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私は静かに暮らしたい  作者: あやぺん
本編

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23/43

半恋人4

 お出掛け中に小さな地震が発生。

 イオは、


「緊急出動があるかもしれない」


 と途中で帰宅。


 家からそんなに遠くない場所にいたのと、日が沈む前だから悪いけど家まで送れないと告げられて、当然のことだと思うから見送った。


 古い建物が壊れたり、物が倒れて誰かが怪我をしたかもしれないので、地震の時は勤務に関わらずなるべく周りの様子を確認しながら組に顔を出すそうだ。

 途中で仕事を発見したら勤務中の同僚と代るまで対処したりするという。


 一人で夕飯の買い物をしながら、火消しのお嫁さんになるということは、災害時に夫と一緒にいられない人生だと気がついた。

 大火災や大地震があれば彼らは働く側だから、多分私もそれを支援することになる。


(そういう覚悟も必要なのか。当たり前のことなのに今さら気がついた)

 

 夕食の買い物をして家へ向かいながら「どうしたら祝言したい?」という彼からの問いに対して自問自答。

 贈り物はうんと嬉しくて、彼の過去に嫉妬し始めて、彼が騒がしくても嫌悪感がないどころか楽しんで笑っているから、気持ちは増しているのは明らか。

 提示された条件はありがたい内容で、離縁時対策も提示されているから、このまま宙ぶらりんな恋人でいて途中でもう気持ちはないと言われて破談よりも、祝言後に破談の方がお得疑惑。

 

(火消しのお嫁さんになる覚悟……。どこに嫁いでも何かしらの覚悟が必要だし、格上が自分の親と同居でええなんて中々ない話……)


 このように理性で判断するうちは、イオへの気持ちはうんと大きくはなっていないのだろう。


(平均的なのはお見合いから三ヶ月以内に半結納するか返事……)


 縁談を始めたと広がるとお申し込みが来るという。

 その中から一番良いと思える相手と半結納をして、本命に「貴方にわりと決めました」と伝えて軽いお見合いは全て断る。

 結納条件を整えながら三ヶ月程度交流をして、結納をしたら、祝言契約や準備を含めて半年から一年程で結婚。

 

(早い人は早いし、遅い人は遅いからな)


 こう頭で考えると、三ヶ月間は現状維持が既定路線。

 家に帰って洗濯物を取り込んで、夕食の準備を始めてお出掛けしたから、縫い物は夜と明日だなぁと家事の組み立て。

 夕食中、両親に今日はどうだったかと問われたので、洗濯を一緒にして病院で子ども達とトランプ作りをしたと話して、イオは地震があったから途中で帰ったと伝えた。


「あのくらい小さい地震でもすぐに出勤なのか」


「うんと小さくは無かったですからね」


 両親はそのような男性と一緒になると大変だとは言わないようで淡々とした様子。


「今さらですが、私はそういう時に自分も働く側になると気がついたのでその辺りもよく考えます」


「言わなくても分かっていると思っていた。考えなさい。炊き出し支援とか色々あるだろう」


「火消しさんの家族でなくても参加するけど、確実に仕切る側に回るってことです。ミユさんは……出来そうね。副教室長を二回しっかり務められたんですもの。それも問題なさそう」


「そうだな」


 両親は私にそういう評価をつけるんだ、と二人を眺める。

 祝言条件が良いし、娘にそこそこ気持ちがあるようだし、イオ本人が自身を縛る気満々だから、両親は私とイオの関係が深まって祝言に至って欲しいのだろう。

 この後、両親は帰宅中にご近所さん達から娘いきなり火消しの恋人が出来て驚いたというような事を言われたという話をした。

 騙されていないか心配されたという。


「これからしばらく聞かれそうだ」


「説明出来るからええけど、噂は時々変に捻じ曲がるから、変な事を耳にしたら私達に言うんですよ」


「はい。あと直接言われたらしっかり説明します」


 夕食後は三人でお風呂屋へ行き、帰宅したら郵便受けに(ふみ)が結ばれている花水木(はなみずき)の枝が刺さっていた。

 それとは別に、郵便受けの中には手紙が三通入っていて、どちらも宛名は私の名前。

 居間で私が最初に確認したのは人生で一回はもらってみたかったという理由で花水木(はなみずき)の枝文。


【イオからミユさんへ 君をこふ心長さは冬の夜にいづれまさるとそらに知らなん。まだ初夏で、これからどんどん夜は短くなっていくのに。明日の夜、また会いに行きます】


 こふは恋ふなのか乞うなのか、それは私との会話に掛けたか気になるところ。

 君を恋慕う、もしくは私を乞う長さは冬の夜とどちらがまさるか…… あてにならない程知らなかった?

