お見合い2
囲炉裏部分は板で蓋がされて、全てが机になった状態で、お寿司とお味噌汁に酒器が並べられて、食事開始。
玄関側の席は床の間側から父、母、私の順で右手側の床の間正面にイオで、その反対側にはタオ。
それで、私達の向かい側にはラオとサエが座っている。
必然的に父にお酌をするのはタオで、私はイオにお酌しようとすれば出来る位置。
食事前に父が返事用の書類をラオに渡した。
イオからの私に対する結婚お申し込み内容は以下である。
私が相愛相手になったらお嫁に迎えたい。
つまり嫁入りで、私に求める仕事は家守りと内助の功。
写師の仕事は希望があれば働く時間を作れるように善処するけど、優先は火消しの自分にしてもらいたいので、共働きではなくて片働き希望。
よって生活費は全て彼持ちで、自分達夫婦の家は彼が用意する。新居には私の両親が同居可能。
祝言契約に両者不貞不可文——罰則内容は要相談—を記載すること。
また離縁時は平家規定適応という文を記載して、離縁時に男児は彼側に残して、女児は要相談という文も記載して、その際の財産分与は分配ではなくて、自分名義の資産を自身の財産にするという決まりにする。
希望祝言日はないので長期間お申し込みを保留することを認める。
祝言、もしくは結納契約を結ばない限り、私の縁談は自由。
イオ側はお申し込みを取り下げるまで他の縁談は全て拒否して女性関係で怪しまれる行動もしない。 お見合いに関する費用は全てイオ持ちで、我が家に費用を請求しない。
私の親と同居になったら更に身が引き締まるし、監視の目が増えるから、女性関係に対する不安が減るだろうという提案。
生活費が彼持ちだと、私の親が稼いだ分は丸々両親の財産になるので、女性関係でふらふらして腹を立てたら娘と共に家から出て行けるし、その後の生活費にも余裕を持てる。
水組関係の付き合いは母親や義姉がしっかり支援するけど、慣れない世界は負担が強いので、自分の母親と一つ屋根の下で暮らせると人間関係で息抜き出来る。
夫婦円満で、私の両親ともそうなら、イオが最後で面倒を見る。
私の兄嫁が一人っ子で、義両親と同居よりも自分の親と同居を望んでいると調べたから是非らしい。
イオには兄と弟がいて、火消しは組で大家族だから、その辺りは他の家より助け合い精神が強くて楽だし、彼を柱にして私が嫁入りでこちらの親と同居だと、私の親も火消しの仲間という認識になるそうだ。
ハ組関係でも水組関係でも写師にしてもらいたい仕事は色々あって、裏方はわりと避けらているからかなり狙い目。
火消しの嫁仕事、親戚付き合いは幅広いので得意分野がある人なら、こちらの想像よりも大変ではないですという提示である。
このように、私は格上から我が家有利な条件を提示されて、更に祝言関係の費用も全部イオ持ちだと提示されている。
最初からイオがここまで考えていたのかは謎で、両親は「突っぱねて釣ってみたら予想外の好条件が出てきて怖い」と言っていた。
あと、多少欠点があっても性格良しでこの条件で不幸になる確率は低いから、彼に決めて祝言しなさいと迫られている。
「息子のことは息子に決めさせるので書類は息子に渡します」
「はい」
「イオ、お申し込みに対する最初の返事だ」
「はい。失礼します」
書類を受け取ったイオはすぐに目を通し始めた。
「特に話していませんでしたが、俺は父親として息子の伴侶に望むことは特にありません」
私は直接教わった話だけど、両親は知らない話なので後で伝えよう。
「私にはあります。火消しの嫁は強くあって欲しいので受身だったり依存的なのはちょっと。今回の話では問題なさそうなので、後はそちらのご両親や本人達次第だと思ってます。話がまとまると嬉しい——……」
「ちょっ、ちょっとこれはなんですか⁈」
イオがそこそこ大きい声を出して、サエの言葉を遮った。
「イオさん。今日の返事関係はなるべく娘に任せますので娘がお答えします」
父の言う通りイオに渡った書類の内容を考えたのはほとんど私で、私は自分で話をしたいと親に伝えてある。
「ミユちゃん。ミユさん。ミユちゃん。これ、本気?」
「修正提案や要望がなくて不服なら、お見合いは本日の一回目で終わりにします」
