犯人推測
毎日家に男性が出入りしていると、犯人が私関係でもイオ関係でも、犯人の神経を逆撫でするかもしれないと助言されたから、私とイオは嫌がらせ手紙が来た日から会っていない。
兄夫婦が協力してくれる話が出たけど、嫁候補は私が守るとイオの母親サエが来てくれることになった。
サエは我が家では出来ない家事を家族に丸投げして、なるべく我が家にいてくれて「お嫁さん候補だから世話は当たり前」と言ってくれている。
彼女と接する機会が増えて人となりが前より分かったことで、義母との付き合いは問題ないという確信が持ててきた。
豹変するかもしれないけど、今回知ったサエのさっぱりした明るい性格は、かなり好ましい。
父はネビーからの助言をもとに、町内会長にこう頼った。
「職場で同僚が住む、二つ隣の町内会で痴漢が出たと聞いて心配」
結果、兄を含む青年部が見回り強化中。これだと私以外の女性も守られる。
嫌がらせで放火されることもあるので、しばらく地区兵官と火消しが見回り強化地域にしてくれたので安全性はさらに増したはず。
少し遠いけど母と花屯所へ行って女性兵官にこういう時にどうやって過ごしたら良いのかを助言してもらい、指導もしてもらった。
一番最初に地区兵官に相談したのは大正解ってこと。
嫌がらせ手紙の送り主は見つからないまま九日が経過。
身の回りに不審者は現れず、知らない誰かが訪ねてくることもなく、事件も起こらないから実に平穏。
母が仕事を休まなくて済むように、母が出掛ける時間はサエが来てくれているので、イオと会えなくても手紙のやり取りはしている。
今日はお昼後にチエが家に遊びに来てくれたので、居間で簡単にお茶を点てておもてなし中。
一回だけの嫌がらせ手紙については広めない方が良いと言われているから彼女にも話していない。
今日、チエが来たのは相談があるからで、その内容は薄々分かっているから、話題が出るのを待っている。
「こほん、ミユさん。その、頼んだ手紙の返事が来ました」
「ネビーさんからですか?」
「はい。怖いから一緒にいて欲しくて来ました」
そう告げると彼女は手提げから手紙を取り出した。
「読みます」
「はい」
自分のことよりも他人のことの方が緊張するかもしれない。
「……」
チエの顔色が悪いので、手紙の内容はあまり良くないのだろう。手紙を差し出されたので目を通す。
【松の葉に月は移りぬ 桜の過ぐるや彼女と逢えぬ夜ばかり。春が来なければ桜は咲くはずもなく、訪れたことのない春は約十年後に訪れると思っています。成したい目標があり、時間がとても惜しい生活をしています。君に良縁がありますように 代筆】
宛名のチエさんへという文字と、手紙の裏面の南三区六番隊屯所ネビー・ルーベルという差出人名と違って本文はかなり達筆。おまけに後ろに代筆と書いてある。
代筆とわざわざ書いて本人の名前を書かないのは断り文の時だけだ。
「ミユさん。私は龍歌は少し苦手です。これ、見たことがあるけど……。忘れられない人がいるという意味ですか?」
「私も暗記している龍歌ではないので……。松の葉にさす月の位置も変わってきました……。チエさんの言う通り待つに掛けてありそうです」
月の位置が変わる程の日にちが過ぎても待っています、という意味にとれる。
「桜のように去ってしまった彼女と逢えない夜ばかりだけど待っている、みたいなことですよね?」
「春は来ていない、桜は咲くはずもなく、と書いてあります。しかも訪れたことのない春とも。前後が繋がらないです」
この春は季節ではなくて恋話にかかっているはず。
「誰とも出会っていなくて待っている。あっ、理想の女性を待っているってことですか?」
「そう読もうとすればそう読めますし、忘れられない片想いの人がいるとも読めます」
桜はとうに散っている時期なのにわざわざ桜を使って、松に待つをかけて、月はなんだろう。
熨斗に使う松の葉はほんのささやかなものという意味がある。
ささやかな自分から月は移った? ささやかな気持ちだったから月は誰か他のところへ移った?