 空にだと上の空みたいなことで、上の空になるなんて知らなかった?

 冬の夜と言えば最も長い夜の代名詞なので、明けないのではないかと思うくらい長い長い夜と、私を恋い慕う時間は優劣つけがたいもので、こんなに上の空になるなんて知らなかった?

 いや、知って欲しいな気もしてくる。

 そらに知るという古語があって、誰にも教えられることなく知って欲しいという意味だったはず。

 

(と、読んでしまったけど実際はどうなのかな。こんな龍歌は初めて)


 自分の気持ちはいつまでも変わらなくて、それを当たり前だと思って欲しい。

 明日会いに行くという文も踏まえると更に会えない時間は長過ぎる。早く会いたい、と読める。


(素敵……)


 有名古典龍歌ではないし、イオに龍歌が作れる訳がないので、本を読み漁って探したか、誰かに代作してもらったのだろう。

 これに返すべき有名龍歌は忘れじの、な気がして、それはもうイオは知っている龍歌だから伝わるだろう。

 使い方にも定番や常識みたいなものがあると話して調べると良いと告げたから、信じませんという意味ではなくて幸福を感じています、という想いもあると分かるだろう。


(……歩み寄るなら私は火消しというかイオさん流?)


 今夜のうちに返事を書いて、明日の昼間に家へ届けたら仕事終わりに読むだろう。

 こういう返事を考えようと頭の中に言葉を並べながら、他の手紙の差し出し人を確認。

 二通は差し出し人が書いていなくて、一通はチエとスズの連名になっていた。

 なんとなく内容の予想がつくので中身を確認したら、近いうちにチエの家に集合ということなので、イオの事を問われるのだろう。

 洗濯場でスズと合流して、洗濯後に来られたらチエの家、近いうちになるべく早くと書いてあるので、明日そうしようと心の中で決定。

 私も話したかったけど、恥ずかしいから先延ばしにしていた。


(チエさんから個別の手紙もある……)


 どういう話が書いてあるのだろうと手紙を広げたら、私の事ではなくてネビーについてだった。

 あのとても優しい笑顔と格好良かった働きぶりが頭から離れなくて、気になって仕方がないから、私から教わった情報を親に話した。

 そうしたら、文通と数回付き添い付きで会ってみるのは良いと言われたので、ダメ元で手紙を送ることにした。

 我が家は格下なので、条件では相手にしてもらえないのは明らかだから彼の気を引くしかない。

 そういう訳で、手紙を渡すことをイオに頼んで欲しいという内容。

 ネビーさんへという宛名の手紙も同封されていたので、これは明日イオに預けなければと懐にしまった。


(美人のチエさんからって、これまであったっけ?)


 私の記憶ではなくて、彼女は現在一番条件が良くて親受けも良い方と少しずつ距離を縮めていたのにこうなるとは。

 

(ネビーさんとイオさんを比べると女性関係はどう考えてもネビーさんなのに、なんで私はあの時イオさんを見つめていたんだろう……)


 恋文学を読んで理解出来なかったところが、今なら少しずつ理解出来るかもしれない。

 報われない恋や破局するしかないと分かっている恋になぜ人は身を投じるのか、これまではサッパリ分からなかった。


 別の差し出し人が書いて無い手紙の中身を読んだら、文通お申し込みだったので驚く。

 密かに慕っていた君に恋人が出来たと知って後悔しています、というような内容。

 照れを押し殺して話しかけたり、このように手紙を書けば良かったと後悔して、まだ祝言や結納前だから間に合うとこうして筆を取った……。


(私が本気でも火消しは火消しの娘以外は遊び……)


