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181・早朝の訪問者

 私が一人で身支度をしていると、軽く扉をノックして二人のメイドが慌ただしく部屋に入ってきた。


「お休みのところ失礼致します!」

「おはよう。どうしたの? そんなに慌てて」


 鏡の前で髪を梳いていた私はビックリしてメイド達の方を見る。

 メイド達もほぼ身支度の済んでいる私を見て驚きつつ、ホッと安堵の息を吐いた。先ほどヴァイスが言っていた通り、今朝はアポイントの無い突然の来客があったようだ。

 時間は午前五時を十分ほど過ぎたところ。使用人達は働き始めているけど、普段なら私はまだ夢の中である。


「よかった……もう起きていらしたのですね。おはようございます、エレインお嬢様。お一人で支度をさせてしまい申し訳ございません」

「いいのよ。それに身支度くらい自分ですると言ったでしょう。それで何があったの?」

「は、はい。ウィルフレッド殿下がお見えです。お嬢様との面会を希望されています」

「殿下が!?」

「何やら差し迫ったご様子で……。お約束もございませんし、お嬢様はまだお休みになっているので出直していただきたいとお伝えしたのですが、ならば直接部屋へ行くと仰いまして……」


 彼女達は王子に無理を言われてどうする事も出来ず、慌てて私を起こしに来たようだ。

 男性が直接私の部屋に来るなど言語道断。

 それも寝ている時間に王子が侵入したとなれば大問題である。

 うちの使用人に限って無いとは思うが、嫁入り前の若い娘が男性を寝室に招き入れていたなどと噂が流れれば、私は周囲からふしだらな娘と蔑まれ、名誉が著しく傷つけられてしまう。

 それどころか、場合によっては世間体を気にして結婚させられてしまう事だってあるのだ。

 宿では気楽に私の部屋を出入りするシン達も、それを理解しているからここでは私の部屋に近づこうともしない。

 

「旦那様方もまだお休み中ですし、私達だけでは対応に困ります。お嬢様を苦しめた第二王子様とは違って紳士的なお方だと思っておりましたのに、この間の事といい、お嬢様の扱いがおかしくありませんか?」


 もう一人のメイドは憤慨した様子で王子への不満をこぼした。

 数日前、先ぶれも無く居間にやって来て、いきなり私に抱き着いてきた殿下の行動に彼女は不信感を抱いている。

 多分フレドリック殿下の影響で王族にあまり良い印象を抱いていないのだろう。


「滅多な事を言うものではないわ。部屋に来るというのはただの脅しで、きっとそれくらい私に会わせてほしいという意味で仰ったのよ」


 ヴァイスが知らせてくれたので大体の察しはつく。

 私のペンダントをヴァイスが見つけた時、それは既にウィルフレッド殿下の懐に入っていたそうだ。

 ヴァイスは隙を見てペンダントを取り戻そうと殿下を追ったが、殿下は休む間も無く捜査本部として使用していた兵士の詰め所に篭ってしまったらしい。

 そこで各地へ散っていた部下の報告を聞き、残りの二人を無事に保護した事を確認して本部が解散したのが今から約一時間前の事。

 いよいよ王宮に戻って休むかと思いきや、三十分ほど休憩した殿下は顔を洗ってそのままこちらへ来てしまったというのだ。

 ヴァイスの話だと、殿下は思いつめた顔をしてあのペンダントを見ていたらしい。

 数日前に私が身に着けているのを見られているし、あれだけ特徴のあるペンダントを忘れはしないだろう。

 彼はそれが私の物だと確信をもってやって来たのだ。一体どこに落としてきたのだろうか? どこに落としたかによっては言い訳が難しい。


「それで、私は応接室へ行けばいいのかしら?」

「いえ、服が汚れているからと仰って、屋敷には入らずテラスの方へ行かれました」


 その汚れた服で私の部屋に入ろうとした人が応接室に入る事を遠慮するなんておかしいわね。


「待って……テラス? ねえ、シンとタキが今どうしてるか知ってる?」


 まずい。あの二人は毎日の日課として早朝に身体を鍛え、剣の稽古をしている。昨夜は皆で遅くまで起きていたけれど、ここへ来てからも日課は欠かしていない。

 という事は……。  


「少し前から敷地内を走っておられます。……あ! あのお二人を殿下に見られてはまずいのですか?」

「彼らは縁あって殿下に剣と魔法を習っているの。つまり顔見知りよ」

「まあ! お嬢様方は下町で殿下と会われていたのですね。では何が問題なのです? あら? でもこの間、殿下はお嬢様を探していたと仰っていたような……。どういう事でしょう?」


 メイドは状況がつかめず混乱している。確かにお互い顔見知りならコソコソ隠れる必要など無かったのだ。ただ私が素性を隠していた事だけが問題なのである。


「殿下にお会いするわ。テラスに行けばいいのね」


 姿見の前で身だしなみをチェックし私が部屋を出ていこうとすると、メイド達が後をついてきた。


「ついて来なくていいわよ」

「しかし……」


 それでもついて来ようとするメイドにそこでストップと手で制し、私は急いでテラスに向かった。

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