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私は静かに暮らしたい  作者: あやぺん
本編

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41/43

お見舞い6

 青竹に飾られる桃色のコスモスは桜の木とは全然違うけど美しいし輝いて見える。これを見られたらきっと元気が出るだろう。悲しいことにインゲの目はあまり見えないようだけど桃色というくらいは認識できるかもしれない。むしろその方が桜っぽい気がするし、ノノにこそこれを見せてあげたい。


「お前、これはどういうことだ」

「花見と月見道具と生花の材料。かろうじて金はあったけど、大雨で店があちこち閉まってて月見団子がないから月見うさぎ。知り合いから借りてきた」


 うさぎは何かと思ったら月見うさぎなんだ。私の頭の中は動揺で空っぽだったけど、彼はあの短い時間でこういう発想をしたとは尊敬する。


「花見と月見ってなんだ。ああ、したいってミユがこの子から聞いてお前に頼んだのか」

「頼まれたのは生花用のコスモスとススキだけだけど、別にこのくらい簡単だからと思って。ナック、親父が作った特製桜をよかな感じに飾ってくれ」

「おう。これ、レオさんが作ってくれたのか」

「不器用な俺には無理だから物だけ集めて頼んだ。ルル達も少し手伝ってくれた。理由は言わなかったからあいつら遊んでいただけだけど」


 彼は恩人がこの時期に桜を見たいと言った時にこうしたのだろうか。

 ネビーは少し離れたところに座るとうさぎを床に置いて撫でて、腕の中のコスモスやススキを床に置いて、こちら側からはよく見えて無かった背負いカゴを下ろして花カゴをいくつか出した。

 インゲの両親は起きて、目を丸くしたまま小声で「このように、こんなにありがとうございます」と繰り返している。


「生けるなら(はさみ)と花カゴがあればよかですよね? 家にあった親父の試作品を借りてきました。あとこっちはうさぎの餌入れと水入れです。月見団子は朝また来ます」

「お前はたまにめちゃくちゃ気が利くな。明日は朝から花見月見会をする。この子の友達が朝から来てくれるんだ」

「俺は仕事中だから帰る。最近あんまりええ事なしだから悪い気がうつらないように早く出ていかないと。親はお医者さんからちょっとヤバそうって説明は聞いてるのか? 居ないってことは向かっているんだよな? どうかお大事にって伝えてくれ。頑張れイナ君。ミユさん、失礼します」


 親はここにいるのに居ないと思っているようだし、イナ君って名前を間違えている。

 ナックやイオが話しかけようとしたけどネビーは聞かずに去って、イオが「相変わらずそそっかしいな。イナ君って誰だ。まあ、そういえばあいつは知らない子だもんな」と言いながらうさぎを抱き上げた。


「ミユはまずうさぎ係」


 イオにうさぎを渡されたので受け取って、初めてうさぎを抱っこするからドキドキ。


「インゲ。かわゆいミユがかわゆいうさぎと一緒ですこぶるかわゆいことになってる。気合いで回復しろ」

「良かったわねインゲ。ミユさんの生けた花が見たいって頼んだらこんなに沢山」


 起きた母親が息子の手を取って微笑み掛けた。


「インゲ、俺はエロ心でミユを襲いそうだから起きてミユを助けろ」


 苦しさは和らいでいるのかインゲはもううなされてはいないけど、ぐっすりというかグッタリ眠っている。しかし「ん……」とみじろぎして、まつ毛を震わせてゆっくりと目を開いた。