「いえ、忘れられないみたいな事は書いてありませんね。あっ」
「どうしました? ミユさんはどう思いますか?」
「イオさん達が言うていたんです。ネビーさんは以前、女学生さんにお礼の手紙を貰って好みだったから返事をしたら親に門前払いされたと。親恐怖症なのか女性から逃げていると言うていました」
「我が家は門前払いではないです。むしろ卿家の養子さんで地区兵官だから、その肩書きだと大歓迎です。人柄はこれから交流で知るとして」
「この月ってその女学生ではないかと思いまして。松の葉はささやかなものとも言います。ささやかな自分から月は移ってしまったと読めます」
「何にせよ、私の手紙は春告げではなかった。そういうことですよね? 私に良縁をって、この縁は違うって事ですから」
「ええ、私にもそう読めます」
「約十年って何⁈ あの方、今二十一才ですよ! 成したい目標って何……。これ、返事をしたら質問に答えてくれるのかなぁ……」
「代筆、とわざわざ書いてありますからね……」
「ここからどうしたら良いのでしょう」
「もう一度くらい手紙を送れそうですが、代筆と書いてあるから、下手するとその代筆相手と文通になりますね」
「そうですよね。わざわざ代筆と書いてもらったということは、これ以降は読みませんって意味です。この内容も本人は無関係かもしれません。文通流しされたのかぁ……」
最初から読まないか読んでも返事をしないで誰かに回して、その人と文通をどうぞという文通流しを目撃するのはこれが初。
自分は縁を結べないけど良い女性だと思うから、条件が合いそうな親しい友人知人へ縁を流すのが文通流し。
チエはとても機嫌の悪そうな顔になっている。悲しいと言うよりは怒ってそう。
「こう、質問したくなる内容ですからね。代筆ですし、ところどころ本人とは関係ないかもしれません。断るだけならこういう文にはしなそうです」
「読み解くのが難しいということはそうですよね。約十年掛かる目標ってなんでしょう。約三十才ですよ三十才。今が適齢期なのに、あまりにも遅い時期になる三十才になったら考えるっておかしくないですか?」
この感じはやっぱりチエは怒っている。
「他に想い人がいるなら諦めもつくけど、誰もいなくて最初の返事が代筆って……。代筆してもらうのは良いけど、代筆とわざわざ書いて自分は筆を取りたくありませんでしたと意思表示するなんて余程の拒否です」
「チエさん、どうしますか?」
「挨拶程度しかしていないのに、門前払いなんて悔しくて分かりません」
カラコロン、カラコロン、カラコロンと玄関の呼び鐘が鳴り、
「こんにちは、イオです! ミユちゃんいますか?」
そう、予想外の人物の声がした。
「えっ? なんで?」
「なんでって、昨日ここへ挨拶をしに寄らなかったんですか? 昨日、私に手紙を持ってきてくれたのも昼間で、今週は夜勤だと言っていましたよ」
「私のところへは来ていません」
「こんにちは、地区兵官のネビーです! 最近の女学生に対する付きまといの捜査協力に感謝します! 約束通り来ました!」
なんの話?
