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142 『あっさり撒けましたねー』



「ちょ、ちょっと話がしたいだけよ! 少しくらいならいいでしょ!」

「残念ながら~そういうセリフを言った人で少しで済んだ試しはないんですよ~」

「他の奴らと一緒にしないで!」

「私たち一切あなたのこと知らないんですけど~」

「ムキー!」


 甘ロリさんが完全にお断りモードで接しているからか、だんだん相手側がヒートアップしてきているように思えます。

 というか、ムキーなんて言う人初めて見ました。


『ララルさん、人が集まってきました。そろそろ……』

『あ、了解です~』


 興奮して声が大きくなっているか、お城を見学していた人や通行人たちがだんだんとこちらに注目し始めてきています。

 すでにプレイヤーと思しき人は野次馬と化していち早く集まりだしていますし、これ以上は厄介事にしかなりません。

 聞かれるとまた面倒なことにもなりますし、撤退のタイミングを『コール』で話し合って……今ですね。


「――だから! あなたになんて用はな、きゃっ!」


 ついには地団駄を踏みながら喚き散らし始めた瞬間に、とあるアイテムを地面に叩きつけます。

 瞬間的に広がるのは白い煙。

 ミーとムーが面白がって作ったオリジナルアイテム――『逃走用煙幕君』です。


 【ふろんてぃあーず】は、MOB(モンスター)と戦闘になった際に戦闘を終わらせる方法は、倒すか、一定距離逃げるかしかありません。

 当然、格上の相手だった場合、逃げるのも手のひとつとなります。

 逃げる際にMOB(モンスター)を押し付けてMPK(モンスターキル)をすることはシステム上不可能ですが、逃走を補助するアイテムは当然あります。

 その中のひとつに煙幕があるのですが、フィールドエリアなら煙幕の煙エフェクトはそれなりの時間持続します。

 でも、セーフティエリアである街などでは迷惑にもなるので持続時間が極端に短くなったりします。


 しかし、この『逃走用煙幕君』は違うんですよね。

 ミーとムーが作ったオリジナルアイテムだけあり、セーフティエリアでの煙エフェクト持続時間がかなり長いのです。

 それはつまり、フィールドエリアで使用した場合は更に長いということですが、今はセーフティエリアで使った場合ですね。

 通常の煙幕では二、三秒で煙エフェクトが消えてしまいますが、『逃走用煙幕君』なら十秒はもってくれます。

 人も集まってきている状態ですから、十秒もあれば十分に紛れ込んで逃げられるのですよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あっさり撒けましたねー」

「ミー君とムー君には感謝ですね~」

「……さっそく掲示板に載ってるみたいです」

「あははー。まあ普通の煙玉ではああはなりませんからねー」

「それにしても、また面倒そうな人が現れましたね~」

「ですねー。でも、【タバリスト皇国】には頻繁に来るとは思えませんし、大丈夫じゃないですかねー。お店なら出禁にすればいいだけですし」

「そうですね~。見るものは見ましたし、帰りますか~?」

「……ですね。そろそろお菓子作りたくなってきました」

「あ、新作食べたいです~!」


 『逃走用煙幕君』のおかげで、無事逃げることができました。

 でも、面倒そうな人に目をつけられたような気がしますね。

 まあ、他の国に行けるようになるとわかった時点で、そういう厄介事は増えるんじゃないかと思ってました。

 【ザブリナ王国】でだって、色々ありましたからねー。

 行ける国が増えたのなら、またそういう事態が起こるのは不思議なことではないでしょう。

 でも、今まで蓄積した経験がありますからね。

 今回みたいに事前に『逃走用煙幕君』を用意しておいたり、甘ロリさんが責任者になって壁になってくれたりと、準備はしてあるんですよ。


 工房やお店に引きこもって生産している時間の方が長かった今までなら、迷惑な振る舞いをする人は出禁にするなりなんなりと対処してきましたが、外に出て観光したり、買い物したりするとそうもいきませんからね。


 でも、もう見るところは見終わりましたし、【タバリスト皇国】には特別な用事でもなければこないでしょう。

 それに、どうしても来なくてはいけなくなっても変装するという手もありますからね。


「では、神殿行きましょ~」

「行列できてなかったら神官みていきますー?」

「……できてないことを祈ります」

「それもいいですね~」


 行列が長すぎて諦めた『スキルポイント変換神官』ですが、少し時間を置きましたし、もしかしたら行列が解消されている、なんてこともあるかもしれませんしね。

 まあ、無理だと思いますけどー。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 先程のことはみんなもう忘れることにして、わいわい話しながら神殿に向かいましたが、待ち伏せされていたみたいです。

