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146・新たな協力者

 アーロンからは、私がなんと言って断ろうが一切引くつもりはないという強い意思を感じた。


「私はあのパーティーの日、あなたを庇いもせず会場を出ていく後ろ姿を見送った事、未だに後悔しています。殿下の不満が爆発する前に、サンドラの訴えが事実であるかきちんと調べるべきでした」

「アーロン様、それはもう終わった事としてお忘れください。あなたを恨んでなどいませんわ」


 アーロンはフッと眉を下げて寂しげに笑い、私の手を取った。


「エレイン様、申し訳ございませんでした。この機会に改めて謝罪させてください。私の怠慢があの事態を招いたのです。所詮平民の考える事だとサンドラを甘く見ていました。殿下の事も、もっと真剣に向き合っていれば感情の変化に気づけたかもしれません……」


 アーロンが悪い訳ではないのに、自分のせいであの断罪劇が行われてしまったと本気で思い悩んでいるようだ。

 確かに彼の言う通り、側近としてやるべき事は色々とあったかもしれないが、たとえ事実を調べ上げたとしても、あの頃の殿下は周りの声など聞こえなかったのではないだろうか。

 しかし、行動に出たか出なかったかは彼にとって大きな問題なのだろう。

 ずっと思い悩んでいた事をすべて吐き出すかのように、アーロンは私に謝罪した。

 私に直接詫びを入れるまで忘れたくても忘れられなかったのならば、今この場で気が済むまで全部吐き出してもらおう。私は彼の言葉が尽きるまで黙って耳を傾けた。

 アーロンはあの断罪劇の件だけではなく、他にも判断ミスを犯した為に迷惑をかけたと告白した。

 私が知らなかった学園の裏話なども語られ、ためらいながらも当時エヴァンが私を無視した原因を教えてくれた。

 聞けばくだらない噂話が発端で、アーロンは私に気を遣い、それを教えなかったせいで余計に関係をこじらせてしまったと酷く後悔していた。

 私とエヴァンが深い仲だっただなんて、一体誰が信じるというのか。

 しかし、誰が流した噂なのか今ならわかる。サンドラに踊らされ、私に襲い掛かってきたジェラルド・パウリーでほぼ間違いないだろう。

 サンドラの記憶を見た時に、邪魔なエレインを殿下のグループから追い出したいとそれとなく彼に話していたのだ。

 エヴァンにしても、学園内でおかしな噂が立っているとそれとなく私に言えばよかったのに。黙って離れていくから、ただ悪戯に私の心が傷つけられただけだった。

 

 そしてすべて伝え終わると、アーロンは少し放心状態になって口を閉じた。目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 そんなアーロンの心を少しでも軽くしてあげたいと思った私は、アーロンに取られていた手を離し、逆に彼の手を包み込んだ。


「エ……エレイン様……?」


 己の不甲斐なさを告白したアーロンは、私に軽蔑されると覚悟していたのか、逆に優しく手を握られた事に戸惑いを見せた。


「アーロン様。あなたを苦しめていたものはすべて吐き出せましたか? でも私には、あなたに優しくしていただいた記憶しかありません。なのに、あなたは一人でそんなにも悩んでいたのですね」


 彼の苦悩の日々はこれで終わらせてほしい。心が晴れ渡りますようにと祈りを込めてアーロンの目を見つめる。

  

「謝罪を受け入れます。もう、私の事で悩む必要はありません。私は今、とっても幸せに暮らしているのですから」


 これで彼の中から罪悪感を取り除く事は出来ただろうか。

 穏やかに笑う私を見て、アーロンの目からつぅっと涙が零れた。


「いつかまた会えたら、あなたに謝りたいとずっと思っていました。話を聞いてくださり、ありがとうございます……本当に、まるで天使のようなお方だ。あなたのまわりに虹色の輝きが見える……」

「天使だなんて大げさです。虹色に輝いて見えるのは涙のせいではありませんか? ふふっ」

「えっ?」


 アーロンは自分が泣いている事に初めて気づき、慌てて涙を拭った。泣いてしまった恥ずかしさからか、しばらく黙って俯いた後、冷静さを取り戻した彼は、改めて私に協力したいと申し出た。


「エレイン様、お願いですから何かお役に立たせてください。公爵家を離れてから、ご不便を感じた事はございませんか?」

「そう仰られても別に何も……あ……! でしたらアーロン様、王都に緑を増やす手伝いをしていただきたいです! 人口が増え続け、公園だった土地にまで建物を造ってしまって、町には木や花が減ってしまいました。これはとても嘆かわしい事です」


 これまでの流れとまったく関係の無い話を出されたアーロンは戸惑い、何度も目を瞬いた。


「実は、町で起こる小さな諍いなどは、草木を増やす事で減少するかもしれないのです。都の治安が少しでも良くなるように、木や花を植えるなど簡単な事ではありませんか?」

「あ……まあ、確かに。しかし、その根拠は一体どこから……。いえ、あなたがそう仰るのでしたら、私は全力で都の緑化に取り組みましょう。ちょうど、治安の良くない地域の古い建物を取り壊し、そこを公園にする計画があるのです」


