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魔王軍幹部の弟子の使い走り  作者: あおいあお
第四章 神殺し編
87/183

87:死にかけるとレベルは上がり易いらしい



「――って言う事があったんだよなぁ」


 クロコとレイラ、俺に憑いたヒョーン、そして先導する村の人と共に、俺達は森の中を進んでいた。


「え。な、なんで今言うんですか? 時間沢山あったのに」


「え? だってまたあのクソ長い調書みたいなのあるんだろ? 面倒くさいもん」


 その返事に口を半開きにして表情を固まらせたクロコ。

 クロコがこんな表情をするとは珍しい。レイラも俺達のやり取りを見てクスクスと笑っている。

 少しは普段の塩対応の反撃ができたかも。


「ま、まぁ、今回は療養中であった以上、私もとやかく言うのはやめましょう」


「お? 珍しく優しいじゃん」


 と、冷たい青の瞳がこちらを向く。

 あ、ヤベ。ちょっと調子乗っちゃった。


「はぁ~」


「あはは」


 と、いつもなら小言が飛んでくるところだが、本当にどうしたのか今回は長い溜息をしただけで諦めた様だった。

 レイラもその様子を見て控え目に笑う。


「にしても、神々の軍勢ですか……。これはすごい事ですよ。私たちは大変な時代に産まれてしまった様です」


「ふーん」


 それってどの時代の人でも思いそうなもんだけどな。

 まぁ、それにしたってすごいのは分かってるが。


「あとあんまり楽観視するなって言ってたぞ? あの様子じゃ、全知全能って訳ではないだろうからなぁ」


 と、その言葉には二人から無言の視線を頂戴する。


「えっ。な、なに?」


「それ、他言無用ですよ? この会話を聞いてるのが私たちだけで良かったです。下手をしなくても異端審問に掛けられる様な事ですから」


「はい。例えキョウイチ様でも次はぶっ殺しますよ?」


 え。怖い。

 レイラの目が全く笑ってないのが怖い。


「い、言わないのは分かったけども、それは俺の話を信じてくれるって事でいいのか?」


「……そう、ですね。でも神は絶対です。全知全能の創造主。それは譲れません」


 一瞬レイラが光の無い目でクロコを覗いていたのは見なかった事にしておこう。


「その、お前たちの信仰は邪魔しないが、魔王軍が蔓延ってるのはどう説明するんだ? 全知全能の神だと言うのなら、ぱぱっと消す力があってもいいとは思わないか?」


「主は我らに試しているのです。腕力と知性、そして信仰を。人類を幾度となく脅かす魔族には、罰として天上への侵入を禁じました。魔族はその贖罪を全うすべきなのに、その罰に怒り神へと反旗を翻す。ああ、なんと悲しき事でしょう……。北の魔族は人類との和解をしたと言うのに、彼らの所為で救済の時はまた遠き事となってしまいました」


 と、そうつらりつらりと述べたのはレイラだった。

 うん……そっとしとこう。


「さ、付きましたぞ」


 と、俺達を案内していた村のおっちゃんが振り返った。


「おぉ。銅像だ。立派なもんだなぁ」


 案内された先にあったのは、二人の男女が背中合わせに立つ銅像だった。

 ローブ姿の綺麗な女性と、軽い鎧姿の端正な男性である。女性は杖を持ち、男性の方は槍を立てる様にして持っていた。


「ずっと昔にこの村を救ってくださったとされる冒険者のお二人です。まさにあなた方の様に慈悲深く、勇敢であっとの話です」


「いやぁ。ははっ。どうも」


 そのおっちゃんの言葉に後ろ髪掻く。

 俺に掛かった『愛慕の祝福』のお陰か、意識してる範囲では全員が好意的な態度だ。

 だが今回は取り分け俺も頑張ったので、この好意が『愛慕の祝福』のお陰だけだとは思っていない。

 生死を彷徨ったのもそうだが、今回は割と素直に好意に甘えている。


「では、精霊様との会話を邪魔しない様、私は戻らせていただきます。帰りは分かりますかな?」


「ああ、はい。どうも」


「ありがとうございました」


「ありがとうございます」


 俺に続いて頭を下げるクロコとレイラ。

 余談だが、この二人の好きなところの一つはこの行儀の良さだ。俺も見習いたい。


「とんでもございません。改めて、私たちの村をお救い頂き感謝申し上げます。私共、精霊剣士様のその雄姿は語り継がせていただきます。お帰りの際は是非また私たちの村にお立ち寄りください」