私達のお見合いはもっと前に始まっているけど、一般的なのは今日が最初だと思う。
イオは文通お申し込みをすっ飛ばして、親に簡易お見合いの打診もすっ飛ばし、親にも私にも直接話を持ってきて、両家の親とぐちゃぐちゃな順序で情報提供会を行った。
その後、結婚お申し込み書類を揃えて、わりと正式なお申し込みをして今日である。
世の中には色々な縁談があるし、私達は下流庶民と特殊庶民で平家同士だから、余計になんでもありだ。
「か、確認。確認するから答えて欲しいです」
「はい」
「まずこれ。半恋人になります。これ、本気?」
「病院でもそう伝えました。嫌ならこの話は無しにします」
「ぎ、逆だから! なんで、なんでいきなりこうなったの⁈」
「ご自分の胸に聞いて下さい」
こんなに人がいる場で貴方に恋をしたと思うからです、なんて口が裂けても言わない。
ほんのり淡い恋みたいな気持ちを抱いたことはあるけど、全て自己完結で終了させたものだった。
今回は飛び込んでみたい、行動したいと思える程の気持ちなので、これが私の初恋かもしれない。
「なんだ。半ってところが分からないけど恋人になりますだから幸先良しってことか。それなら安心して寿司も酒もいただこう。二人は話しを続けるとええ。それでは皆さん、いただきます」
ラオの挨拶で「いただきます」と挨拶をしてその後に「この縁が続いて結ばれますように」という言葉を言われて乾杯。
私は元服の宴席時にしかお酒を飲んだことがないけど、今日は飲んでみることにする。
酒を嗜んでいない若い女の子は梅酒だ、とサエが漬けた梅酒の水割りを用意してもらっているのでそれを口に含む。
喉がカァッとなるけど、梅甘水と似たようなもので甘くて美味しい。
「兄貴、半恋人の半ってどういう意味? 結婚お申し込みをしたのなら次はいつ会いますとか、この条件では嫌ですとか、こちらの条件はこうですって話しじゃないのか?」
「イオ、任せるけど内容は俺もサエさんも知りたいから簡単でええから話してくれ。もちろん後でそれを読むけど」
タオのこの問いかけにイオは私を見て、タオを見て、また私を見て口元を左手で軽く隠した。
「その、俺のお申し込みに対して、一先ず半恋人になるという返事を致しますって。一、半という意味は半結納の半ではなくて半分という意味です。文通、書類検討、親とお見合い席、付き添い付きお出掛けを同じ人と三回目までは本人ミユの意志があれば行います」
読み上げるんだ。
「理由は百人とお見合いをしたら良い、それで選ばれると申されたからです」
「勝ち抜け勝ち抜け。サエさん、たまごも忘れずに乗せてくれ」
「はい」
ラオは寿司を自分で取らないんだなと眺める。
お皿を渡すことすらしないでお酒を飲んでいる。
「ちょっと待った。ミユちゃん、何を食べたい? タオ。季節物と高そうな物はミユちゃんのものだから。お前は安い巻物を食え。そのかっぱ巻きを食べてろ」
イオは書類を脇に置いて私のお皿を持ってそう発言した。
ラオとは違って亭主関白願望はないのだろうか。
「親父が買った寿司なんだから指図するな」
「これは俺が買ったんだ」
「私はイオさんからの質問が終わって、お見合い話も終了した後にいただきます。タオさん、私にエビを残しておいて欲しいです」
「……はい」
タオはぶすくれ顔で私と目を合わせないで俯いてしまった。彼もエビ好きだったようだ。
「ミユちゃんがそう言うなら続きで、次は同じ条件でも構わないと書いてあるけど俺は他の縁談というか、ミユちゃんにしか興味がないから他のお見合いはしない」
「分かりました。では行間にそちらは半結納と記載して判子をお願いします」
「おお。そういう風にするんだ。それで一、イオ氏との文通、お出掛け規制は特になく、接触は手のみ使用可能で範囲は立位時に着物で隠れない場所まで。ここ。これ。これ何⁈ 俺はここに動揺してその先に進んでない!」
「げ、げほげほっ! ごほっ!」
タオが咳き込んで「なんだタオ、飲め」とラオが彼に湯呑みを差し出した。
私も「タオさん、大丈夫ですか?」と問いかけたけど、彼は私に返事をしてくれなかった。