チエは少し青い顔になって、
「隣の部屋にいるので手紙のことをそれとなく聞いてください」
と、居間の隣へ移動して襖を閉めた。
とりあえず玄関へ行き、イオとネビーを迎えようとしたらサエもいて、三人は中へ押し入ってきた。ネビーは制服姿だ。
「あの、約束なんてしていません。悪い相手と思っていなくても無理矢理中へ入ってくるのは怖いです。なんでしょうか」
「怖がらせてすみせん。ご近所さんに配慮です。玄関で問答をすると変に勘繰る人がいるからです。この家の者は地区兵官が来るような悪い事をしたのかとか、地区兵官が女を口説いているとかあるんで」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「そのように、はっきり言えるのはよかです」
「男二人とミユさんだけだと良くないから私もついて来ました」
家にあげるか迷ったけど、サエがいるしチエも今の隣室にいるから良いかと思って三人を居間へ通した。
お茶の準備をしようとしたら、ネビーに「お茶は結構なのでどうぞ」と着席を促された。
「犯人が捕まりました?」
「いえ。目星すらサッパリです。ただ、もしかしたら釣れるかもしれません」
「釣れるとはなんですか?」
「九日間も何もないから、今度は逆にこれでもかってくらい一緒にいるのはどうかという提案が一つ目の話です」
次に、と言うとネビーは続けた。
「嫌がらせ手紙一通だと口頭で厳重注意で終わりそうだけど、被害者は怖いだろうから他に何か法律はないか義兄に相談したんです」
彼の義兄は確か……彼の身分証明書に記載してあった人は裁判所勤務者だ。
「二度、三度目になってから相談されることが多いから、初回からという前例は中々なくて。義兄は裁判所勤めで賢いので知恵を借りようかと」
気持ち悪い手紙が一回、一通きただけなのに、色々親身になってくれるとは。
「知人の話ではなくて担当している事件の話だと言いました。それで、蜘蛛の死骸九匹は、恋のおまじないではないかと」
「えっ。あのような気持ちの悪いおまじないがあるんですか?」
シーナ物語という話が元で知っている人は知っているらしくて、九匹の蜘蛛の死骸を九日ごとに四回文にして相手に送ると、相愛になるというおまじないがあるそうだ。
「九は苦しみだけではなくて救済の数字です。優しい女性が九日ごとに蜘蛛のお墓を立てたら金貨が現れて、四回目には皇子が現れてお嫁さんになれたという話らしいんです。四は死であり幸せ数字ですね」
「このような話を初めて聞きました」
「平家だから知らないんじゃなくて有名ではないって。この話にちなんで蜘蛛手紙を送りつけて、怖かっただろう、可哀想に、俺に任せろ! みたいな狂言事件がそのおまじないの元らしくて、男子学生が定期的に捕まるらしい」
ようやく会えたイオの困り笑いで、怖さがかなり減った。
「義兄は上地区の裁判記録をまとめたりしているので、判例をいくつか知っていました。そうなると犯人はこいつになります」
ネビーは笑いながら隣に座るイオを親指で示した。これはふざけだろう。
「それを言うなら俺を押しのけたいお前ってことになる。なにせ俺ならお前に相談する。そうしたらお前はミユちゃんの役に立つ。今、まさにそうなっているよな?」
「つまり犯人は俺かイオの可能性が高いです、なんて。あはは。大丈夫ですか?」
「この顔色はどう見ても大丈夫じゃない。ミユちゃん、少しは和んだ?」
嫌がらせではなくて、不気味な恋のおまじないとは嫌だったけど、二人の冗談や笑顔でさらに恐怖が減ってありがたい。
「ええ。ありがとうございます。私は二人とも疑っていません」
もう何もなさそうだと思っていたところに、これからまた同じ手紙がくるかもしれないと提示されて怖かったから、二人の気遣いふざけと笑顔で少しホッとする。
「と、いう訳で犯人はイオの女関係ではなくてミユさんを慕う誰か、男ではないかと推測しました。サエさんの出入りで反感感情を抱いた様子がないのもそれを後押ししています」
「親とその話をしていました。犯人はイオさん側の情報を持っていないかもしれないと」
「おまじない手紙となると呪詛法に引っかかってくるし、前例があるから口頭注意以上に出来るそうです」
