133・イリナの侍女
サンドラが天使を呼び出したという噂話は、外部との接触の少ない神殿にまで届いていた。
そのせいでイリナ様が神殿に戻る時期が早まり、明日出発する事になったと宿に連絡が入った。どうやら神殿内で何か問題が起きているらしい。
私は教会でイリナ様に仕えていた侍女として、神殿に戻る彼女について行く事になっている為、急いで準備を始め、鞄に着替えと変装道具を詰め込んだ。
急な話だったけれど、宿の事はチヨが、食堂はシンが料理長としてしっかりやってくれるので、その辺は問題無い。
そして念のため、私が不在の理由は里帰りという事にしておいた。きっとリアム様を含む常連さん達は、私の不在に気づいてどうしたのかと聞いてくるだろう。些細な事かもしれないけれど、口裏を合わせておく事は大切だ。
翌朝私は朝食の準備を済ませた後、妖精王レヴィエントと話がしたくて彼を探していた。寝床となっている鉢植えに彼の姿は無く、室内の植物を見ても白い豚の妖精は見当たらなかった。
いよいよ彼に依頼された元妖精の浄化を実行する時が来たので、本当に消してしまって後悔しないか、救える道は無いか、最後にきちんと確認しておきたかったのだ。
「あなた達、レヴィを見なかった? 昨日から姿が見えないけれど」
室内をふわふわと飛び回る白くて丸い動物型の妖精達は、「さあ?」と小さく首を傾げて答えると、私の開けた窓から次々と庭に出て行く。
窓の外を見ると、チヨが大きなジョウロを持って花壇の水やりをしていた。
「おはよう、チヨ」
「あ! おはようございます、ラナさん」
「今日から留守にするけれど、よろしくお願いね」
「はい、任せて下さい。ラナさん、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「ええ、心配しなくても大丈夫よ。ヴァイスもついて来てくれるし」
ヴァイスと言えば――。
あの日以来、彼はチヨや他の人達にも姿が見えるようになってしまった。どうしてなのか不思議で仕方なかったけれど、ヴァイスが言うには、女神と話をした時に雲間から差したあの光が原因なのだそうだ。
てっきり太陽の光だと思っていたあれは、実は女神から放たれた光で、私に不足した力を、あの光を通して補充してくれたのだそうだ。あの時は予想を遥かに上回る歌の力に驚いてしまったけれど、そういう事なら納得出来る。
一緒にいたヴァイスもあの光を浴びてしまった為に、彼にも影響が出てしまったのだ。
もちろん意識すれば今まで通り姿を消す事も可能だけれど、知らずにそのままここへ戻って来た時には、チヨをかなり驚かせてしまった。こうなると逆に、飛び立つ時の私達がチヨにどう見えていたのかがとても気になるところだ。
シンも光の影響を受けているようなのだけど、どんな変化があったのか、何度聞いても彼は教えてくれなかった。
何か思い悩んでいるみたいだし、出来れば話してほしいと思っている。