「ミユ……ちゃん?」


 暗いから気のせいかもしれないけどインゲの顔色が少しは良くなった気がして、最後に聞いた時よりも声が大きくてハッキリしたから自然と笑えた。


「ええ。私です。ミユです。ここにいますよ」

「……兄ちゃん達もいる。お父さんもお母さんも」

「おうよ。お前はト班の新しい弟分だからお見舞いに来るのは当然だ」

「いっぱい寝たら春が来た。桃色が沢山」

「ってことは見えるか?」

「うん。ミユちゃんがお嫁さんになってる」

「えっ?」


 眠たそうに、気だるそうに瞬きを繰り返すインゲは柔らかく微笑んだ。


「さっきよりミユちゃんが見えて嬉しい」


 さっきより、だと彼の視界はぼやけているのかもしれない。しかし見えないような感じだったのが改善したのならこれは回復の兆しではないだろうか。

 白い着物に白い髪隠しだからぼんやり見えるインゲの視界には私は白無垢姿のように映っているのだろうか。白無垢を借りると高いし、火消しのお嫁さん衣装は、所属する組に伝わる色打ち掛けだから私は白無垢は着ないけど、それをインゲは知らない。


「良くなってきたということです」

「今が年明けなら俺……また長生きした……。お父さん、お母さん、ミユちゃんがお嫁さんになって……いにきてくれた」


 年はまだ明けていなくてあれから時間はそんなに経っていないから違う、と今は否定したくない。皆同じ気持ちだから誰もインゲの誤解を訂正せず。


「残念だったなインゲ。お前が元服する前にミユはおれの嫁だ。生まれてくるのが遅かったから似た女を探せ。ええ女は結構いる」

「うん……」

「かわゆいミユを見られたからって安心するなよ。次は子どもだ。インゲ兄ちゃんとか、インゲ兄さんって呼ぶようになる俺らの子どもに会え」

「ミユちゃん似?」

「俺似ならなんだ」

「やだ」

「うぉい!」

「嘘だよ」

「冗談が言えるなら元気だな」

「うん。少し楽……。寝て起きたら二人の祝言だから……何回寝たらお……なかなぁ」


 両親と場所を変わって、息子と話す二人を眺めていたら、インゲはまた眠りについた。

 永遠の眠りではないかと怯えつつも少し希望を抱いた私達は交代で寝て、翌朝インゲの熱は引いたけど浮腫が酷くて手足、特に足が辛そう。

 けれどもお医者さんは前と同じならここから良くなっていくだろうと希望のある予想をしたので皆で安堵。

 病院の許可を得たので竹桜は休憩室に飾られて、そこにヤァドが釜の蓋に「月」と書いた満月も上手いこと設置されて、コスモスやススキも少し飾った。

 そこではうさぎがいて月見団子もあるトランプ大会が開催されて、甘酒まで振る舞われた。

 インゲの部屋には私が生けたコスモスとススキが飾られたままで、彼の様子を見て順番にお見舞い客が訪れて、私とイオは「年明けじゃなかった。嘘つき!」とインゲに怒られた。さらに白無垢ではなかったと聞いたインゲが頬を膨らませる。


「でも優しい嘘だな。俺が半分大人になったって思うようにだろう? あと、お嫁さん姿のミユちゃんを見られたって思ったままでって」

「まあな。年明けまで元気に生きて祝言祝いに来いよ。次は出産祝いで、その次も出産祝いで、さらに出産祝いで、ようやくお前の元服祝いか? 多分そんな」

「うん。どんどん目が見えるようになっているから平気な気がする。足は痛い。お母さんが疲れるから助けて」

「おうよ。また揉んでやる」

「見ながら覚える。俺、いつかイオ兄ちゃんが疲れている時に揉み療治をする」

「野郎の手なんて却下だ却下。かわゆいミユの手でしてもらう」

「離縁したら俺のお嫁さんだよ? 無理じゃん。俺にしておきなよ」

「元気になったら減らず口だな!」

「イオさんに似てきたんですよ。もう、インゲ君、悪いところは真似しないで下さい」


 午後になるとかなり喋れるようになったインゲは親や介助師さん付き添いのもとで休憩室へ移動して、トランプ大会に参加。

 インゲはノノの隣から離れず、朝からずっと来ているニムラとクルスがうさぎを抱っこするノノの似顔絵描きを夢中でした。

 竹桜に大切な人のお見舞いに来た人達の手によって、短冊や七夕飾りが増えていく。

 使用人とスズと来てくれたチエに、イオが「これを持ってきたのはネビーで、あいつはインゲとまだ接点がないのにこれです」と教えた。


「私、決めました」

「何をですか?」

「こういう優しいネビーさんが文通流しした方の人柄は絶対にええです。恋穴落ちしてもらえるように頑張ります! 私はこんなにあの人が良いと思ったことはありません。この勘はきっと合っています」

