195・妖精の過ち
「レヴィエント、あなたが言っているのは私が浄化したあの子の事でしょう? もしかしてシンのご両親の事故に関わっていたの?」
「ああ、それは違う。今話しているのは今世の出来事ではない」
「今世ではないって……。それじゃあ、前世って事?」
レヴィエントは私の質問に頷き、淡々と説明を始めた。
私に浄化された妖精はあの時消滅したかに見えたが、サンドラの魂を聖女として転生させた運命の女神によって天界に召喚されていたらしい。
そしてなぜサンドラが聖女になれなかったのか、その原因を究明すべく、妖精の魂に刻まれた記憶が公開されたそうだ。
それを見た女神は怒り、罰として人間界での奉仕活動を妖精たちに命じた。
そして魂の記憶公開時に、あの妖精が妖精界追放のきっかけになった事件を起こす前にも、もう一人犠牲者を出していた事が判明したのだ。
その人物こそがシンの前世だと言う。
「私もまさか、偶然知り合ったシンが我が兄弟のせいで命を落とした青年の生まれ変わりだとは予想もしていなかった」
「……マジか。タキだけじゃなく前世の俺も……?」
「死ぬ予定になかった者を面白半分に窮地に追いやり、事もあろうにそれを傍観して楽しんでいたのだ。ラナの前世にも深く関わっている為、その件で私は、ライナテミスからも怒りを買ってしまった」
それはつまり、ライラだった頃の私がシンの前世と関係があったという事?
ん? ちょっと待って。
私、今の生の前は異世界に転生していたんだった。もしかしてそっちの話?
妖精のせいで命を落とした青年って……仁さん?
事故の時の記憶が曖昧でよく思い出せない……。そう言えばあの日、二人でイベントに向かっていたのよね。私は事故で死んだけれど、一緒にいた彼は助かったのかしら?
確か、猛スピードで車が突っ込んできて――
当時の事を思い出そうと懸命に記憶の糸をたぐる。
「――な……葉名……葉……名……」
息も絶え絶えに、不安そうに私の名を呼ぶ仁さんの声。
私は意識が朦朧としていて返事が出来ないまま、彼の体温を感じながら安心して人生の幕を閉じた。
一瞬だけ見えた前世の景色。死の間際の出来事だ。
急に心臓がバクバクと早鐘を打ち、額からは冷や汗が流れる。
「――ナ、ラナ、どうした? 顔色が悪いぞ」
シンが私を呼ぶ声と記憶の中の声がシンクロして、事故当時の事がフラッシュバックした。
迫り来る暴走車から逃げなきゃと思っているのに、あの時私は足がすくんで動けなかった。
仁さんはそんな私を抱き抱えて逃げようとしてくれたのに、私がモタモタしたせいで次の瞬間には二人揃って固い地面に叩き付けられたのだ。
何て事! 私が趣味に付き合わせたせいで、仁さんも亡くなったの?
パッとシンの顔を見る。すると、彼に仁さんの姿が重なって見えた。
「ごめんなさい……。ごめんなさい、仁さん……」
「……!! お前……今何て?」
シン、私には記憶があるの。前世の記憶が。ずっと前から気になっていたけど、あなたはやっぱり……?
あまりに気持ちが高ぶり過ぎて、私はここで意識を失った。




