こひ2
今日は家にチエとスズが来ているというか、来てもらったので相談会。
自分のことをいきなり話すのは気が引けるので、まずスズのお見合いの様子を尋ねて、次はチエのこと。
ネビーに文通流しをされた結果、元々のお見合い相手とまたお出掛けするのか、粘ってみるのか、とても気になる。
二人に会うのは、嫌がらせ犯が逮捕された後に、チエの家で会って、事件について軽く話して、解決したことを伝えて以来だ。
「十年後に縁談なんて信じられないから、恋人がいるか少し調べたんです」
「むしろ最初の手紙の前に調べなかったんですか?」
この質問はスズがした。
「ダメ元、思い出と思ったから、調べなかったんですが、断られたら諦めがつかなくて」
「イオさんは誰もいないと言っていましたよ」
「その通りで、軽く調べたけど誰もいないみたいです。ただ、あの。予想外というか住まいが街外れの長屋でした」
親に文通流しなんて失礼だし、兵官が良いならありがたく何人か紹介してもらいなさいと言われたから、自分で調べたそうだ。
竹細工職人の長男ネビーには妹が五人いて、二人嫁いで、親と彼と未成年の三人が一緒に暮らしている。
末っ子とは十四才離れていて、そのすぐ上の二人の妹と同じくかなり可愛がっていて、半分父親気分だそうだ。
「末っ子が元服するまで結婚しないと言っているそうです。家の近所になるほど彼を知っている人が多くて聞きたい放題。軽く聞き込みしていたら同い年くらいの女性につっかかられました」
ネビーをコソコソ調べて何をする気だとか、どこの誰だと迫られたらしい。
そこを別の女性に助けられて、他にも人が集まり、全員と話す形になったという。
『あんたみたいなお嬢さん好きだから上手く行くかもしれないけど、今のところ全員玉砕しているから、調べたり接するとどんどんしんどくなるよ』
と言われたそうだ。
「なぜしんどくなるのかと聞いたら優しいからですって。あんまり話せなくても、少し離れて見ていたら色々分かるから惹かれるけど、振り向いてくれないから辛くなるそうで、その方はもう諦めて嫁ぐことにしたと言うていました。半元服の頃から徐々に慕うようになったけど隙がなかったそうです」
「そんな方と会ったのですか」
「はい」
それで妹達のことを教えてもらって、お嫁さんはお嬢さんだから出世して家を建てると言っている話も仕入れたという。
「成したいことはそれみたいです。昔から自分は成り上がって大豪邸を建てるとか、番隊長になると言うているそうです」
「チエさんもお嬢さんだけど、狙いはもっと上のお嬢さん達ってことでしょうか」
「身分というよりは、キチッとしていて上品で照れ屋なのがお嬢さんらしいです。私みたいな雰囲気の女性にデレデレするから頑張ってみたら? と言われました」
しかし実際は、デレデレされずに門前払いである。
「元恋敵なのに優しい方ですね」
「ええ。しかも美人なんです。自分がどんどん嫌な人間になっていくから初恋は諦めたと言うていました。なんだか怖いので今のうちにやめておきます」
チエはため息を吐いて、困り笑いで肩を揺らした。
家族の為に朝から晩まで励んで兵官になって、やっぱり家族の為に励み続けて自分は後回しだから、それを曲げるとしたら余程のことだろう、と聞いたのも諦める理由らしい。
一人ならともかく、三人そういう人に会って、最後はチエを助けてくれた女性が二人メソメソ泣きだして、チエを含む三人で慰めたという。
「せっかくなら夫婦になる人のことで苦しみたいです。まだ全然知らないから当然ですけど、敵を慰められるということは、そういうことです」
そういう訳で、チエはありがたく文通流しを受けて縁談候補者を増やすそうだ。
