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56 『綺麗だねー』



「出来た!」

「どう!?」


 ====

 アイアンバケツヘルム

 頭/重装/★6/DEF+24/耐久40

 ====


「なんじゃそりゃー!」

「惜しかったねー。仕方ないよ、運だし」

「わかってるけどー! わかってるけどおおおおお!」

「まぁ★6ってことはいけるよこれ」


 完成した『アイアンバケツヘルム』には残念ながら『オプション』はついていませんでした。

 ですがこれは仕方ありません。運ですから。

 でもシングルでもいいからついて欲しかったですね。


 しかしランクは★6。

 『ダブルオプション』を狙うには十分なランクです。

 ★7までいけば『トリプルオプション』も夢じゃないんですけどね。

 まぁそれは現状では……いやどうですかね? やれないこともないんじゃ?


「……ねぇミカちゃん」

「もおおおおもぉおお! あん?」

「『リッチの骨』って持ってる?」

「え? なんでいまそれ? あるけど」

「ちょっおーっと実験してみない?」

「おぉ?」


 実験内容は至極簡単です。

 親方さんに教わった『追加』で使用する素材加工法を試すのです。

 当然『リッチの骨』である必要性はありません。

 でもランクの高い素材であるほど効果は高いのです。


「えーと、何本いる?」

「え? そんなにいっぱいあるの?」

「使用用途不明だからね。売りに出す人もそれなりにいたのよ。

 で、全部買っちゃった」


 てへぺろ、と舌を出すミカちゃんですが……なにそれ私も欲しかった。

 後でお店の買取品に追加しておきましょう。

 使用用途が不明なので扱いに困って倉庫の肥やしにしている人も多いみたいです。もしかしたら購入できるかもしれません。


 貴重な事には変わりありませんが、ミカちゃんの所持数は貴重……? と小首を傾げたくなる程度にはあったりするようです。

 ていうかミカちゃん、それ私に売ろうよ!

 ミカちゃんが持ってても意味ないでしょう!


 買取交渉についてはあとにするにして、とりあえず1本加工してみることにします。

 失敗してもこれだけ量があれば痛くないでしょう。


 『個人倉庫』に保管してある『濃縮魔法液・改』の中でも特によく出来たランクの高いものをいくつか用意します。

 『錬金術・改』のLv1の『アーツ』――『錬金術・改アーツ/Lv1/破砕・改』で『リッチの骨』を粉末状にしてから、『錬金術・改アーツ/Lv1/調合・改』で『濃縮魔法液・改』と混ぜあわせます。


 ここでさらに『錬金術アーツ/Lv80/追加・改』で親方さんに教わった各種様々な素材を投入していきます。

 無論加工済みでランクの高いものを厳選してあります。


 完成したのはこちら――


 ====

 闇賢者の錬金液

 素材/★8

 ====


 親方さんに教わった通りにやったとはいえ、これはすごいものが出来てしまいました。

 なんと★8です。

 使った素材も厳選してあるとはいえ、やはり『リッチの骨』が一番の原因でしょうね。

 以前に試作した中でも群を抜いていますから。


「……ユリ。なにこれ」

「すごいねー」

「いやいやいやすごいなんてもんじゃないでしょ!?

 ランクがおかしい! ★8って!

 『トリプルオプション』のあれより上って何!?」

「まぁまぁ。ここからが本番だよ?」

「何するのってまさか!?」

「そのまさかー」


 さすがのミカちゃんも初めて見る★8のアイテムに驚きを通り越して混乱しています。

 でも私の実験はここからなんですよ。

 確かに★8なんてすごい素材が出来たのはびっくりです。

 でも素材は所詮素材なんですよ。


 さぁ……ここからは私の腕の見せどころですよ!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ★7の『アイアンインゴット』の他にも、必要となる材料はできるだけランクの高いものを使用します。

 『エーク迷宮』産の素材も使って出来る限りランクを上げて材料は用意しました。

 さぁここからです。


 まずは通常の手順で製作していきます。

 レシピ通りに丁寧に、それでいて大胆に。


 親方さんのところで受けた修行で培った様々なスキル外スキルを総動員します。

 叩く場所、タイミング、角度、力加減。

 一振り一振りに持てる全ての気合を込めて。


 打ち鳴らされる金属と槌が奏でる音だけが私の耳に届く。


 あ、これ今私ゾーンに入ってますね。

 間違いないです。

 あの時感じた万能感が今私を満たしています。

 なんで入れたのかはわかりません。

 でも思うに見たこともない高ランク素材や、直ぐ側で期待と不安をいっぱいに滲ませて見ているミカちゃんからのプレッシャー。

 そしてそれに応えたい私の想い。

 それらが普段以上の、あの時のような集中力を生み出しているのではないかと思います。


 そして振り下ろされる槌が奏でる音だけ私を満たし……今!