口頭注意だけだと逆恨みが怖いので、調べてくれたということだろう。
「相愛にならない場合は死ぬ、というおまじないらしいので。定期的にあるそうですが、実際は誰も死んでいません」
自分は呪われて死ぬの⁈ と恐ろしくなったけど、後半の台詞で一安心。
こんな気味の悪い手紙を送りつける事件が他にも定期的にあるとは。
「九日ごとに手紙が来るとして、今日がその九日目です。それで今日、捕まえようってことでここに来た」
釣りとはそういうこと。
我が家は長屋造りなので家と家の間に隙間がなく、裏側も同じくくっついている。多分材料の節約だ。
なので犯人が手紙を置いたりするのは玄関側にしか無理で、昼間の明るい、あまり人が少ない、目立つ時間にそれはしないはず。
誰でもしそうなこと、玄関扉に挟むにしても、下に置くにしても、また郵便受けに入れるにしても、数多く人が往来する帰宅時間帯やお風呂屋へ行くのに人気時間帯に、暗さと人に紛れて行うだろうというのがネビーの予想。
「今日はその九日目だから仕事を休みにしてきた。地区兵官が隠れて待ち伏せをする場所は家の周りにはないから、玄関の内側で張っていようかなって」
「友人のフリをして家に入ってもらって、そのまま待機する女性兵官を一人つけます。イオと二人でどうにかなるかと。もうすぐ来ると思います」
「お二人ともそのように、ありがとうございます」
女性兵官まで来てくれるなんて頼もしくてならない。イオだけでもかなりだけど。
「怪しいのは嫌がらせ手紙が来た時から今日までに、ミユちゃんにお申し込みをした相手。ご近所さん、地区兵官事務官、職場の人。でもまだ隠れ続けている奴かもしれない」
「女の嫉妬は女に向かうし、男も想い人へ向かうから、どちらにしても弱い女が標的になることが多いからタチが悪いです」
ネビーが肩をすくめるとイオも神妙な面持ちで頷いた。
「俺に向かってくれれば返り討ちにするのに」
「本当よ。ミユさんの気持ちが大きかったり、長く関係が続いている恋人だったら、近所の空き家に引っ越してきてもらいたいです。粘着質な男に好かれているかもしれないなんて心配だもの」
皆さん、ありがとうございますと頭を下げてから、嫌がらせ手紙の話をしていないのにチエに聞かせてしまったと気がついた。
「表の通りには女ばっかりだったんで、今はまだ犯人はいなそうだと思って、こうして家の中に入りました。サエさんとイオを置いていきますが、自分は他の仕事があるんで、聞き込みを装って帰ります」
「女性兵官さんの手配までありがとうございます」
「これが仕事で、女性兵官はこういう俺達男が対応するのはちょっとという、若い女性達の味方です。今後も上手く使って下さい」
それは花屯所でも言われたので、大きく頷く。
「周りにも教えて遠慮なく。地区兵官は区民の小間使いで、悪い芽を早く潰すのが大事な仕事の一つです。平家はなぜか兵官使用率が悪いんですよ」
立ち上がろうとしたネビーに、私は「あの!」と話しかけた。
制服姿なので勤務中だろうけど、チエの事を少し尋ねたい。
「はい。なんでしょうか」
「私事なのですが、友人からの手紙に代筆文を返して文通流しとはその、あまりに強い門前払いだなぁっと。卿家の養子さんだからですか?」
「……。えっ。文通流しってなんですか? 確かに師匠に代筆を頼みましたけど、なんで代筆って分かったんですか? あっ、この間ここで文字を書いたから、字が違うと分かったんですね」
困り顔で目を大きくしたネビーに見据えられた。
「いえ。代筆、と書いてありました。そうなると次からこの代筆した人と文通して下さいという意味になります」
「あー……読んだんですね。むしろ俺が読んでなくて。友人が選んだ女の友人だからよかな人な気がするって話しをしたので、弟子の誰かに文通流ししたのかな。分からないから、今度師匠に聞いておきます」
「ええ人かもと思ったのにお断りなのですか?」
「はい。逮捕が格好良かっただから、先生はあの魚美人に地区兵官を紹介したいってことかと。出会いのない地区兵官は結構います」
彼としてはチエは魚美人なんだ。
美人だと思うのに、少し手紙のやり取りをしてみることも嫌なの?
