189・引き寄せられる運命
教会で神父様に出迎えられた私達は、こちらが用件を伝える前に執務室へと案内された。どうやら神父様は私が現れる事を予測して待っていたらしい。
そして執務室のドアを閉めるなり、神父様は私達を椅子に座らせてすぐに話を切り出した。
「あなた方がここへ来たという事は、賞金稼ぎを名乗る男達が宿に現れたのですね?」
「は、はい。その件で神父様にお訊ねしたい事があって参りました」
「あなたには大変お世話になったというのに、ご迷惑をおかけして申し訳ありません!」
神父様はいきなり私に頭を下げる。
シンも私もその勢いに圧倒されてしまった。
「え……あの……神父様?」
「彼らには上手く誤魔化したつもりだったのですが、私が世話をしている子ども達が旅のヒーラーの事を話してしまったのです」
ここには教会の善意で学校へ通わせてもらっている身寄りの無い子どもが数名暮らしている。
神父様ご自身が同じ身の上だった事もあり、街で軽犯罪に手を染めて捕まった子ども達を保護して更生する機会を与えているのだ。
「あの……よければ詳しく話していただけますか? 彼らはカイがうちの宿泊客ではないとわかると何の説明もせず立ち去ってしまったのです」
神父様はチラリとシンに目をやる。
シンが居ると話しにくい内容なのだろうか。
「神父様、心配せずともシンは私の事情を知っています。ですから話してください」
「そうでしたか。では、お話しします。彼らは私がラナさんに差し上げた黒曜石のペンダントを探しています」
「このペンダントを?」
私は胸元からペンダントを引き出して神父様に見せる。
「はい。どのようにして調べたのか、私がラナ・クロンヘイム様からペンダントを譲り受けた事を彼らの雇い主は知っていたのです」
賞金稼ぎの男達を信用出来なかった神父様は、ペンダントはもう手元に無いと話し、子どもの頃に価値もわからずパンに換えてしまったと彼らを追い返したそうだ。
しかしその会話をこっそり聞いていた子ども達は賞金稼ぎを追いかけ、「自分達の誰かがもらうはずだった黒いペンダントを神父様は旅のヒーラーに報酬として渡した」と、ペンダントをもらえなかった腹いせに暴露してしまったのである。
そういえばあの時、神父様はペンダントを誰に譲れば争いが起きないかお悩みの様子だった。ペンダントを巡り、子ども達の間で喧嘩が絶えなかったのかもしれない。
そして賞金稼ぎの男達は翌日の朝再び教会に現れると、今度は口の堅い神父様ではなく下働きの女性に目を付けてカイについて聞き込みをして行ったのだそうだ。
これでカイの情報が賞金稼ぎに渡った経緯はわかった。知られたところでカイの正体が私だと気づく者はいないだろうし、そこは特に気にしていない。
一体誰が何の為にペンダントを探しているのだろう。
「で、その雇い主ってのは誰なんだ?」
「信じがたい事ですが、アルテミの王家の方だそうです」
「……!!」
「王族だって?」
アルテミの王族と聞いてピンと来た。
シンに目を向けるとシンも同じ事を思ったのか同時に私の顔を見た。
私達はつい最近アルテミの王族を名乗る少女と出会っている。確か彼女は第三王女のシェリアと言っていた。雇い主は彼女なのだろうか。
「神父様、何の為にペンダントを探しているのかお聞きになりましたか?」
「それが……国の復興の為に必要だと。取り戻して王家に返還しろと言われました」
「いや、国の復興って……うちは色んな国から旅人が来るが、そんな話聞いた事無いよな?」
「ええ。私も初耳だわ」
「私もアルテミの復興が始まったという話は聞きません。それが事実なら嬉しいですが、雇い主が王族というのも信用していいものかと……。避難した後、王家の方は誰一人行方がわからない状態なのですから」
神父様は戸惑っている。確かにかなり胡散臭い話だ。
だけど本当に国を復活させる動きがあるとしたら私も嬉しいし、何かお手伝いをしたい。
これは調べてみるべきだろう。幸い私のもとにはアルテミまでひとっ飛びで行けるヴァイスが居る事だし。
「あの、神父様」
「はい、何でしょう」
「王族は誰一人行方がわからないとおっしゃいますが、目の前に居ますよ」
神父様はキョトンとして私を見る。
「失礼ですが、ラナさんの曾祖母であられるラナ・クロンヘイム様は王族ではなく貴族ですよ」
「ふふ、私ではありません」
チラリと隣に座るシンに視線を向けると、神父様は更に意味がわからないという顔をする。
「……シン君……の事ですか?」
「はい。シンとタキは巫女姫様の孫なのです」
「……まさか、シン君達兄弟が王子様だったとは……。巫女姫様は避難せず神殿に残ったのではないかと噂されていましたが、この国に避難なさっていたという事ですか?」
シンはコクリと頷きシャツの襟元からペンダントを取り出して見せる。
すると、感極まった神父様は席を立ち、泣きながら彼の前に跪いた。
私達は何事かと驚いてしまったけれど、神父様は懐かしそうに目を細めて幼い頃の話を聞かせてくれたのだった。