 というか、私のことを知っていたということは、【ザブリナ王国】に帰ることもわかっているでしょうし、駅馬車でまた時間をかけて帰るなんて無駄なことはせず、ゲートを使うだろうことは簡単に思いつきますよね。


 結局のところ、逃げても神殿前で待ち伏せしていれば捕まるということですね。

 まあ、逃げてすぐに神殿に駆け込めば違ったかもしれませんが。


「このわたしから逃げられると思わないことね!」

「そういえば、【首都ザブリナ】までだと『魔石』いくらかかるんですかねー?」

「……【ユングスメリス共和国】よりは遠いですし、少し高いくらいかと」

「このわたし! 『クラン』――『ドールハウス』のマスターである」

「いっぱい持ってきてますから足りなかったら貸しますよ~」

「そこは奢ってくださいよー」

「バケツさんの方が稼いでるじゃないですか~」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 無視しないで!」


 ですが、もうゲートは目と鼻の先ですし、神殿には街を巡回している衛兵よりも格上の神殿騎士というNPC(ノンプレイヤーキャラ)がいます。

 神殿内では、街にいるよりもずっと礼儀正しくしていないと神殿騎士につまみ出されるんですよ。

 暴れたりするのはもっての他ですし、大声で叫んだりするのも危ないくらいです。


 つまり――


「わたしの話を、ひゃ!?」

「神殿内ではお静かに」

「ご、ごめんなさい……」


 フルプレートで完全武装している神殿騎士に三人に囲まれて注意されるのは、実際、かなり怖いです。

 戦力的にも彼らはかなり強いらしく、今まで腕試しに挑んだプレイヤー開拓者で勝てた人はいないそうです。


 一時期掲示板に専用スレが立つほど神殿騎士の強さは際立っています。

 まあ、立っていたのは神殿騎士に挑むスレ、でしたけど。

 敗北報告が三割くらいで、残りは戦闘ルーチンとかスキルの考察でしたね。

 私が興味を惹かれたのは、彼らの武装でしたけど。

 どうやらスティール系以上の装備のようですが、魔法もほとんど効果を示さず、武器に至ってはスティール系で固めた重武装のプレイヤーを一撃で沈めたこともあるくらい強いみたいです。

 まあ、それはクリティカルだったみたいですけど、大半はもって二発。よくて三発くらいでやられていたみたいです。


 そんなわけで、神殿騎士の強さはかなり知られています。

 そうでなくても、フルプレートを着た大きな人に怒られるのは怖いですよね。

 特に待ち伏せしていたあの人はミーとムーよりも小さな背丈ですし、倍とはいわないまでもそれに近いくらい身長差がありました。


「やっぱり神殿騎士に捕まってましたね~」

「無視して神殿に入って正解ですねー」

「……お説教は長くても二分くらいだから急ぎましょう」

「は~い」

「『スキルポイント変換神官』はみれそうもないですねー」


 神殿騎士に怒られているとはいっても、今回は大きな声をだしていたに過ぎません。

 暴れているわけでも神殿騎士に挑んだわけでもないので、お説教はそれほど長くないんですよね。

 それでもお説教されるわけですが。


 ちなみに、神殿騎士のお説教は何かのスキルみたいで、逃げることができません。

 ログアウトはできますが、『虚脱』状態で体は残るので、その場合、牢屋に一日入れられるみたいなので割に合いません。


 なので、基本的には神殿内では礼儀正しく、静かに行動するのが鉄則なのですよ。

 各神殿内にひとりずつしか配置されていない『スキルポイント変換神官』に、おとなしく行列ができているのも神殿騎士のおかげですね。

 そうでなければ、今頃横入りや暴動なんかも起きていそうです。

 それくらい行列長かったですからね。

 まあ、運営に講義の『メール』はたくさん送られているでしょうけど。


 それだけ、みんなSP(スキルポイント)がカツカツなんですよ。


「それでは、帰りますか~」

「トラブルもありましたけど、桜に神社に結構楽しめましたねー」

「……【ユングスメリス共和国】は町並みが綺麗なだけでしたから」

「ですね~。あ、おふたりももし気が変わったら『師弟クエスト』うけてくださいね~。メリットありますし、弟子は私が面接してあげてもいいですよ~」

「気が向いたら受けておきますねー」

「……気が……向くかな……?」

「あはは~。まあその辺は本当に気が向いたらでいいですよ~。では帰りましょ~」

「はーい」

「……はい」


 弟子ですかー。

 どうしましょうねー。


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