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176・救出作戦開始!

 屋敷に戻った私達は、馬車を降りてすぐに妖精を探した。

 しかし我が家の前庭(まえにわ)は芝生と低い生垣だけのシンプルなデザイン。その為妖精の好みではないのかどこにも姿が見当たらない。

 そこで私達は花が咲いている裏庭へと向かった。花の咲く木や花壇の周りにはたくさんの妖精が飛び回っている。

 それに光の玉だけでなく小さな動物の姿の妖精も飛んでいた。宿で見た覚えのある子達だ。


「あ、居た居た。妖精さん、集まってー」

「オーナー、レヴィも居ないのにどうやって会話するつもりだ?」

 

 彼らはレヴィエントのように人の姿にはなれないが、私達の言葉は理解している。私が号令をかけると、動物姿の妖精を筆頭に小さな光の玉が花の陰からわらわらと集まってきた。


「シン、私達にはとっても頼りになる仲間が居るでしょ。ヴァイス、お願いね」


 私が声を掛けると、小さなライオン姿のヴァイスが目の前に現れた。


(承知しました。ラナ様と間違えて攫われた少女を捜してほしいと頼めばいいのですね?)

「ええ。髪の色や背格好が私に似た女の子三人よ。もしかしたらもっと居るかもしれないけれど、そんな曖昧な情報だけで捜せるかしら?」

(はい。ここに居る彼らと私とで手分けして街中に居る妖精に捜索を依頼してきます。見つけ次第知らせに参りますので、しばらくお待ちください)


 ヴァイスは事も無げにそう答えた。


「随分簡単そうに言うのね。まるですぐに見つかるみたい」

(妖精は黒い霧が大量に発生している場所に寄り付きません。ですからその辺りを捜索すればすぐに見つかるでしょう)

「でも、犯人が被害者と一緒に居るとは限らないわ。どこか別の場所に閉じ込められているかも。それに捜索範囲は王都だけではないのよ?」

(国内全域ですか……。では、あの方にも協力を仰ぎましょう)

 

 ヴァイスは集まってきた妖精達に私の依頼内容を説明し終えると、スッと姿を消した。そして妖精の光の玉は、水上花火のように各方面へ向けて飛び去ったのだった。

 

