12→1(?)
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
人工呼吸器を取り付けられた夫の姿を見るのは、これでもう三度目だった。
医者が手を尽くしても、原因は分からず。目立った外傷もなく、脳に障害があるようにも思えないという。そんな説明を受けるのも、やはりこれで三度目だった。
朝になって玄関を開けたところで、夫が倒れているのを発見したのは、つい数時間前のことだ。病院を脱走した時と同じく、病院服を着たまま、なぜか結婚記念日に買ってあげたコートを身に付けていた。そんな姿を見るのも、やっぱり三度目。
ポケットをまさぐったところで、かちかちに固くなったカイロと、生暖かい蛇の抜け殻が出てきたのも、やはり三度目だった。
一体、夫の身に何が起こっているのか。何も分からなかった。そんな自分がひどく腹立たしかった。
普通の考えでは説明のつかない現象が、夫の身を蝕んでいるのは確かなのに、警察も病院も、そしてこの私自身も、どうしてよいか分からなかった。
力になってあげたいのに、無力感だけが湧いてくる。夫に目覚めて欲しいと願っている一方で、このまま目を覚まさないで欲しいと思う自分がいる。
目が覚めたら、私のいない隙に、どこかへ去ってしまうんじゃないか。
そんな予感がして仕方なかった。何もかもが八方塞がりだった。
そして、入院してからしばらく経過したある日。病院から火急の連絡があった。
回診の時間になって病室へ向かったところ、夫が忽然と姿を消したのだという。
病院からの脱走。その連絡を受けるのは、これで四度目だった。
またか、という呆れと、またなの? という不可解なざわめき。
私は急ぎ携帯を手にし、夫の番号に連絡をかけた。
『はい、もしもし?』
いつもと変わない調子。いつもの元気そうな彼の声。
ここで私がなんと尋ねるべきかで、結果が変わってくるかもしれない。
やけにそんな予感があった。
それでも、夫の身を案じる想いが先行した結果、私はこれまでと同じような言葉を、同じような調子で、ぶつけるしかなかった。
「一成さん! 今どこにいるの!?」
これにておしまい。
どーでもいーですが、一度でいいからくねくねを見てみたいもんですね。もちろん遠くからね。




