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183・すみません、全部知ってます

「オーナー、もうコソコソするのはやめよう」


 振り返るとテラスの端にシンとタキが立っていた。

 そしてその後ろには先ほど私の部屋に来たメイドの姿が見える。彼女は良かれと思ってシン達に殿下が来ている事を知らせてくれたのだろう。予想に反して二人は隠れていてはくれなかったけれど。

 でもこれで踏ん切りがついた。

 いつまでも誤魔化し通せるとは思っていなかったし、正直に話せば新たな関係が築けるかもしれないもの。

 メイドは申し訳なさそうに私に頭を下げ、屋敷に入って行った。


「やはり見間違いではなかったか……」


 殿下は二人を見て低く呟いた。見間違いであってほしかった、というニュアンスが含まれている気がした。

 魔法訓練などで宿以外でも交流のある彼らは、きっと私が思うより親しくしているのだろう。殿下は何とも言えない複雑な表情を浮かべた。


「おはようございます、殿下」


 シンとタキは落ち着いて挨拶をし、二人並んでこちらへやってきた。

 しかし殿下は眉をひそめて二人を睨む。


「シン、タキ、お前達も俺を騙していたんだな。互いの事情を話した時、彼女の事も話してくれれば良かったのに……」

「待て。動揺する気持ちもわかるが、俺達の事とそいつの事は別だろ。それに、素性を隠していたのはお互い様だ。まずは冷静になれ。そいつがどんな理由で家を出たのか、知らない訳じゃないだろう?」

 

 シンは冷静さを失った殿下を落ち着かせるように、穏やかに語り掛けた。そして私達の所まで来ると、殿下に掴まれていた私の手をそっと解放してくれたのだった。

 心配そうに私を見るシンに、大丈夫よ、と微笑む。

 二人が来てくれて良かった。

 殿下は一瞬私達に怒りを向けたけれど、シンが間に入った事で少し落ち着きを取り戻してくれた。

 

「すまない、動揺してつい……痛かったか?」

「いいえ……」


 手首の痛みはそれほどでもない。でも殿下は私に乱暴な振る舞いをしてしまった事を後悔してか、一歩下がって私から離れた。


「お前を責める前に、自分の事を話すべきだったな。エレイン、俺はフレッドと名乗り、素性を隠して宿に出入りしていたのだ」

「はい、それはもうとっくに知っています」

「……知っている?」


 殿下はハッとしてシンを見たが、自分達は話していないと二人は首を横に振った。

 そこで私は、フレッド様の秘密を知った日の事を本人に話す事にした。


「殿下、この二人は何も話していません。私は冷蔵庫を頂いたあの日、すぐにお礼を伝えたくてフレッド様の後を追いかけました。そして従者のヴィレムが待つ馬車に乗り込むところを目撃してしまったのです」

「……!」

「従者はフレッド様を殿下と呼んでいました」

「そんなに前から……。ならばすぐ言ってくれれば良かったのに」

「……言える訳がありません」

「なぜだ?」

「私は聖女暗殺を企てた犯人として貴族社会から追放されたのです。あの時の私の立場で打ち明けられたとお思いですか? それに……血の誓約書。あれは殿下が破棄してしまいましたが、リアム様との約束は有効です」


 言えなかった理由はそれだけではないけれど。

 殿下に正体をバラせば否が応でもそこからまた王家との関わりが出来てしまう。今の生活を脅かす可能性があるものからは、なるべく離れていたかったのだ。

 先日の殿下の様子からして、その判断は間違いではなかったと確信している。

 私の説明を聞いて、殿下は納得してくれた。


「ああ……それはそうだな。すまない、ある程度予想して来たのに自分がこんなに動揺するとは思っていなかった。後日ゆっくり話がしたい。宿にはいつ戻る予定だ?」

「誘拐事件が解決しましたので、家族に挨拶を済ませたらすぐに帰るつもりでいます」


 私がそう答えると、殿下は一瞬変な顔をした。


「なぜ事件が解決した事を知っている?」

「……!」


 うっかりまだ知らないはずの情報を口にしてしまい、私は目を泳がせる。

 すると、すかさずシンとタキが私のフォローに入ってくれた。


「ウィルフレッド殿下が今ここに居るって事は、事件が解決したんだろ?」 

「だよね。僕もそうだと思ってたよ。ね、ラナさん」

「え、ええ。殿下は事件が解決したら会いに来ると仰っていましたし、私もてっきりそう思っていました」


 殿下はやや納得がいかないという顔している。しかし私達が被害者の救出に関わっていたなど思いもしないだろう。

 会話が途切れたその時、場の空気を変えるようにルークお兄様がテラスに出てきた。


「皆早いな」

「ルークお兄様! 今おかえりになったの?」

「ああ、やっとお前達もここから解放されるぞ」


 兄も連日捜索に出ていた一人だ。かなりくたびれた顔をしている。

 きっとすぐにでもベッドに倒れ込みたいだろうに、帰るなり殿下の乗ってきた馬車がある事に気づき、使用人に話を聞いて私達の様子を見に来たのだろう。

 シン達が一緒に居るのを見て状況を察したのか、やれやれ、と小さく息を吐いた。


「ところで、殿下はなぜここに?」 

「エレインの落とし物を届けにきたのだが、もう帰るところだ」

「そうでしたか、それはありがとうございました。では私が馬車までお送りしましょう」

「ああ。エレイン、次は宿で会おう」

「はい。お待ちしております」 

   

 ウィルフレッド殿下はルークお兄様に案内されあっさり帰って行った。

 殿下の背中を見送り、少し気が抜けたところでタキが心配そうに尋ねてきた。


「ラナさん、僕達余計な事をしちゃったかな?」

「ううん、これでよかったと思うわ。さて、宿に帰るなら支度をしなくちゃ」

「そうだな。帰ったらやる事が山済みだ」


 私達は朝食の席でおじい様に宿に帰る事を伝え、朝のうちに屋敷を出たのだった。

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