「なあ、今すごい勢いで妖精が飛んで行ったけど、引き受けてくれたのか?」

「ええ。しばらく待ってと言われたわ。でもあの方って誰の事かしら……?」

「あの方?」

「誰かに協力を仰ぐらしいの」

「レヴィか? まさか女神様じゃないよな」


 妖精王レヴィエントは闇落ちした兄弟の浄化後、すぐに妖精界に帰ってしまった。あれ以来私達の前に姿を見せていない。

 何だかんだと数ヶ月を一緒に過ごし、私の方は情が移って別れの時に泣いてしまったというのに、向こうはあっさりしたものだった。


「捜索の範囲が広いし、妖精界から妖精を派遣してもらうつもりかもな……。じゃあ見つかり次第、俺達が助けに行くって事でいいな」

「ええ。いつでも出られるよう準備しておきましょう。早速衣装部屋でお兄様の服を物色してこなくちゃ」

「ん? 俺達は持ってきた私服で十分だぞ? 大体俺にはサイズも合わないし……」

「ふふ、私が着るのよ。宿に戻れば自分で作った服があるけど、動きやすければ何でもいいもの」


 私とシンはそれぞれ部屋に戻り、ひとまず部屋着に着替えて居間に集まった。すると、私達の帰りを待っていたチヨとタキが嬉しそうに出迎えてくれた。


「あ! おかえりなさい、ラナさん! シンもお疲れ様!」

「兄さん、ラナさん、二人ともおかえり。パーティーはどうだった?」

「ちょっと予想外の出来事があったけれど、きっとすぐに私の噂が広まるわ。これで新たに女の子が攫われる事も無いはずよ」

「そっか……じゃあ早く女の子達が見つかるといいね。誘拐しても無駄だとわかったら口封じされてしまうかもしれないし……」


 タキの一言に私達はギョッとした。タキは「口封じ」と言葉を濁して表現したが、家に帰されず殺害されてしまう可能性を暗に示したのだ。

 ここで私はお茶を出そうとしていたメイド達を下がらせた。この先は内緒話だ。

 出来れば私の部屋に集まって気楽に話がしたい。しかしこの屋敷に居る以上、男性を入室させる事は不可能だ。


「タキの言う通り、誘拐犯達も捕まるリスクを負ってまで攫った女を解放しないだろうな。だから事件が解決するのを待たずに俺達で救出しに行く」

「助けに行くのは賛成だけど……どこに? 僕らだけでは捜し出すのが大変だよ」


 タキは困惑して私の顔を見た。何か策はあるのかと目で訴えている。


「さっきうちの庭に居る妖精さんを集めて、攫われた女の子達の捜索をお願いしたの。しばらく待てば報告が来るわ」

「妖精に? そんな事可能なの?」

「オーナーが攫われた時、困ってる俺を助けてくれたのも妖精だ。ヴァイスも行ってくれているし、見つけてくれると信じて待とう」

「……うん、わかった。早く日常に戻りたいし、僕に出来る事なら何でもするよ」


 ふと、いつもの元気な声が聞こえず、どうしたのかと隣に座るチヨを見ると、自分だけ会話に入れないと感じたのか、チヨは少し暗い表情を浮かべていた。

 仲間外れにするつもりは無いが、こうした危険な行動をとる時にはチヨを外すしかないのだ。

 本人もそれを理解していて、私達の会話に口を挟んでこないのがいじらしい。


「という事でチヨ。私と一緒に衣装部屋に行きましょう」

「え? 衣装部屋ですか?」

「お兄様のお古の中から、私が着られそうな服を探すのを手伝ってほしいの。メイド達に内緒でね」


 耳元でそう囁くと、チヨはシンとタキには出来ない役割を与えられて満足気に返事をした。


「はい!」

「ふふ、シンとタキはうちの家族に気づかれないように屋敷を抜け出す方法を考えておいてくれる?」

「了解。タキ、俺の借りてる部屋に移ろう。ここは誰が来るかわからない」

「そうだね。じゃあ、ラナさん、チヨちゃん。また後で」


 一旦シン達と別れ、私とチヨはこっそり衣装部屋に入った。

 そして二人でお兄様の子供の頃の服を探す。

 私が着られるのは恐らく十代前半の頃の物だ。娘ばかりの我が家では、小さくなったお兄様の服などどうせ誰も着ないのだから、気に入ったのがあれば持ち帰るつもりでいる。

 普段は着られないけど、リメイクしてコスプレ衣装として活用するのだ。


「うわ~、これだけあれば服屋さんが開けますね!」

「ただ保管してるだけなんて勿体ないわよね。古着屋さんに売ればいいお金になるのに……」

「くふふ……ラナさん、それ公爵家のお嬢様の発言じゃありませんよ?」

 

 チヨはすっかり庶民の感覚が染みついた私を揶揄うようにニヤリと笑った。

 ポロっと本音が出てしまった私は、咳払いで誤魔化してして衣装部屋の奥へと進む。

 マリアのパーティーで気を張っていた分、気心の知れたチヨの前だとつい素をさらけ出してしまう。

 だけど、ここにある服を全部売れば、宿の客室の修繕と布団の買い替えくらい楽に出来そう……などと頭の中でそろばんを弾いていたのは内緒にしておこう。


「チヨはそっちを見てくれる?」

「わかりました」


 衣装部屋と呼んではいるが、誰も着なくなった服を収めている部屋はちょっとした倉庫である。

 性別や年代ごとに分類して収納されていても、それが棚に表示されている訳ではないので目当ての物を探すのは一苦労だ。

 せめて誰が着ていた物か名札が付いていれば探しやすいのだけど。

 