「おお。そうですか。応援します」


 イオは笑いつつ少し複雑そうな表情を浮かべたので、何かと思ってチエから離れた時に質問したら「十年待っててくれないかなぁってあいつがボヤいたことがあるから、少し後押しと思ったら逆になった」と言われた。


「彼、そんなことを言うたんですか?」

「強めに断っても来るかどうなとか、待ってくれるか試したってこと。あと俺の女の友人だから自分がええ男だと思う人を紹介。準備が出来ていないから縁なし。縁なしなのに深入りして変なことになると嫌だから接したくない。今のあいつはとにかく妹達が優先みたい」

「チエさんは文通流しで流れています」

「絶対に俺、くらいじゃないと今の貧乏気味の生活に付き合わせたくないし、むしろ逃げられるって思っているっぽい」

「兵官さんなのに、養子になったのに貧乏なのですか?」

「あの家の家計を俺は知らない。どう見ても散財はしてない。妹達が今度茶道を始めるみたいだし、末っ子は女学校って言うていたから手習代や学費だろう。ネビーも専門高等校へ通ったし」


 私が火事に遭ってイオに助けられたら、チエがイオの友人に淡い恋をしてつれなく袖振りされたと思ったら、文通流しで結構本気めの恋穴落ち。

 ふと見たら、クルスの兄と一緒に来た私達と同年代の男性とスズが、ニムラとクルスの絵を見ながら談笑していた。もしかして、あそこでも何か発生したりして。

 私とイオはずっと病院にいて、病院の仕事を手伝いつつなるべくノノとインゲのお見舞いをし、夜になって病院からどうぞと差し入れされた夕食を休憩室で食べていたらリルが体格の良い男性と現れた。


「こんばんはロイさん。リルちゃんも。知り合いに何かありました?」

「こんばんは、イオさん。妻が昼間忙しくて、今日中に我が家の井戸水を病院へと言うので来ました。持ってきて病院の方に渡したらお二人の知り合いなら休憩室にいるから直接渡して欲しいと言われまして」


 お辞儀の仕方、その後凛と伸ばした背筋、ゆったりとした話し方、着流しではなくて羽織りも着ていて下駄には足袋という格好。ロイはどこからどう見ても良家の子息で、肩書きが卿家の息子と知らなかったら華族なんでろうなぁと思いそうだと感じた。


「ありがとうございます。リルちゃん、ありがとう。あっ、ロイさん。こちらが例のミユさんです。結納日の歓迎会に来てくれるそうでありがとうございます」

「この度はおめでとうございます。では、こちらをどうぞ」


 ロイは肩掛け鞄から風呂敷を出してイオに差し出した。


「明日も仕事なので失礼します。またすぐ会えますのでその時に」

「ご両親のどちらか分かりませんがお大事にして下さい」

「あの、いや。俺に懐いてくれている子です。危機は脱したから、きっと良くなるって信じる。突然押しかけるように頼んだのに、わざわざ来てくれてありがとう、リルちゃん。ロイさんもありがとうございます」