これまでなんだか気が乗らないと思っていたのは、逞しい男性が好みだったのかもということで。
「さて、本日の主役はミユさんです」
「相談とはなんですか?」
「その、相談というかまず報告で、九月に結納することになりました」
「その話はとっくに耳に入っていますよ。火消しに嫁入りが出るのは町内会初だってザワついていますから」
「私はスズさんから聞きました。いつ教えてくれるのかなってソワソワ、ヤキモキしていたんです」
「親が向こうの家にそういう返事をしたのはつい三日前です。その日のうちに私はスズさんに声をかけて、チエさんの家の郵便受けに手紙を入れました」
私はごにょごにょ、ことの次第を二人に伝えて、結納は嫌ではないけど嬉しい! という訳でもなくて、中途半端な気持ちだと説明。
両親が九月に結納しますという返事をしたら、八月までがお見合い期限になったんですかと言われたそうで、そこから八月末日に破談か結納か決めるという話になり、結納話は宙ぶらりん。
母に「ミユさんが天邪鬼で態度が悪いからこうなる」と少し咎められた。
そう言われても糠に釘状態で、イオに少し何か言ったり匂わせても伝わらないどころか、頓珍漢な返事がくる。
「そういう感じの結納です」
「それは結納なんですか? 九月の二週目って、あと二ヶ月ありますけど」
「その九月の二週目よりも前に結納延期や破談が出来るから良いのではないですか? それより少し何か言ったり匂わせたりの方が気になります」
「結納は嫌ですと言わないってことは、それなりにお慕いしているということですか?」
「……あの、本人のことは本人しか分かりませんし、猫被りや演技かもしれませんが、私から見たイオさんの気持ちはこんなです」
私は思いっきり手を伸ばしてここ、と示した。
その後に「私は多分このくらいです」と正座している足の高さくらいを提示。
「この落差を埋めるべきですか? 埋め方が分かりませんし、結納が嫌という訳でもないです。でも、しっくりこないというか変な感じというか……」
「私には……」
玄関の鐘がカラコロン、カラコロンと鳴って女性の声がしたので玄関へ行ったけど、嫌がらせの件で警戒心の増した私は扉は開かず、声だけ出した。
「どちらさまですか?」
前までなら、何も考えずに扉を開いていただろう。
「ハ組の花組数名です」
「……はい」
そういえばこの声は前に聞いたかも、と思いながら扉を開くと八人もいた。
「ちょっと! いつになったら来るのかと思ったら何、勝手に結納しようとしてるのよ!」
「そうよそうよ! なんで他の女にお見合いくらいさせないのよ!」
「そもそもイオさんは皆のイオさんだったのに、独り占めしようなんて根性が悪いわよ!」
わーわー言われてしばらく目が点。
イオが彼女達に言ってくれたんじゃなかったっけ? とか、親や本人に迫るのではなくて私に向かってくるなんてお門違いだと途方に暮れる。
「そのようなことは私にではなくて、本人や彼の親に言うて下さい」
「そんなの言うてるに決まっているでしょう! 今の縁談が終わらない限り他とは縁結びしないって言われてるのよ!」
「空気を読んで譲りなさいよ! 別にイオさんに惚れてないんだら! 火消しでラオの息子がええならタオ君がいるでしょう!」
「そうよ、そうよ! タオ君にしなさいよ!」
「それならそちらこそタオさんにして下さい! イオさんに申し込まれているのは私です!」
なんなのこの自分勝手な人達、と思って思わず叫んでいた。
八対一なんて卑怯者で、こんなのいじめだ。
家に押しかけてきたのは、いつでも家に何か出来るって威嚇ってこと?