 イオと比較する為には文通したり、付き添い人を付けて軽く会ってみるべきだと思うけど、全く気が乗らない。


(今だけでも、万が一嘘でも、君だけでずっとって言われているからな……)


 罪悪感でも、ムシの良い話だからという訳でもなくて、その時間があったら私はイオと会いたい。


(これは親にも話して常識的な返事をする、と)


 最後の手紙はなぜか少し嫌な予感がして、そろそろと封を開いた。


「ああっ!」


 押し潰したような蜘蛛(くも)の死骸がいくつも紙に張り付いていて、あまりの不気味さに手紙を投げた。


「ミユ? どうし……。なんだこれ……」


 町内会の回覧板に目を通していた父が、私が投げた手紙を指でつまみ上げる。


「ミユさん、どうしました?」


 お茶を淹れると言っていた母が、居間に入ってくるところで私に近寄ってきて、父が持つ不気味な手紙を見て小さな悲鳴を上げた。


「お父さん、なんて書いてありますか?」


「何もだ。蜘蛛(くも)が大小九匹って苦しめってことか?」


「……私、そのように誰かに恨まれるような生活はしていません」


「その通りだ」


 私の目の前、机の上に置いた封筒には判子がないので、郵送ではなくて直接投函されたものだ。

 私達が最後に郵便受けの中を確認したのは、両親が仕事から帰宅した時なので、お風呂屋から帰宅するまでの時間に投函されたということになる。


「気味の悪い悪戯(いたずら)だ。町内会長さんに話して、不審者がいなかったかご近所さんに聞いてくる」


「しっかり戸締りしておきます」


 立ち上がった父は嫌そうな顔で手紙を折りたたんで封筒を持って居間を去った。

 

「ミユさん、大丈夫ですか?」


「ええ……」


 父はすぐに居間へ戻ってきた。


「シノを呼んでおく。それで俺はまずイオさんの家に行ってくる。彼に説教をしたという幼馴染は卿家の養子で地区兵官だと言うていただろう。相談してくれるかもしれない」


「そうですね、それがええです。ミユさん、ゆっくり休んでいましょう」


「はい……」


 何もする気がおきなくて、ひたすら花水木(はなみずき)を眺めて、誰? なんで? と考え続けていたら二刻が過ぎた。

 それからしばらくして父が帰宅して、昼間とは異なる着物姿のイオと、兵官の制服姿のネビーも一緒だった。

 父曰く、兄夫婦は風呂屋なのか不在だったそうだ。

 挨拶もそこそこに、両親の間に座る。

 イオとネビーは私達の正面に腰掛けた。

 ネビーは、


「小屯所へ寄ってお父上に被害届を記入してもらって、聴取を引き受けてきたので質問します」


 と私の目の前に紙と矢立てを広げた。


「お仕事中にありがとうございます。いえ、これがお仕事ですね……」


「ミユちゃん、こいつは今夜夜勤だから完全に善意」


「そうなんだ。イオさんが相談しに行ったら、わざわざ来てくれた。小屯所でどう相談したら良いか教えてくれて、付き添ってくれて、更にはこのように」


「イオ、善意ではない。一時には勤務開始なので誤差範囲です」


 深夜一時から勤務なら、まだ数時間あるし、兵官はそんなに遅い時間から出勤するのかと驚く。

 彼は友人の為だから、とは言わないようだ。


「ありがとうございます」


「そう言わないと身内や知人を贔屓(ひいき)するなとか、逆にそれなら自分も自分もと始まるので、誤差範囲でたまたまと言うて下さい」


「ただでさえ、お前は頼まれやすいからな」


「俺はよかだけど、同僚のこととか色々ありまして」


 それでは、とネビーは私に身に覚えはあるか問いかけた。

 辛くなったら親任せとか、休んでまた明日でも良いという言葉も添えて。


「いえ、ありません」


「最近誰かと揉めましたか?」


「大した事ではないですし、結構前ですが、ハ組の花組の人達に少し怒られました。堂々と会いに来た人達がこのような事をするとは思いません」


「その件なら俺が誰か把握してる。その子達の親に軽く文句を言うたから」


「そういう嫉妬心から、という事もあるのでミユさんに心当たりがない事もあるでしょう。それ関係は彼から聞き取りします。他には何もありませんか? 誰かと喧嘩した、暴言を吐かれた、袖振りした、どんな小さな事でも構いません。思い浮かぶことはありますか?」


