叶えてやりたいと言っている」

「いいよもう、終わった事だし」

「しかしな……」


 レヴィエントは困った顔をする。

 女神に俺の願い事を聞いて来るよう頼まれたのだろう。


「わかった。俺の願いはラナが幸せになる事だよ」

「自分ではなく、ラナの幸せを願うのか?」

「前世ではライラが幸せに生きるのを見届けられなくて、それが心残りだった。俺があいつを幸せに……いや、あいつが心から好きな相手と幸せになってくれれば、それで良い」

「その言い方では、ラナの相手がそなたでなくても良いと言っているように聞こえるが?」

「……良いよ。ライラは望まない相手との結婚を強いられて不幸になったらしいし、ラナも婚約した相手から酷い仕打ちを受けて傷ついた。だから、今度こそ愛する人と添い遂げてほしい」


 シンはウィルフレッドの存在を気にしていた。

 ラナの気持ちはわからないが、幼い頃二人が婚約していたと知った時から、もし今でも王子に未練があるのなら、何も持たない自分は潔く身を引くべきだと考えているのだ。

 本音では自分がラナを幸せにしたいと思っていても、優先すべきはラナの気持ちだと、無理に自分の心を押し殺していた。


「ラナを愛しているのだな」

「ああ、この世の誰よりも」

「ならば、あの子に気持ちを伝えればよい。それですべて解決するだろう」

「ダメだ。あいつは優しいから、本命が居ても俺からの告白を断れない」

「本命など、誰なのか一目瞭然だと思うが……。承知した。女神にはそなたの気持ちを伝えておこう」

「そうしてくれ」

 

 あんたは知らないだろ、ラナにはショックで心に蓋をするほど好きな人がいるって事を。

 シンはそう心の中で呟いていた。

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