「精霊剣士だなんて……ははっ。ありがとうございます」


 深々とおっちゃんは頭を下げ、来た道を戻って行った。

 暫しその姿を俺達は見送る。


「この地も離れた方がいいですね」


「……だな」


 俺はクロコに応じる。

 クロコ曰く、俺の後を追う魔王軍の者が居るらしい。

 フルワ共和国は魔王国の属国となった訳だが、当然の様にその動向は探っている。

 そしてどうやら俺の事を探る様な動きがあったらしく、俺達は一応それから逃げている形なのだ。


「ヒョーンさんや。また俺のステータスを見せてはくれないか?」


『いいよー』


 そんな間延びしたヒョーンの返事と共に、俺の頭に情報が伝わって来る。


 種族:人間

 レベル:13

 魔力適正:6 魔力総量:172/172

 闘気適正:5 闘気総量:164/164

 状態:愛慕の祝福


 つい最近まで7だったレベルは前回の戦いで13にまで上がっている。

 たった一回の戦闘でここまで上がるとは。

 ヒョーン頼りの戦闘ではあったが、前回戦った魔物は40レベル相当の相手だ。

 普通は、と言うか死が確実な相手に勝った、そして生死を彷徨った報酬はそれに見合うものだった様に思う。


 レベルアップに必要な霊力の量が決まる要因は三つ。レベル差、物理的距離、心理的距離。

 今回レベル差は言わずもがな広がってるし、それが一番大きな要因だろう。

 物理的距離に関しても、今回決死の覚悟で毒針に突っ込み、俺の剣で止めを刺した為に非常に近い。

 そして心理的距離は因果とも言われ、その相手の死にどれだけ関わったかが換算される。

 なので今回俺の回復や解毒に勤めてくれたレイラも直接攻撃はしてなくとも、非常にレベルが上がっている。さすがに俺程じゃないが。


 この因果が中々の曲者で、普段のレベリングでヒョーンがさくっと相手を殺しても、その要因の殆どはヒョーンとなるので、俺への霊力はまったくと言っていい程ない様だ。

 ヒョーン無しで戦ったとしても、俺はもしもの時はヒョーンを頼ればいいと思ってしまっているので、つまりは心理的距離に差が出る事になってしまい、その場合でもレベリング効率は落ちてしまう様だ。

 逆を言えば相手がゴブリンなどの雑魚だったとしても、めちゃくちゃに苦労して倒せば心理的距離の部分で良い補正が掛かると言う訳である。

 結局、レベル上げたきゃ苦労しろと言う事だろう。


 そして今回は力を出し切り、そしてほんとに死にかけた。

 例えヒョーン頼りだったとしても、心理的距離の部分でも申し分ないと言う訳だ。


 故のこのレベルアップだ。

 本来なら五年近く掛かる成長を一回の戦闘でする事ができた。

 またやれと言われても断るがな。


「魔王軍か……現状勝てる訳ないからな」


 俺は思わず呟いた。

 今回は目の前で人が襲われていたから咄嗟に助けたが、あまり無茶をして死んでも本末転倒だ。

 レベルより非常に良いステータスなのは分かっているが、それを使い熟せてないからな。


 ちなみにだが、ステータスってのは魔力と闘気じゃ上がり方が違う。

 だいたい闘気の方が魔力と比べて二倍増える。

 世間で言うバランス型ってのは魔力100:闘気100のステータスではなく、魔力75:闘気150と言ったステータスの事だ。

 極端な例、同じレベルでも魔力特化は魔力150:闘気0となり、闘気特化は魔力0:闘気300となるのである。


 なので俺のステータスはかなりの魔力寄りになる。

 現状闘気の放出のイメージを掴めていないので、使えてない以上、魔力と比べてしまうと闘気の成長は遅い。

 まぁ、完全に余談だ。


「さてと、今回は居るかな?」


 思考の整理も終わったところで、俺は銅像を振り返った。

 口には出したものの、俺は今回何となく察していた。

 ま、感ってやつだ。


 案の定、赤い光の球が銅像から浮き出て来るのが俺には見えた。


『うひょー! もしかして俺の事見えてるー!?』


 その火の精霊って奴は、随分と陽気な奴だった。



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