「そうだそうだ! 喧嘩しろ喧嘩!」
「七夕に合わせて花喧嘩がええって!」
「あんた達が諦めないと他のお見合いが進まないからとっとと負けな!」
「そうよそうよ! 往生際が悪いわよ! あんな顔だけの女たらしと私の兄を比べてイオさんって目が腐ってるわよ! ムカつくけど嫌だ嫌だって言うから兄とお見合いくらいしなさいよ! 絶対反対するけど」
「顔だけなんて私の恋人にそんな事を言わないで下さい!」
口にしてから、今の台詞に自分自身が驚く。
「ちょっと誰よ。火消しなら誰でもええ女なんて言うたのは。違うじゃない。こうなると話が変わってくるわよ」
「そうだよ。悔しいけどそうなると話が違ってくる」
「大体さぁ、こうやってハッキリ言えるって、火消しの嫁に相応しくない大人しいジメジメ女って言うのも嘘じゃん」
「誰? そんなこと言い出したのは」
話が変化していって、前に私のお見舞いに来た——あれは一応お見舞いだと思う——女性が槍玉にあげられた。
「あの、誤解は誰にでもありますので。特に私はこう、かなり天邪鬼でイオさんに良い態度を取っていません」
「せっかく七夕花喧嘩だと思ったのに、これだとつまらない……なくないからしようしよう。イオの恋人! ハ組でする七夕祭りに来なさいよ! 五日後だから!」
七夕祭りだけど七夕当日ではなくて前々日に行われるらしい。
今月は月末まであちこちで七夕祭りをしているので、いつがどこ主催とあまり気にしたことがない。
「恋人なら元々来る予定じゃないの? そもそもイオ君の誕生日祝いもするし」
「っていうか毎年恒例のあれをするの? ゆるゆる女じゃなくて、堅そうなお嬢さんだから本気の本命じゃん。恋人が出来たのにあの調子だったら兄貴達にボコボコにしてもらうけど。周りに悪影響過ぎる」
じゃぁ、と嵐のようだった彼女達は去っていった。
私は七夕がイオの誕生日なんてことは知らなかったし、ハ組の七夕祭りにも誘われていない。
居間に戻るとチエが、
「長かったですがお客さんなら私達が帰った方が良かったですか?」
遠慮がちに微笑んだ。
何かあったのか教えたら、面倒な相手達がくっついてくるのに、イオと破談にすると言わないとスズに指摘されてドキリとして、チエには誕生日のお祝いを考えないとと笑いかけられた。
約束の時間まで二人と悩んで、スズとチエを見送り、一人になったらなんで誘われていないのかとか、なぜ誕生日を祝ってと言われていないのかモヤモヤしてきて、夕方少し前に買い物へ。
「こんにちは。偶然ですね」
魚屋へもうすぐ着くという時に、声を掛けてきたのはトオラだった。
制服姿ではなくて買い物カゴを持っていて大根が飛び出ている。
「こんにちは。今日はお休みですか?」
「ええ。それで炊事当番です。あまり好きではないけど、一人暮らしは金が掛かるから結婚するまでは家にいるつもりで、そうなると家事は当番制です。全員、働いているんで」
彼は苦笑いを浮かべた。こういう感じならあまり悪印象は抱かない。
「私は社会勉強として働いた頃は家守りは少なかったですが、最近は家守りに集中しています」
「へえ、そうなんですか。それはその……ですね」
声が小さくなったのでなんて言ったのか分からなくて、なぜ照れ顔をされたのかも不明。
また頭の中で私が彼を慕っている、という勝手な考えに変換された疑惑。
「あの、ではこれで。急いでいるので」
「いえあの! 今度いつ会えますか?」
「……結納しますのですみません!」
いたたまれない気持ちで逃亡して別の魚屋を目指す。
私は彼に気のある態度を示したことはなくて、断ったのに中々諦めてくれないのは少し怖い。
なにせ世の中には勝手に恋人だと思い込む男性がいた。
歩いているうちに、あのほとんど行ったことのない魚屋はどこだっけ? と迷子になった。
時間が経ったからもうトオラは居ないだろうと考えて、元の魚屋へ戻ることに。