「半分恋人ですので、そのくらいが半分の範囲だと思いました。イオさんの老若男女との触れ合いを見て、そのくらいは女性への意味深な行為ではないと考えたからです」
「ああ、そういうこと。文通、お出掛け規制無しって何?」
「親を通さずに、やぁミユちゃんと現れても、私が嫌がらなければ親に許可を得ずに、その場でサッと散歩へ行ける、みたいなことです」
「……嘘! そうなの⁈」
「コホン。そこは遠出など場所によっては事前報告や挨拶をしていただけると印象がさらに良くなります」と父が補足。
「続きに記載してありますが、強姦、半強姦で困るのはそちらです。私が嘘で難癖をつけたとして社会的信用があるのは私で、イオさんは日頃の行いからして圧倒的に不利です。よって私は自分は安全だと考えます。人目のある場所でしか会いませんので、付き添いは要りません」
それぞれが何を思ったのか分からないけど、室内が少々静かになった。
「強姦魔は死罪で、強姦とは行為ではなくて女性を心底怯えさせたらもうそうだと思います。無理矢理口付けとか。しっかり育てましたし、万が一があったら切腹させるので安心して下さい」
「女の敵は火消しの敵です」
サエ、ラオは順番にそう告げた。
「イオさんは我が家からしたら条件的には格上になりますので、托卵の不安があるでしょう。不利側のイオさんが必要だと判断したらお母上や親戚女性など、知り合いわ付き添い人としてつけて下さい」
「たくらん? たくあんの仲間ではないだろうけど何?」
「他の男性との子を、貴方の子として産むということです」
「えっ。それってどう分かるの? その前に俺とヤることヤらないと出来ないけど⁈」
こういう話は恥ずかしいからあまりしたくないけど説明は大事。ただ、言葉は選んで欲しい。
「破廉恥です。言葉は選んで下さい。横道に逸れてふしだらになった私が困って慌てて貴方と一、二回ということがあるかもしれませんよ? という話です。托卵からどうかは龍神王様のみが知りますが確率論です」
「全然そういう考えはなかったけど世の中にはいるか」
「息子を持った際に格差婚時は注意しましょうと学校で習いました。世の中には子どもが出来た事を盾に玉の輿を狙う家や女性もいます、と」
「へえ。女学校ってそういう事も教わるんだ。俺の心配、不利を書いてくれたってこと?」
「付き添いなしなんてなぜか、このような心配があると指摘されるかもしれないので先回りして記載しただけです」
「ミユちゃん相手だとこんなこと頭から抜けていたけど、嫌だからヤバそうな女は避けてきた。逆もいるからなぁ。……なのに俺は見張られないの⁈ あっ。説明されたか」
「前向きそうな気配だから酒が美味い。サエさん、熱燗にしてくれ」
「はい」
やはりラオは亭主関白みたい。サエはお寿司はラオに取りに行かせたから、不満がないことだとお世話するのだろうか。
「タオ、行ってきて」
「ええー」
「もう元服しているんだから、嫌なら家から追い出すわよ」
サエのこの一言でタオは居間から去った。
やはり彼女は何でもかんでも夫の世話をする訳ではないみたい。
「これってさ。つまり、ミユちゃんが拒否しないところへなら二人で出掛けてくれるってこと?」
「トト川沿いには季節の花がありそうですし、暑くなってきたので足を冷やすのは楽しい気がします。あと、私はみたらしを好んでいます。海は気候が良い時が良いです」
「行く。全部行く。うわぁ……あー。夢? なんでこうなったの⁈」
イオが素っ頓狂な声を上げた。
「信用ゼロなので積み重ねていただくなら出掛けないと分かりません。これまでの交流と提案や条件や資料で、信用を積んでもらおうと思いました」
「崖っぷちの首の皮一枚残しからとんでもないことになった。えーっと、続きは……。ああ、これは母ちゃんよろしく。独特な世界そうで許容出来るか知るために想定される水組仕事をしたいです、だって」
「結納するかしないか考える判断材料が欲しいです。結納したらほぼ祝言と思っています。その結納をもって半分の半がとれて恋人です。それが私が共に学んだ女学校の同級生達の常識でした。恋人は結納相手。イオさんは恋人は結婚を考える方と言うていたので、それと同じだと思います」
