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135・荒らされた部屋

 ラナがイリナの居る教会へ向かっていた丁度その頃、サンドラの住居ではちょっとした騒ぎが起きていた。

 朝の祈りを済ませたイーヴォがサンドラの住居を訪れると、いつもなら閉じているはずのドアが何故か開いたままになっており、チラリと中を覗けば側仕えの一人がオロオロしてドアの近くに立っている。

 イーヴォは何か変だと思いながらその側仕えに声をかけた。


「おはようございます」

 

 声をかけられた側仕えはイーヴォの登場に安堵の表情を見せた。


「ああ、イーヴォ様! おはようございます……!」

「何かあったのですか? 部屋が滅茶苦茶ではありませんか」

「あの……聖女様がお目覚めになってすぐ、目に何か入ったようだから鏡をと仰るので、倉庫から手鏡を探してお渡ししただけなのですが……」

「手鏡?」

「はい。聖女様は鏡を覗いてしばらくジッとご自分のお顔を見つめていらしたのですが……何故か突然悲鳴を上げられ、この通り、辺りにある物を手当たり次第に。一体何がいけなかったのでしょうか」


 昨日まで綺麗に整頓されていたはずの室内は、竜巻でも起きたかの如く滅茶苦茶に荒らされていた。

 中に入って室内を見渡せば、青い顔をした側仕え達が部屋の隅に固まっている。中でもひときわ怯えた様子の者がイーヴォを見て謝罪と言い訳を始めた。

 

「申し訳ございません……! 姿見を部屋に置く事は禁止されていると承知していましたが、小さな手鏡までもが駄目だとは存じませんで……私が手渡してしまいました。申し訳ございません、まことに申し訳ございません……!」

「……なるほど。こうなった原因が鏡である事は理解しているのですね。こちらの説明不足は認めますが、この部屋には元から鏡が無かったのですから、出来ればそこから察してほしかったです」


 いつも穏やかで物腰が柔らかく、自分達より年下の彼を少し侮っていた側仕えは、いつになく苛立った言い方をするイーヴォに戸惑いを感じた。


「あ……そう……ですね。確かにそうでした……すみません。あの、私はクビ……でしょうか?」

「……いえ、今のは私の言い方がよくありませんでしたね。申し訳ない、ただの八つ当たりです」


 思わず感情が表に出てしまった事を後悔したイーヴォは、今度は穏やかに彼女の質問に答える。


「あの方の世話をするに当たって、知っておくべき事を伝えていなかったこちらのミスです。あなたは仕事をしただけ。クビになどいたしませんよ」

「良かった……」

「あの方はご自分の容姿の変化に敏感過ぎて、少しの事で癇癪を起こします。ですから、今度から気を付けてくださいね」


 イーヴォはそう言うと、今度はサンドラの姿を探し始め、ある一点に注目した。彼の視線の先には豪華な天蓋付きのベッドがあり、そこにかけられていた美しい薄布はビリビリに引き裂かれ、枕やクッションが何かの衝撃で破裂でもしたのか、白い羽が部屋中に散らばっている。

 しかしお目当ての人物は見当たらず、ベッドの上には絹のシーツに覆われた、こんもりとした小さな山があった。

 イーヴォはそれを見て、呆れたように溜息を吐く。 


「ハア……またこんなに部屋を荒らして……お怪我はありませんでしたか?」


 床に落ちた枕やクッションを拾いながらベッドに近付き、シーツの下に隠れる何かに向かって穏やかに問いかけるイーヴォに、側仕えの一人が不思議そうに声をかける。


「あの……イーヴォ様? 聖女様はそちらにはいらっしゃいませんよ?」


 それを聞いたイーヴォが慌ててシーツを掴み、それをバッと勢いよく引きはがすと、その下に隠れていたのはただの大きなクッションだった。彼の額からはブワッと嫌な汗が噴き出した。

 鏡を見てショックを受けたサンドラがシーツの下で小さく丸まっているものと思っていたイーヴォは、室内をぐるりと見回し、人が入る隙間も無いベッドの下まで確認した。

 この部屋に彼女が隠れられる場所は無い。


「あの方はどこへ行ったのです!?」

「ひとしきり暴れた後、急に大人しくなって部屋を出て行かれました」


 イーヴォはサンドラの行き先を側仕えに尋ねたが、彼女達は下手に刺激を与えるのはむしろ危険と判断し、部屋から出て行くサンドラを引き止めもせず、黙って見ていただけだった。

 かつて彼自身もサンドラの興奮状態を抑える事が出来ずに散々な目に遭っている。それを思い出し、彼女達に同情の目を向けた。

 見た限りでは側仕え達に怪我は無いようだ。安心した彼はとりあえず彼女達に指示を出し、サンドラを探しに行く事にした。


「怪我をした者はいますか?」

「いえ、すぐにお側を離れましたので皆無事です。聖女様にもお怪我はありませんでした」

「そうですか……それは良かった……。では、私はあの方を探してきます。あなた方は部屋を元の状態に戻しておいてください」

「はい、承知しました」


 側仕え達が一斉に動き出すと同時に、イーヴォも急いで部屋を出た。

 先ほど大神殿から直接ここへ来た時に誰とも会わなかったのでそちらを選択肢から外すとしても、最も向かって欲しくない神官や巫女の居住施設と、神殿の敷地から出られる裏門がある。


「まさか、神殿の敷地から出たりしていないでしょうね……」

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