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【復讐のための無実の証明】

 メェナードさん目的は、単にグリムリーパーが誰なのか、ナトー本当の正体が何物なのかを探るだけではなかった。

 メェナードさんは、いま世界をテロの災いに染めつつあるザリバンの本当の姿と、その組織の壊滅をも目論んでいた。

 そして彼は見事に、その2つの目的を達成した。


 悲しいけれど、2つの目的が達成できたことを私はメェナードさん本人から直接報告を受けたわけではない。

 そればかりかメェナードさんは自分が死ぬことで、この2つを私に悟られないようにしようとした。

 しかも自分の正体を永遠に謎のまま葬り去るという非情なまでの計画を立てて地下要塞を造った。

 地下要塞の武器庫で爆死なら、体は木端微塵になるだけでなく、屍は永遠に地下に埋まってしまう。

 仮に掘り出してDNA鑑定をしたところで、一介の兵士のDNAなどは多国籍軍にとって何の意味も持たない。


 メェナードさんの消息を私が探していることは彼も知っていたはずなので、爆死することで彼の行方は永遠に掴めなくなり、私は永遠に彼の行方に全力を注ぐことになる。

 そうなれば、私にはもうグリムリーパーが誰であろうとも、そこについては何の興味も無くなってしまう。


 私を知るメェナードさんならではの策略。


 だがメェナードさんはカールによって助け出された。

 カールがどの様に彼の決意を崩し、彼を救ったのかは知る由もないが、メェナードさんが生きていることを知ることが出来た私は混乱に陥ることもなく、冷静に物事を分析でき、その結果として彼がひたすら隠そうとしていた妹であるナトーの正体を知ってしまった。


 更にメェナードさんが意図的にザリバンの首領であるアサムを逃がしたことにより、ザリバンが抱える本当の問題にも気が付くことが出来た。

 凶悪なテロ組織であるザリバンが病める巨人であることを。


 もともとザリバンは、アフガニスタンと言う国の尊厳を破壊するために軍事侵攻してきたソビエト連邦軍への抵抗組織として生まれた。

 西側諸国にとっても好ましくないこの状況に、アメリカ政府は武器供与と言う形でザリバンを支援し、ザリバンは供与された武器により地道な戦果を積み上げてソビエトを自国から追い出すことに成功しアフガニスタンに平和を呼び戻すことに成功した。


 だが平和は長くは続かなかった。

 今度は支援してくれたはずのアメリカが傀儡政権を樹立して、アフガニスタンの尊厳を踏みにじり、彼らは再び武器を取り侵略者との戦いを始めることとなった。

 アフガニスタンは混乱した。

 だが混乱したのはアフガニスタンばかりではなく、ザリバン自体もまた混乱を始めた。

 我々の組織POCに武闘派と穏健派があるように、ザリバンにもそういった2つの勢力があることは誰もが想像できる。


 メェナードさんがしようとしていたこと、それは大きな戦いを仕組み、強硬派を掃討することが目的だったのだ。


 そして今、私の目の前にアサムが居るということは、彼は穏健派だということ。

 だから私も、こうして1人で会いに来ることが出来た。


 全てはメェナードさんが敷いたレールの上を進むように。




 アサムにコンタクトを取るべき相手を伝え、コンタクトを受ける相手へも詳細を伝えた。

 アサムからコンタクトを受ける相手は、ナトーと仲良くしてくれているDGSE(フランス国家対外治安総局)のエマ少佐。

 一応諜報機関であるDGSEに私の事を調べられては困るので、コンタクトは本部に依頼した。


 ビデオではあるが、予定通りアサムは事実を法廷で伝えてくれ、これでナトーは終身刑や重い禁固刑を免れて、無罪放免となった。


 私はその日、法廷から出て来るナトーの姿を見るために、法廷の近くに車を止めて待っていた。


 法廷から出て来た妹のナトーは沢山の仲間に囲まれて出て来た。

 仲間たちはナトーが無罪になったことを心から喜び、ナトーも少しはにかみながら笑顔を見せていた。


 “なんで、笑える!?”


 私の友達だったオビロン軍曹やジョン曹長たちをことごとく殺害し、初恋の相手であるローランドの命をも奪い、今回はメェナードさんの命までも奪いかけたというのに。


 このままアクセルを思いっきり踏み込んで、ナトーをひき殺してやろうと思ったが止めた。

 刺し違えるのも吝かではないが、この方法では確実性に欠けるばかりか、逆にひき殺そうとした私は確実に裁かれてしまう。

 裁きを受けたあと、ナトーが一命を取り留めたと分かると、取り返しのつかない後悔も残る。

 殺すなら、もっと確実性が高く、ナトーに自らの犯した罪の深さを後悔させる手でなくてはならないのだ。

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