表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/227

148・天使召喚の儀式

「ライラさん!」


 部屋を出るとすぐに、私は誰かに呼び止められた。声の主を捜してキョロキョロと周囲を見回すと、イリナ様が回廊の所で私を待ってくれていた。


「ライラさん、こっちです」

「あ、イリナ様!」


 私は小走りでイリナ様の側へ行き、今日の儀式を見学させてもらえる場所まで一緒に移動した。イリナ様の表情は硬く、少し緊張しているように見える。

 そういえばイーヴォが急に予定が変わったと言っていたけれど、王弟殿下の到着時間が早まったというだけではなく、何か別の問題が発生したのかしら? 

 そんな事を考えていると、イリナ様から小声で今日の注意事項が伝えられた。


「ラナさん、決してわたくしの側を離れないでくださいね。それから、くれぐれも目立たぬように。何かわからないのですが、先ほどから嫌な感じがするのです」


 イリナ様が険しい表情で見つめる先には、王弟殿下の為に用意された椅子がある。そしてその隣に、もう一脚同じ椅子が並べられているのが見えた。

 おまけに回廊の柱の前には兵士が数名立っていて、これから天使を呼び出そうとしているとは思えない物々しさである。


「イリナ様、もしや王弟殿下の他にも王宮からどなたかお見えになっているのですか?」

「はい、突然決まったらしいのですが、それがちょっと……」


 私達は王弟殿下の席から少し離れた後方に控え、そこから天使召喚の儀式を見学させてもらう事にした。

 それから少しして神殿施設に繋がる扉が開き、神官長を先頭にして大神官様、王弟殿下と続き、天使召喚の立会人達がぞろぞろと回廊を進んできた。


「お見えになったようです。ラナさんも頭を下げて」

「あ、はい」


 左手を胸に当て軽くお辞儀するイリナ様を見て私もそれに倣った。王族を前にするのに最敬礼ではない事に驚いてしまうが、本来相手が神か国王でない限りこれが正しい作法である。

 出来れば最敬礼して完全に顔を隠したいところだけれど。

 私はイリナ様より少しだけ深く頭を下げ、どうかエレインだと気づかれませんようにとドキドキしながら一行が通り過ぎるのを待った。

 本当ならもうお目にかかる事もないと思っていた王弟殿下が私の前を悠然と通り過ぎていく。

 気づかれなくて良かったとホッとしたところで、なぜか一人の男性がピタリと私の前で立ち止まり、かがんで顔を覗き込んできた。

 視界に入る特徴的な服を見て、目の前に居るのが誰であるかすぐにわかった。私は絶対に目を合わせるものかと眼鏡を手で押さえるふりをして顔を隠す。


「殿下、今は巫女付きの侍女など構っている場合ではありません。殿下が席に着かなければ儀式が始められないのですよ」

「アーロン。この娘と以前どこかで会った事がある気がする。侍女という事は貴族の娘だな。地味だがなかなか美しい顔を……あ、おい! エヴァン、なんのつもりだ。今すぐ手を放さぬか!」


 私の顔を覗き込んできたのはフレドリック殿下である。殿下が来ているという事は、当然側近のアーロンとエヴァンも一緒だ。

 エヴァンはフレドリック殿下の腕を引き、私から遠ざけてくれた。

 以前は殿下に遠慮してか直接手を出せずにいたけれど、あれから信頼関係を築く事が出来たのか、少しの迷いもなく力ずくで主の行動を止められるようになっていた。


「王弟殿下に睨まれています。このような時に女性に声をかけるなど、殿下らしくもない事を……。それに、まるで品定めでもするような失礼な発言はよくありません」

「むう……わかったからその手を放せ! イリナの侍女よ、今の発言を許せ。これでいいだろう」


 フレドリック殿下はエヴァンにまで小言を言われ、私に心にもない謝罪をした。

 ムッとして腕を振りほどこうとしたけれど、エヴァンはまったく動じる事なく平然としている。

 アーロンは私に礼儀正しく謝罪すると、エヴァンに指示を出した。


「ライラ様、殿下がどなたかと人違いをされたようで失礼しました。エヴァン、すまないが殿下をお席へ案内してくれ」

「わかった」


 フレドリック殿下はエヴァンにがっちり腕を掴まれ、用意された席へそのまま連れていかれた。

 私はホッと胸をなでおろし、助けてくれたアーロンにありがとうの気持ちを込めてこっそり微笑んだ。するとアーロンは一度ゆっくり瞬きをして答え、とても清々しい表情でフレドリック殿下のもとへ歩いていった。

 フレドリック殿下がこの私を見てエレインを思い出さないでくれて助かった。今の私は茶髪に丸眼鏡をかけた真面目そうな侍女スタイルである。

 服装は白いブラウスに黒いベストとロングスカートというシンプルなものだし、ダリアの身代わりをした時や旅のヒーラーのコスプレをした時とは化粧の濃さも全然違う。

 派手な美女を好むフレドリック殿下が目を付けるはずがないのに……っていうか、地味だが美しいって何? 地味はわかるけど、私の聞き違いかしら。

 大体、彼らは何をしに来たの? 立会人は王弟殿下と大神官様、それに神官長とイリナ様が居れば十分だと思うのだけど。

 王弟殿下の席の向こう側に大神官様と神官長が並び、フレドリック殿下の席の横にアーロンとエヴァンが控えた。そしてさらに護衛の兵士がその後ろにズラリと並び、前後を兵士に守られた状態となったところでいよいよ召喚の儀式は始まった。


「立会人は全員揃った! ではサンドラ、我々の前で天使を召喚してみせよ!」


 王弟殿下の合図で天使召喚の儀式は始まった。

 拝殿の中のサンドラは椅子に座った状態で指を組み、それを顔の前に持ってきてぶつぶつ何かを呟き始めた。


「神様お願いします。どうか私の為に天使をよこして……! どうかお願い! 神様! 神様!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