「口で言うよりも遊びに来てもらって混ざる方が色々分かります。頭ごなしに嫌ですとか、きっと無理ではなくてまずは体験って私は好きよ、そういう人。ミユさんに加点!」
サエは楽しそうに肩を揺らした。
加点って今何点で何点増えて最終目標は何点なのだろう。あと減点もされるのだろうか。
常にこの嫁は、と採点されたら嫌だな。
「加点って満点に足してどうするんだよ。何かあったら減らすのか? 母ちゃんが減らしても俺はミユちゃんの味方だからな。ミユちゃんが余程ならあれだけど」
「ええ。嫁の味方をしない夫はクズだからそうしなさい」
サエは白い目でラオを見たので何かあるのかな、と邪推してしまう。
そういえば祖母がいるはずなのにこの場にいないのは何故だろう。
「気がつくのが遅くなりましたが祖母君はどちらですか?」
父の問いかけにラオが「母は恋人と暮らしていて別居中です」と静かに告げた。
何才か知らないけど祖母なのに恋人がいて、しかもその人のところって聞いたことがない話。
「えーっと、俺の条件は今のところ全て飲むので、結納すると決まったら話し合いをして、結納及び祝言契約書を作成します」
「全て飲んでもらえるとは良かったな」
息子に任せているらしいけど、ラオは出費が全て自分達側になるのに賛成なのだろうか。
イオは親に自分が作った書類を見せているはずだけど。
「ミユちゃんの縁談優先事項は現在の生活と同水準以上を保てること。真心のある相手であること。死別を除き銀婚式を迎えたいという意志を持って話し合い、歩み寄れる相手。それに伴い不貞を行わない者。かわゆい」
かわゆい、かわゆくないという話ではない事なのに唐突に褒められた!
「俺は後半二項目が不安なので半結納はしな……ちょっと待て! 俺、ミユちゃんに真心があるって思われたの⁈」
むしろ無いと思う人がいたらどうかしていると思う。
いや、聞いただけの話だけど一部の女性の扱い方は悪い。おまけに、お酒のせいにしているから若干真心がないと思う。
「はい」
「ちょっ、まあ、後で。なぜこうなったのか含めてそれは後で二人の時に聞く。人が行き交う通り沿いの家の前で二人で話すのはありってことだよね?」
「ええ」
「ちなみに俺の部屋で二人は?」
「難癖で切腹させられる心配がなければどうぞ」
「難癖をつけられる心配なんてない。あの。お父さん、お母さん、ええんですか?」
「君が娘をわざと泣かせるような事をする想像が出来ないのでどうぞ」
「ええ。女性に困らない方がわざわざ逮捕されて死刑みたいな道は選ばないかと。何かあって訴えなければ娘が許したということなので縁結び。それはおめでたいことです」
絶対浮気しません、絶対に幸せにしますと誓っても真逆になる相手はいるから、この上げ膳据え膳の条件なら試しに祝言してみなさいと言われている。
イオへの信用の担保は病院での私を含む患者達への行い、振る舞い、それからあのネビーだそうだ。 兄とのやり取りだけだった場合、母は破談にする気だったという。
あの開き直って相手に口喧嘩をふっかけたのは態度が悪くて聞く耳を持たなそうだし、口が回るというのも妻は苦労しそうだから。
しかし、攻め方を変えたらイオは真摯に受け止めて反省して行動も起こした。
黙り込まない同じく口が回る私なら大丈夫と判断して、親として門前払いはやめた。
「まぁ、その前に二人で結納宣言のはずだけどな。親しくなって反対する気はないので構いません」
「それは……。ありがとうございます」
イオは父、母、私、書類、私と見て、また書類に視線を落とした。
「不貞の定義は伴侶が不快だと思う交遊関係全てなので両者先に提示して話し合って決定。一ヶ月ごとに変更可能。ミユちゃん、欄と押印ってあるから今日決めるってこと?」
「後日でも構いません」
「書いてないけどミユちゃんは?」
「余所見と誤解される行動全て。私の耳に恋人を変えた、と届いたらほぼ破談です。ですので誤解を招くような、女性が居る場所での禁酒を要求します。ただ、事前連絡も報告も要りません」
「俺をそんなに縛りたいってこと⁈」
「他の方へも同じような要求をします。禁酒はともかく。イオさんの場合はご自分でお酒のせいにすると言っていましたので」
「なんだ残念。ほぼ破談のほぼって何?」
残念って何が?