「……危篤だったんですか⁈」

「何が効いたか分からないけど大丈夫そう。あっ、ご利益があるかもしれないから願い事を書いて飾っていって下さい」


 こうしてリルとロイは竹桜に短冊を飾っていき、イオが二人にこれはネビーが材料を集めて彼の父が作ってくれたと説明してお礼を告げた。


「実家の長屋で七夕の時期によくします。小さいものから大きいものまで。紙は高いけど花は無料です」

「見てるのにいざっていう時に出てこないから久々にあいつに感心した。月見会なら月兎って言うてうさぎまで借りてきて。うさぎなんてどこで借りたんだ?」

「分かりません。結婚してから兄ちゃんの行動範囲は思っていたより広いってどんどん知ります」

「自分なんてもっとです。知り合って十年以上経つのに、最近親しくなったので驚くことばかりです。うさぎのことを今度聞いてみよう」


 二人を病院の玄関まで見送ったら今度二人で我が家へどうぞと誘ってくれた。土日休みで予定が合えば、連絡はネビーを介したら取れるので是非、と。

 遠ざかる二人を眺めながら私はイオに「ルーベル家は立派なお屋敷で彼のお母上は元お嬢様という感じでした」と教えた。


「作法とか分からん。下準備しないと行けない。でもあのリルちゃんの今の生活は気になりまくり。あっ。言い忘れていたけどリルちゃんの家の嫁ぎ先が卿家ってあまり広めないでって。役人嫌いがいたり面倒な時もあるからだって」

「そうなのですか。分かりました。リルさんと親しそうな同じ町内会の奥さんが旦那さんと共にラオさんに会いたいと言うていました。こちらへ来るのでと。あとザックさんの浮絵に記名が欲しいみたいです。リルさんへ少しはお礼になる気がします」


 簡単なお茶会をしようと誘われたから、チエを亭主にして簡単なお茶会を開いてそこに皆を呼んでお礼を兼ねておもてなしはどうかと提案。


「お茶会。サッパリ分からない世界だけどミユに教わればええか。祭りや行事で補佐官のお嫁さんとかがしてくれるけど俺は顔を出した事がない」

「結婚は家と家の結びつきというけど、そこからこう、世界が広がって行くんですね。しかも友人達まで」

「あの家が欲しいけど狙えないから親しい家を狙うとか、縁談って色々あるって言うよな。俺の狙いはミユだけだけど。他は全部おまけ」


 嬉しいことに、ここからインゲはどんどん回復したけど悲しいことにノノが翌日に亡くなった。変わった様子はなかったのに夕方、冷たくなっていたという。

 その顔は微笑んでいるから苦しくはなかっただろうということで、それは救いだ。

 このことは、インゲが良くなってきて安心して、仕事終わりのイオと共に病院に来たら、ノノの娘夫婦がいて、お世話になったからと病院の掃除をしていたので遭遇して知った。

 彼女の家族から、インゲの代わりに黄泉に行きたいと言っていたからそうしたのかもと言われて、彼のおかげで花見が出来たとうんと喜んでいたことや、望んでいたうさぎを抱いた似顔絵も残って幸せいっぱいだと言っていたと、そう教えられた。


「元々、今年の春まで持ったらええと言われていたのにここまで長生きして、最後まで楽しそうでしたので果報者です」

「母の遺書です。どうか受け取って下さい」

「お礼とは嬉しい手紙です。ありがとうございます」

「祝言日は母の似顔絵を持ってお祝いに行きます」

「ありがとうございます」


 私とイオも掃除しようと、夜は人のいない休憩室を掃き掃除と拭き掃除をして、もう飾りだけになってしまった竹桜を見上げた。


「あいつ、これを持ってきてくれたように昔から誰にでも親切。あいつの親というか家族もそう。ほら、リルちゃんもミユのお見舞いに来ただろう?」

「ええ。お兄さんに付き合ってお見舞いは分かるけど、二回目は個人的だったのでそう思いました。友人どころか、知り合いでもないのに優しいなぁと」

「親父や母ちゃんに女にふらふらしてもええけど人でなしにはなるな。ネビー君の言うことは良く聞け。ヤァド君やナック君に見捨てられるような奴になるなって耳にタコ。でも正解だと思う」


 私は大きく頷いて「私も皆さんを手本にしたいです」と告げた。


「ネビーのやつ、辛くなりそうだから死ななくなりそうになったらインゲを紹介しろって。気持ちは分かる」

「似たような人は元服を迎えられたら予後がええと聞いたので、元服したら会わせるってことですか?」

「うん。それがええかな。どこかで偶然、たまたま俺といるのを見たとかそれで話すのはええけどわざわざは知り合いたくないって。と、いうわけでインゲの元服祝いに誘う」

「きっと大丈夫です。そう信じます。そついえばリルさんはイオさんと親しくない、仲良しではないと言うていました」

「えっ? んー、まあ、親しいかというとそうだな」

「でもお兄さんととても親しいから、それで自分に優しいので、私のお見舞いはそのお礼だそうです。この間のもきっと。なのでこの竹桜はイオさんの優しさや友人をとても大切にしているという証でもあります。やっぱり貴方には真心がありそうです」