 袖振り、という時に父と母が顔を見合わせる。


 父が、


「もう日にちがわりと経過していますが、一人お見合いを断りました。人目があるところで少し会って話した結果、その方はちょっと、と娘が言うので。私達も話を聞いたら同じ感想でした」


 と眉根を寄せる。


「調べてみるので、その方について教えて下さい」


「はい」


 父が少し話すとネビーは、


「ああ、その方ならもう誰か分かるので結構です」


 そう、小さく首を横に振った。


「イオにええ男には負けられないから長所を真似すると言われて、大きい枠では同僚なのもあって軽く調べました」


 そうなんだ。


「これからお申し込みしてくる方も捜査対象にしますので自分にでも、今日届けを出した小屯所へでも構わないので、お知らせ下さい」


「兵官の事務官さんがこんな真似するとは思えません。あとこれからの方は何か関係あるのですか?」


 母のこの問いかけに、ネビーは静かに首を横に振った。


「弱っている相手に相談に乗ると言うて近寄るのは常套手段です」


 それはつまり、自作自演ということ。心の中でしめしめと考えている相手が自分に近寄ってくると想像したら、寒気がしたきた。


「わざと弱らせたり、怯えさせて近寄ることはあるある話です」


 あるある話ってそんな話を私は全く知らないし、親も目を丸くしている。


「例えばこのイオがそういう事をする可能性もあります。ミユちゃん、安心して。俺がついているって」


「……俺も捜査対象なのかよ!」


「時間帯が大体分かっていて、イオはその時間帯に枝文をタオ君に頼んでここへ届けさせているからそうなる」


「へぇ。俺も疑われるのか」


「親だって疑う」


「なんで娘想いの親を疑うんだ」


「そういう話もあるからだ」


 次は親しい友人の名前を尋ねられて、その次は区立女学校六年間の教室名を問われ、最近の生活範囲も質問されて終わり。

 両親が私の知らない他のお見合い相手を数人、それから会わずに断った同僚を与えたので、私は今夜届いた文通御申込書をネビーへ差し出した。

 こうしてみたら、地味娘にもわりと縁談があった。


「おい、ネビー。大人数を疑っているようだけどどうやって絞るんだ?」


「あの手紙の蜘蛛(くも)の一匹は毒蜘蛛(ぐも)で少し珍しい。最近の駆除依頼と照らし合わせる。他は聞き取り時の反応とか行動確認など」


 背を凛と伸ばした真面目な表情にこの頼り甲斐のある姿を見たら、チエはますますのぼせそう。

 私はイオの、大丈夫というような優しい眼差しが嬉しくてならないと、また自分の気持ちを自覚。


「嫌がらせが悪化すると殺傷沙汰になることもある。その分尻尾を出すから様子見」


 イオと親は軽く話した様子で除外済み。

 なのでコソコソ捜査をしつつ様子見をすると言われて、防犯対策を教えられた。

 戸締りは常にしっかりすること。

 家を出る時は通りをよく見て人がいなければ一回やめる。

 人がいたら挨拶をしながら家を出る。

 帰宅時は周りを見ながら家の鍵を出して注意を怠る時間を減らし、うんと注意して家の中に入る。

 郵便受けの確認をするのは父で、私は絶対にしないように。

 何か見つけたら、どうしても身がすくむだろうけど、まずは家に入ってすぐに鍵をかけること。

 隙を見せるのが一番危ないからだ。


「それから唐辛子缶を持って、笛もすぐに吹けるところに用意しておいて、少し遠いですが花屯所へ行って防犯練習。女学校の授業であったと思いますけど再練習をしましょう」


 お持ちでないでしょうからと、唐辛子缶と笛を差し出された。

 娘を区立女学生に出来る家は、そこらの平家よりは天下にお金を回しているので、これは屯所からで無償だそうだ。

 私には元区立女学生という付加価値があり、被害に遭ったからで、誰でもいつでも貰えるものではないという。