 知らぬ間にそんな計画が進行していたのだと知り、驚いてしまった。しかし家を取り壊すとは随分大それた事をする。


「……公園が増えるのは嬉しいですけれど、そこに住んでいる方達はどうなさるのですか?」

「住民には西の街道沿いに建設中の新しい町に移り住んでもらいます。そちらは上下水道も完備されていますし、今までより家賃が安く、清潔で広い家だと好評です。仕事の無かった者には人手不足だった農家などを斡旋しましたし、少しずつですが、もうすでに引っ越しは始まっているのですよ」

「まあ、そうだったのですね」


 西門の外にあった新しい町は、その為のものだったのだ。どんなに貧しくとも都で暮らしたい人達には不満かもしれないが、確実に生活環境は良くなるだろう。

 アーロンが引き受けてくれるというなら街中の緑化も確実に進めてくれるだろうし、都の中に草木が増えれば、きっと妖精達も帰って来てくれる。

 自分だけではどうにもならない案件だっただけに、これで一安心だ。


「この計画はウィルフレッド殿下の発案で始まり、現在フレドリック殿下が引き継いで進めていらっしゃいます。殿下も少しは成長なさいましたよ。そうだ、殿下があなたの宿にご迷惑をお掛けした事、深くお詫び申し上げます。私の監督不行き届きでした」

「ご存じだったのですか? 私が今……」


 アーロンは静かに頷いた。


「おにぎりを売っているのがどのような店なのか、殿下のお口に入るものなので気になって見に行きました。まさか、作っているのがエレイン様とは思いもしなかったので、かなり驚かされましたが。あそこを買い取って立派に経営されているのですね。すみません、色々と調べさせていただきました」

「調べたって事は……いつから私が女将として働いているのかも……?」


 アーロンは静かに頷き、穏やかに笑った。


「誰にも言いません。あなたの幸せそうな姿を見て、陰ながらその生活を守ると心に誓ったのです。エヴァンはそのうちエレイン様だと気づくかもしれませんが、その時は思いきり頬に平手打ちをお見舞いしてやればいいと思います。私同様、彼も反省していますよ」

「知っています……」

 

 でも、あなたとエヴァンでは罪の重さが全然違うのです。幼馴染みであり一番の親友だった人からの裏切りは、半身をもぎ取られるような苦しみだった。私を無視した理由はわかっても、私を信じなかった事に変わりはない。

 私の平手打ちなんてエヴァンに効く訳がないのだから、その時が来たらヴァイスに頼んで本気のパンチをお見舞いするわ。


「それはそうと、エレイン様。サンドラは王弟殿下との約束で四日後に天使を召喚する事になっているのをご存じですか? 今までに起こした奇跡はたったの二回。失敗すればどうなるかわかりませんよ。今や陛下の関心は天使に向いてしまっていて、彼女を庇う者は誰も居ないのです」

「まさか命の保証はないと仰るのですか? 彼女には何の力もありませんが、聖女である事に変わりはないのですよ」


 アーロンは私の発言を聞き逃さなかった。話すつもりはなかったのに、動揺のあまりうっかりサンドラの秘密を口にしてしまった。


「待ってください。サンドラには聖女の力は無いのですか……?」

「……ありません」

「現に嵐を起こしたり、怪我を治したり、魔力を持たないはずの彼女がやってのけたあれらは何だったのです?」

「嵐が起きたのは偶然でしょう。巫女様の話では、たまにあるそうですから」

「では、怪我を治したのは? 私はその場で見ていたのです。あれはどう説明しますか?」


 それを説明しようとすると、色々事情を話さなければならなくなってしまう。でも、私はこれ以上話すつもりはなかった。だんまりを決め込むと、アーロンは自分なりに推理した事をブツブツと呟きだした。


「何かの要因で一度だけ治癒魔法が使えたという事ですね? あれは誰が見ても治癒魔法でした。その後何度試みても魔法を使えなかったという事は、持っていた魔力を使い切ったから? いや、違う。サンドラは魔力検査に引っかからなかったのだ。ではあの魔力はどこから……?」


 視線をあちらこちらに走らせながら考えを巡らせていたアーロンは、私の顔を見て何かを思い出したのかハッとした表情を浮かべた。


「そうか、サンドラに憑りついている者の仕業か!」 


 アーロンは恐ろしく頭がいい。少ない情報から正解を導き出してしまった。


「それを退治すれば、彼女は誰の事も呪えなくなる! 違いますか?」

「アーロン様。先ほどご自分から詮索しないと仰ったのをお忘れですか? 私はもう何もお答えしません」

「あ……申し訳ない。今のは自分の胸にしまっておきます。ならばこのまま放っておけば、きっと四日後には側仕え達は解雇され、部屋に残されるのはサンドラだけになる」

「ですが先ほど命の保証はないと……」

「いくら王弟殿下であっても、即処刑などという事はなさらないはずです。数日様子を見て、対処をお決めになるでしょう」

「では、その間が勝負という事ですね」


 予想より長い時間話をしていた私達は、サンドラのもとへ戻ると変な冷やかしを受けた。しかし私達は冷静にそれを受け流し、アーロンは王弟殿下からの伝言をサンドラに伝えて帰っていった。


 天使を召喚出来ないとわかれば、そのまま神殿を追い出されてしまう可能性もある。その場合、彼女の居場所を探すのが大変だ。

 なんとかその場に立ち会って、成り行きを見守らせてもらえないだろうか。元妖精の浄化はその後だ。

 さて、サンドラはどうやって自分のついた嘘をごまかすつもりなのかしら。

 

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