来た道を覚えているから、それ通りに戻れば帰れるだろう。
「っ痛えな! いきなり止まってこっちに突っ込んでくるなんて危ないだろう!」
方向転換したら人にぶつかってしまって、しかも強面男性だったので身をすくめて後退り。
「すみません」
ジロジロ見られて怖くて身動き出来なかったら「ジンジン痛くて腕を怪我したかもしれないから俺を薬師所へ連れて行け」と睨まれた。
「んな訳あるか! お嬢さん、逃げ……なくてええ。ミユさんじゃん。おいこら、かわゆいお嬢さんをどこへ連れ込む気だった。恫喝罪で兵官に引き渡しだ!」
男の手首を掴んだのはヤァドで私を見て笑いかけてくれた。
今日、イオは日勤と言っていて、彼と同じ班は同じ勤務のはずなのに、ヤァドが制服姿ではないのはなぜだろう。
「離せ。薬師所へって言うただろう。どこに連れ込むも何もない。かわゆかったから散歩してもらいながら口説こうかなって。男がいたのかよ」
「釣り下手か! かわゆくて一目惚れしたから散歩して下さいって言えよ」
「んなこと言えるか!」
ヤアドの手を振り払うと、男は舌打ちして去っていった。
「ミユさん、なんでこんなガラの悪いところにいるんですか? 君の家ってニ組の管轄地域の方ですよね?」
「ありがとうございます。いつもの魚屋で会いたくない方に会って、別の魚屋と思ったけど道に迷いました。それで来た道を戻るところでした。今日はお休みですか?」
休みがあっても、イオは私にいつも以上は会いに来ないし、またデートしようとも言わないみたい。
「ああ。制服姿じゃないからですね。今日のト班は覆面調査中。半見習い達が休日に悪さをしていないかとか、新人の働きぶりの観察。災害対策の不備がないかとか、道具点検とかも途中、途中していますけど」
「そういう仕事もあるんですか」
「半分休みですけどね。休みが少ない分、緩い仕事もあるんです。そろそろ戻って担当半見習いと組で鍛錬だけど見にきますか? イオの数少ないええところを見られるはずだから来て下さい。夕食用の食材を奢るから!」
夜、イオはいつものように我が家へ来るだろうから、会うのが少し早くなったら夜は来ないかもしれない。
今でも夜でも会うのはどちらでも良いと思ったのと、七夕祭りの事が気になり過ぎてヤァドの誘いに乗ることにした。
魚屋はこっちと言われて案内されて、ヤァドは魚屋で店員中年女性を褒めちぎって値切ってくれて、サバとちびホタテを多めに獲得。
その後、一緒に組へ行き、途中で入って良いのか気になった。
「部外者なのに入って良いんですか?」
「部外者? イオの恋人だろう? 半分らしいけど。イオさん、差し入れの握り飯ですとかしてないってこと? まあ、俺らは結構一緒にいるけどイオに会いに来た君の姿を見たことがないです」
「差し入れ……。差し入れをするものですか?」
仕事中に押しかけるなんて発想はなかった。
「いや。気を引きたい女がそうやって来るだけ。逆だからええんじゃない? ミユちゃんが俺に差し入れしてくれたーって喜びそうではあるけど」
ヤァドについて行った場所には簡素な長椅子があって、イオとナックが座っていて、二人とも私服で縫い物をしていた。
防火服を縫っているので針が太いし糸も太い。
「……うおっ。ミユちゃん! 何? 俺に会いに来てくれたの⁈」
「そうだ。コソコソ隠れていたから呼んでみた」
ヤァドに嘘をつかれて慌てて否定しようとしたけど、イオがあまりにも嬉しそうに笑ったから、私の口は開かなかった。
「俺、もう退勤でええ? ミユちゃんが来るなんてきっと何かの相談だから。厄年なのか、かくれんぼをやめてかわゆくなったからか、変な男が寄ってくるからまた誰か現れたのかも」
「おう。そうかもしれないから帰れ帰れ。ちびの世話って言うてお前に残ってもらうことが多いから、今日はお前の番だ」
「じゃあな、イオ。上には俺らから言うておく」
「頼む」
十九時まで仕事のはずなのに夕暮れ時で勤務終了。