 そういう人に家宝にすると慕われた私は果報者だと心の中で惚気てみる。この人は気移りしてあっという間に私の世界から去ると思っていたのに変なの。


「……。無理。我慢出来ない。俺も明日どうなるかわからないのもあるし、そんな顔で、俺がええって顔で笑いかけられたら無理」

「あの、イオさん?」


 サラッと抱きしめられてあっと思ったら唇に何か当たったけど、突然でも予想出来たから、緊張で思いっきり唇に力を入れたので、何かぶつかった? くらいの感想。

 これがキス。これなの?

 もっとこう、わーって何かあるものだと思っていたらよく分からないものだった。


「力を入れすぎ。かわゆいなぁ」

「人、人が来ます」


 押し返したのに逆に抱きしめられたし頬に唇が触れる。さっきのキスよりこっちの方が余程恥ずかしいし嬉しい。ここはいつ人が来るか分からないという場所だから、嬉しいと考えてはいけない!


「来ないって。俺の末の松山の君。唯一星の君。それから他の女を蹴散らす星火燎原(せいかりょうげん)の君に、白うさぎの君に、イオキツネだけの君に……」

「名前が沢山です」と私はクスリと笑った。


「よし、笑って力が抜けた」


 二度目のキスでようやくキスとはこういうものなのかと知って、何度も繰り返されるから恥ずかしすぎて、でもこれは素敵だからと止められなくて、なんて甘ったるいんだろうとつい夢中になり、十回くらい続いてから我に返った。

 慌てて「ここはダメ……」と彼の胸を軽く押し返すと、厚い胸板はスッと遠ざかった。


「甘いキスがええ気がして飴を舐めてたけどそもそも甘い。キスなんて別に好きじゃなかったからそんなにしてきてないけど、ミユだと至福。飴、食べる?」と笑いかけられた。


「ちなみに食べるなら口移し」

「そんなことしません」

「この冷めた返事と目が欲しかった。くぅ〜、癖になってきた。食べなくてええけど、そのうち似たようなことをするよ?」

「しません」

「するって」

「しません」

「次の予約はそれだ。年明けには全部貰うから覚悟しといて。コンコン、コンコココン、コンコンコン!」

「ちょっと、くす、くすぐったいです」


 首回りをくすぐるようにつつかれて、くすぐったくて身を捩る。

 雰囲気台無しと思うよりも、これこそ良い気がするようになった私は、これからもずっと静かに暮らせなそう。

 人はいつ死ぬか分からないというのは身に染みたので「少し好きから好きになりました。優しい貴方が大好きです」と一生懸命声を出したらイオはしばらく停止して、しゃがんで、頭を抱えて最後は胸を押さえて畳の上を転がり始めた。

 何か騒ぎ出す前に逃亡。夜に一人で帰るわけにはいかないからインゲのお見舞いへ行くことにした。

「ちょうど良かった先生! 恋人がかわゆ過ぎて胸が痛くて死にそうなんですけど薬はないですか!」と耳に飛び込んできたので両指で耳を塞ぐ。


 でも、注意しなくなったらこの調子だろうしお医者さんに迷惑なので仕方がないと後戻り。彼をしっかり叱って、私は静かに暮らしたいと言おう。誰かが欠点を直さないといけないと思うので私が彼の隣で言い続けるし、彼に言われることは私も直したい。

 私は静かに暮らしたい。でも静かでないのも嫌いではないと分かったのと、真心のある彼の周りには同じような人達で溢れているようなので、世界を広げて賑やかに楽しく、そして優しく暮らしたい。

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