「恋人が三人いるという誤情報を掴みましたので聞く耳は持ちますという意味です」
「ほうほう。事前連絡も報告も要らないって何?」
「何も知らずに後から何かあったと聞いたら気分が悪いですし、予定があると聞いていた結果、約束違反も気分が悪いです。逆は好感を抱くでしょう。私は信用があるかないかを知りたいだけで、イオさんを縛りたいのではありません」
「あー……。自分で考えて行動を選んで結果を示せってこと。そりゃあそうだ。俺でも他でも、信用出来る男ならどっちでもええんだから」
「その通りです」
相手を四六時中監視なんて出来ないし、私はそんな事をしたくない。
「俺が考える浮気……。ミユちゃんは別に俺に惚れていないから浮気もなにもない。男と居ても浮気とは違うから……無し。今日のところは無し。ミユちゃんは何をしてもええ。双方、内容変更は一ヶ月ごとに検討って書いてあるからそうする」
私は自分の気持ちを少し散りばめているけど、彼は「ミユちゃんは自分に惚れてない」という認識なんだな。
「分かりました」
「片方から契約破棄要請書が提出されるまで無期限契約とする。無期限?」
「祝言したくないけど他によりええ方も居ない場合ばずっと保険として残します。イオさんを基準にしたい、最有力候補者にしていたい間は継続します。そちらは成果がないとか飽きたり嫌になったらこの契約を破棄して下さい」
「おお。信用を積み上げたり口説き落とさないと祝言に至らない、と。でも俺が一番星状態って……そうなの⁈」
一番星、という単語が出たので私は今日一番言いたかったことを口にした。
「一番星って二番や三番がいるってことですか? そのような方なら破談にします。私はどなたかと北極星になりたいです。半がついても、病院で言った人なのでこちらの品をどうぞ」
悩んでお店を回って厄除け来幸の青鬼灯を模した根付けは二連星っぽいと思って買ったので、それをイオに手紙と共に差し出した。
手紙はイオが手が良くなったらお礼の手紙が欲しいと望んだので、その封筒と紙に書いたもの。
「北極星? 北極星って……なんかどこかで聞いたな。それは置いておいて、二番や三番もその後もいない。一番星だとそう言われるなら……唯一星! それ!」
突然の謎のかわゆい発言もそうだし、家族の前だろうがなんだろうがおかまいなしなんだな、と照れて俯く。
根付けと手紙の両方を受け取る時のイオは、とても丁寧な動作でそっと大事そうに持っていってくれた。
「……。読んでええ?」
「どうぞ」
【ふわが名はまだき立ちにけり、とは現にあることなのだと思いました。黒髪に白髪交じり老ゆるまで、とは口にしたくなく。ながからむ心も知らず黒髪のとは言いたし。貴方の噂により、ますます忘れじのゆく末まではかたければ、と思いますが返答の贈り物に祈りを込めて。厄を避けて幸が来る青鬼灯の根付けは北極星、そしてすずらんのようだと選びました】
他にもあれこれ書いたけどこういうことを書いた手紙をイオが解読するのに何日掛かるだろう。
しかも、私はこの自分の気持ちあたりはわざと崩して読みにくくして書いた。
「……。分からないところが沢山ある」
「わざとです。伴侶は話が合う方が良いので、私に歩み寄ってくれるのなら多少文学や龍歌の勉強をして欲しいです」
「あのさ」
「はい」
「とりあえず二人で少し話せる? それともお腹減ってる?」
「先に話しで大丈夫です」
なにせ緊張で胸がいっぱいで食欲がない。
「イオ、庭にしたら? あんたの部屋は臭いしごちゃごちゃじゃない」
「臭わないし片付けているからやめろ! でもまあ、庭にする。コホン。狭いけど庭があるからお願いします」
「はい」
さらに緊張してきた!