「ラナさん、これなんかどうです?」


 チヨがチュニックとパンツのセットをどこかから見つけてきた。恐らくお兄様が騎士見習いになる時に仕立てた稽古着だと思うが、その割にどこも傷んでいない。


「それどこにあったの?」

「こっちです。割と状態の良い小さいサイズが揃ってますよ」


 チヨの案内で向かった先には、見覚えのあるお兄様の服が小さい物から順に吊るされていた。

 しかし途中から急にサイズが大きくなっている。思春期の頃に急激に身長が伸びていたからそのせいだ。

 私が着られそうなのはちょうどその前。数回しか着ていないのか見た目はほぼ新品である。


「この辺の綺麗な物を何着か持っていきましょう。マントもあった方がいいわね。確かこの服にはベルトがあるはずだけど……小物はどこかしら?」

「ラナさん、ほらコレ!」


 チヨが箱に仕舞われていたベルトを見つけて得意気に箱ごと掲げて見せる。私はそこからベルトを取り出し、選んだ服を畳んでマントで包んだ。

 そして棚に並べられた帽子の中からハンチングとキャスケットを手に取り、それをチヨに持たせて衣装部屋を出た。


「まあ、お嬢様方、衣装部屋に御用でしたか? すみません、席を外しておりました」

「ええ、でももう用は済んだわ。着られそうなのを何着か貰っていくわね」


 あえて誰の服かは言わず、ニッコリ笑って誤魔化す。


「承知しました」


 メイドの目は私の抱えている包みに向けられたが、特に不審がられる事も無くその場をやり過ごせた。私とチヨは持ち出した服を試着する為に私の部屋へと急ぐ。

 騎士見習いの稽古着は街中で捜索に加わっている少年達が着ている物と形が同じである。だからもし誰かに見られても捜索隊の一人だと思われるだろう。

 問題は靴だが、幸いここには自分のブーツが山ほどあるので、乗馬用の黒いロングブーツを合わせてパンツをブーツにインした。

 上は濃いブルーの袖無しチュニック。その中には飾り気のない自分の白いブラウスを着た。グレーのパンツはやや大きめだが、ウエストを少し詰めれば問題ない。

 そして最後にチュニックの腰部分にベルトを巻けば完成だ。長い髪の毛は一つに縛ってチュニックの中に隠す。


「サイズは問題ないみたい。見た目はどう?」

「うーん……ダメですね」

「ダメ? でもここにはメイク道具が無いから、少年風メイクは出来ないわよ」


 スッピンのままではダメという意味かと思ったが、チヨの視線は私の胸元に注がれている。


「少年なのに胸が出てます」

「うっ……。また後で着替えるから、その時に布を巻いて潰すわ。マントも羽織るし誤魔化しがきくでしょう。さて、後はヴァイスが戻ってくるのを待つだけね」


 そして日が傾きかけた頃、ヴァイスは戻ってきた。皆で庭へ出て報告を聞き、シンとタキが考えた作戦を実行に移す。

 まずいつも通り家族と夕食を済ませた私達は、新しいメニューを考えたいと言って厨房を占領し、朝まで立ち入り禁止にした。

 その為私達が戻るまでの間、チヨには厨房で作業をしていてもらう。

 幸いな事に、ここには和の国から取り寄せた調味料が結構あるのだ。私の料理を食べたおじい様が屋敷の料理人に味を再現させようとした名残である。


「チヨ、こんな広い厨房に一人では心細いかもしれないけれど、何か料理を作って待っていてね。ここにある物は何でも使っていいそうだから」


 厨房の物陰でお兄様の服に着替えた私は、そう言って扉に手をかけた。

 

「任せてください。美味しいお夜食を作って待ってますね」


 チヨに留守番を頼み、使用人達が出入りする扉から外へ出ると、そこにはヴァイスが二人居た。

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