「失礼します」
チエが声を掛けてきて襖を開いた。
「盗み聞きのままにするか迷いましたが、直接お話ししたいです。でもその前にミユさん、大丈夫ですか? 嫌がらせされたなんて聞いてなかったです。しかも呪詛なんて怖いです」
「一回だけなので様子見していました。親もイオさん達も助けてくれているので大丈夫です」
「……。ご友人に寄り添ってあげて下さい。自分は仕事があるので私的な話はこれで」
見送りは要りませんので失礼します、とネビーは会釈をして立ち上がったけどチエも立った。
「あの、門前払いではなくて一度だけでも少し話をしたいです」
去ろうとしていたネビーが、チエの声掛けに振り返る。
彼は冷めたような、苛立ったような、棘のある視線で少し怖い。
「門前払いはしていません。手紙を受け取って読みました」
「一通で私の何が分かるのですか?」
「いえ、分かります。条件が合わないことも興味が湧かないことも分かりました。仕事があるので失礼します」
ネビーはすまなそうな顔で逃げるように居間から出て行った。
「へぇ、ミユさんの友人はネビー君なの。美人さんなのにつれないわね」
「あの、イオさん。私はネビーさんの条件と合いませんか?」
「……まぁ、その。あいつは我儘男で義実家の条件もあるから。俺はあいつの友人なんで向こうの味方をしますけど、伝書鳩くらいにはなります。もしもまた手紙を渡したい……」
玄関の鐘の音が鳴ったので「女性兵官でしょう。出迎えてきます」とイオが席を立った。
「これから嫌がらせ犯が来るかどうか見張るようですので、邪魔になるから今日は帰ります。ミユさん、助けがいる時は遠慮なく言って下さい」
「はい。ありがとうございます。あの、今度また話しましょう」
「ええ」
私服姿の女性兵官のカエラがイオと共に居間へ来たので挨拶をして、たまたま友人が来ていたから彼女を玄関まで見送ると伝えたら、
「明るいし、何もないでしょうけど、何かあるかもしれない九日目というのが気になるので家まで送ります」
そういう訳で、来たばかりのカエラがチエを送ってくれることに。
サエが夕飯の買い物へ行くと、カエラとチエと一緒に去った。
あっ、と気がつく。久しぶりにイオと二人きりだ。
イオも同じことを考えたのか、髪をかきながら少し照れたような表情を浮かべている。
「簪を使ってくれていて嬉しい」
「たまたまです」
あれから毎日使っているのに、私はやはり天邪鬼。
「たまたま俺が来た日にそれを使っているなんて、縁があるってことみたいでええな」
彼は前向き人間だからこういう発想になるみたい。
歯を見せて屈託なくニコッと笑ったから少し見惚れてしまった。
(このくらい素直になったら、私はかわゆい女性になれるんだろうな……)
「そう……ですね」
「えっ? ミユちゃんが、ミユちゃんがなんかまたかわゆい事を言うた。デートの時も俺に気があるような事を言うてくれたよな? うん、実にええ。あー、落ち着かないから縫い物でもする? 裁縫も出来るって披露するけど」
「……そうしましょうか」
この後、半襟や裏地付けを開始しようとしたら、イオは針に糸を中々通せなくて「縫うのは得意だけどこれは苦手」と愉快そうに笑った。
「これ、ミユちゃんの着物? イオって名前を刺繍しよう」
「それは母のものです」
「……ミユちゃんのはどれ?」
「渡しません」
「それなら俺のこの着物の裏地にミユって刺繍してくれない?」
「しません」
「それなら自分でしよう。どこがええかなぁ。人から見られるところがええな」
「恥ずかしいからやめて……」
この時、玄関の方からパァン! パン! パンパン! という大きな物音がして私は身をすくめた。