「ありがとうございます」


「ミユさん。明日、仕事は休むから一緒に花屯所へ行きましょう」


「お母さんもありがとうございます」


 気持ち悪い手紙が来て怖いだけで、誰かに襲われないか心配しないといけないという意識はなかった。


「ものすごい心配になってきた」


「何かあってからでは遅いからうんと心配しろ。ここらはミ組や二組の領域だろうから、知り合いに頼んでおけ。この辺りで痴漢か抱きつき魔が出たとかでよかだから。自分関係って言わないで女の敵がいる、で十分だ」


「ああ、帰りに寄る」


 イオに、


「皆で気をつけるし、空き時間はなるべく来るから大丈夫」


 と優しい笑顔を投げられて、今なら彼の腕の中にすっぽりおさまりたいと感じた。


「お兄さん夫婦に頼んでしばらく同居や、義姉さんとなるべく一緒に行動もよかだと思います」


「はい。息子夫婦に相談します」


「あんまりないけど、いきなりブスッと刺されたら怖いので、刺されたら危ないところに布や本など厚いものを入れておきましょう」


「ただでさえ怯えているミユちゃんを脅すなよ!」


「怯えているくらいの方が気を引き締めて注意する。備えあれば憂いなしだ。何かあってからでは遅いんだから。むしろ最初が嫌がらせの(ふみ)だけで良かった」


 同じ治安維持を担う公務員でも、火消しと地区兵官の仕事はかなり違う。

 これまで、私はどちらにもそんなにお世話になる事はなかった。

 小屯所で被害届も、学校で習ったはずなのに、このくらいではいけないのかなと思ったくらいだし。 親でさえ、町内会長に相談して、町内会の青年部に気にかけてもらうという案を思いついただけだった。


「このくらいのことではなくて、大きなことに繋がる前だと思って警戒して下さい。似たような事で困った方がいたら、遠慮なく小屯所や屯所へ相談に来るように伝えて下さい」


「そうします。いきなり小屯所へなんて頭はなかったです。何回も続いたら相談しようと思ってしまいました」


「地区兵官は区民の小間使いなんで、共同場所のあのが木が邪魔とか、なんでもまずは相談して下さい。突っぱねられて納得いかなかったら、遠いけど屯所でも確認して下さい。それを断るなー、とか時々あるので」


「それ。助かる人もいるだろうけど変な奴に絡まれたり、粘着されたり、こき使われたりしそうだな」


「それも仕事だ。俺は昨夜の夜勤中、同僚に呼ばれるまで眠れない独り身おばあさんの話し相手でしたよ。持ち出し可能な書類仕事をしながら、おばあさんとのんびりお茶をしていました。あはは」


 ネビーは書類と矢立てをしまいながら柔らかく笑った。


「地区兵官さんってそんなこともするんですか」


「もうすぐ亡くなりそうな人の夜は寂しくて寂しくて辛いですからね。仏さんを長期放置する訳にもいきませんから、区民のことは火消しと連携して各担当小屯所が把握しています」


「そういう看取り介護関係は火消しの仕事なのに、地区兵官の手を煩わせたのはどこの組だ? お前は屯所勤務だから防所の連中か?」


「おい。何を言うているんだ。福祉班も協力関係だろう」


「あれ、お前って福祉班だっけ?」


「捜査班、見回り班、福祉班、教育総班にそれから副隊長下等凖副官だ」


「……多くね?」


 私もそう思う。きっとネビーは出世街道に乗っている人。

 だから卿家に養子として迎えられたのかと繋がる。


「俺はそこそこ期待されているんだって。前にも言うた気がするけど」


 雑談は二人でしますと、ネビーは私達に挨拶をして、この後、担当小屯所に報告をしてそのまま出勤すると会釈を残して去っていった。

 イオとの出会い、火事、怪我、そしてこの嫌がらせ手紙。

 私の静かだった世界は急に変わりすぎだ。

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