緊急出動時に二十四時間毎日みたいになることもあるから緩い時もあるって多分このこと。
ヤァドに聞いた今日の勤務にも驚いたので、教わって知識で知っているのと、目の当たりにするのでは大違い。
イオと二人で歩き出して、自然と私の家の方へ向かってくれていると気がついた。
「お仕事お疲れ様でした」
「それでどうしたの? 浮かない顔だしまた変な手紙でも来た?」
「いえ」
トオラの話をするか迷って、偶然会っただけで何もないから言わなくて良いかと思い、花組のことを伝えようと考えたら、なぜ誕生日である七夕祭りに誘われていないのかとモヤモヤして何も言えず。
「まさか本当に俺に会いにきた?」
違いますと言いかけて、こういうところが私の悪癖だと思って言葉を飲み込み、逆の言葉選びをすることにした。
結納しても良いとか、私の恋人と口から飛び出るくらいにはイオを気にかけていると自覚しているから。
「そう……です」
「えっ?」
ひょいっと顔を覗き込まれて、恥ずかしくてそっぽを向いた。
イオが何も言わないから無言の時間が続いて、足音に合わせて心臓がドッ、ドッ、ドッと鳴り続ける。
「おおー、おお。おお。元気だな。転ぶぞ」
風車を持って後ろを振り返りながら走る男の子がイオに突っ込んできて、彼は両腕を広げて腰を屈めた。
「こらっ! 前を向いて走らないと悪い奴に捕まるぞ! 俺に捕まった! よく回る風車を買ってもらったんだな!」
「すみません。手を離したせいで」
前から困り顔の妊婦さんが早歩きで近寄ってきた。
「奥さん、走ると危ないですよ!」
イオは子どもを地面に下ろして優しい笑顔を浮かべた。
「悪い奴かもしれないからお母さんを守ってこい。ガオーって襲われるぞ」
なんだか目がチカチカして眩しくて、瞬きを何回か繰り返してイオを眺めていたら、心の中に「好き」という単語が浮かんでびっくりして固まる。
逮捕劇時のときめきよりも、心臓が凄いことになっている。
「これ、火消しの印だよな⁈」
男の子がイオの後ろへ移動した。
「おお、よく知ってるな」
「おじさん、火消しなの?」
「いや、まだお兄さんだ。ハ組のイオとは俺のことだ!」
立ち上がったイオは宣伝をする役者のような体勢を作って変顔も浮かべた。
「聞いたことない」
子ども受けを狙ったのに冷めた返事と表情が返ってきた。
「ハ組のラオの息子とは俺のことだ!」
イオが台詞を変えて体勢も別のものにした瞬間、男の子の目が輝いた。
「ハ組のラオは知ってる! 息子なの⁈ すげぇ!」
「おうよ」
「すごくないか。知らないってことは落ちこぼれ息子だ」
この子は初対面の他人に対して辛辣過ぎる!
「あはは。その通りだ。でも普通の火消しくらいは頑張って……うおっ。奥さん、出産ですか⁈」
「多分。臨月なので遠出はしないようにしていました……」
痛たたたた、と女性がしゃがみ込んだのでイオはすかさず彼女を横抱きにした。
「ミユちゃん、その子をヤァドかナックの所に連れてってくれ。息子君! 赤ちゃんが産まれるから産婆のところに行く。ええ子にしてろよ! 奥さん、かかりつけはどこですか?」
イオはみるみる遠さがって行った。
「えっと、僕。お家の人に知らせたいからまずは火消しさんのところに行こうか」
「母ちゃんがさらわれた! 産まれるって、産まれるってあんなに痛いの⁈」
痛みが増すのはこれからだけど、そう教えたら怯えるだろうからこの質問には答えないことにする。
「一日掛かりの方もいるから励ますためにも家の人に知らせましょう」
「家はこっち!」
「家に行く前に火消しさんにお手伝いを頼みましょう」
迷子にさせてしまったら困るし、不安そうなので手を差し出したら握ってくれたので、手を繋いでハ組へ向かう。
夕焼けに染まる街は先程までと同じ景色のはずなのに、キラキラ、キラキラ、まるで新雪が積もった早朝みたいに輝いていた。