 『闇賢者の錬金液』が『鍛冶アーツ/Lv50/追加』によって赤熱する刀身に吸収されていきます。


 さぁここからがクライマックスです!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「出来た」

「え!? こ、これ……」


 完成したのは真っ黒ですが、『物体X』ではありません。

 私の目の前にあるのは一振りのショートソード。


 レシピは確かに『アイアンショートソード』だったはずです。

 でもその刀身は普段通りの鈍色ではありません。

 刀身以外は全て『アイアンショートソード』のものですが、その刀身は光を吸い込み決して反射しない闇よりも深い漆黒。

 吸い込まれそうなほど美しい。

 間違いなく私の傑作です!


「ちょ、ちょっとみせて!」

「あ、まって! まだ私も見てない!」

「うわあああああああなんじゃこりゃあああああ!」

「うはー!」


 後ろから覗いていたミカちゃんが美しい漆黒の刀身に興奮して私の上に覆いかぶさって来るのをなんとか凌ぎながら、2人で一緒に性能を確かめました。


 でもこれはちょっと……。


 ====

 封闇秘剣

 小剣/★9/ATK+149 E:封/エンチャント:封印・大/耐久240

 ====


 『オプション』は1つですが、全く見たことがないものがついています。

 というかまずランク!

 ★9ってなんでしょう。

 さっきまで★8でびっくりしてたのに、さらに上ときましたか。

 それにこれ分類は小剣ですよ?

 『アイアンショートソード』のATKは48のはずです。

 100以上増えてるんですけど……。

 さらには武器にあるまじき耐久の高さです。『アイアンショートソード』でも80ですから3倍ですよ。


 『オプション』の効果が今ひとつわからないのがアレですが、そのATKとランクだけで驚愕ものなのは間違いないです。

 でも名前だけでこの『オプション』には期待が持てるでしょう。

 なんといっても封印ですよ! 封印! 格好いいですよね、封印!


「ゆ、ユリぃ……」

「あーえー……ミカちゃん今いくら持ってる?」

「逆立ちしたって買えるわけないでしょおおおおおおおおおお!」

「ですよねー」


 ミカちゃんの懇願するような猫なで声に、つい反射で言ってしまいましたがこれほどの逸品です。

 適正価格が一体どれほどになるのか想像すらできません。

 しかも現状ではこの一振りしかないですし、同じものが作れるとは思えません。

 ミカちゃんも当然その辺は理解しているでしょう。

 私が以前作った『トリプルオプション品』の『ブロンズバケツヘルム:百合』だって未だに製作できないものなんですから。


 ……とは言っても、正直私がこれを持っていても宝持ち腐れなのは確かです。

 ミカちゃんがいなければ製作するつもりすらなかったわけですし。


「はい、ミカちゃんレンタルね」

「いよっしゃあああああああああああああ! ……レンタル? くれないの?」

「いずれ適正価格で買い取れるようになったら売ってあげるよ。

 それまではレンタルで我慢しなさい」

「むぅー。まぁいいか。装備可、取引不可、装備者以外性能閲覧不可、ね。妥当なところかな」


 現状では世に出すには明らかに危険な代物なので、色々と後付で設定を『追加』しておきました。

 さらには『レンタルトレード』で渡しているので保険も入っています。

 ミカちゃんが相手なのでさすがに『契約・改』までは必要ありませんけどね。


「あ、あと封印の効果も教えてね」

「もっちろん。あ、でも『クランメンバー』くらいには性能教えてもいいよね?」

「それくらいならいいよ。でも口外禁止だからね」

「わかってるわ。嫉妬だけでPKしてくる輩が出そうだし。じゃあ掲示板にも情報はあげないわよ」

「うん。せめてコレに追従できる程度の性能の武器が出てこないと騒ぎの下になるだろうし」

「だねぇ……にしても綺麗だわぁこれ」

「うん……綺麗だねー」


 鞘に収めてしまえば『アイアンショートソード』と見分けがつかないですが、その刀身は吸い込まれそうなほどに美しい漆黒。

 しばしの間2人共その美しすぎる刀身に見惚れていました。


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