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17.俺と幼馴染の、おかしな関係

 イケ……渡来先輩に恋する女性・ヨナ先輩に会った翌日、俺は来たる放課後の一戦を今から思い描きながら、普段通りの朝を過ごしていた。

 一晩たったら、また渡来先輩の名前を忘れそうになってたな……危なかった。


『ヨナ先輩が、渡来先輩に告白して下さい』


 ハレさんがヨナ先輩に提示した、あまりに意外な問題解決の方法。それはヨナ先輩が、双葉と付き合っているはずの渡来先輩に告白するというものだった。

 確かに双葉と渡来先輩の恋人関係は不自然な点が多いが、だからといって横恋慕を表沙汰にするというのは、いかがなものだろうか。

 最初にハレさんの言葉を聞いた時はそう思ったものの、続けて彼女の口から語られた内容を聞くと、そうするのが正解だろうと意見を変えざるを得なかった。

 しかし今になっても、「まさか」と思う気持ちがある。


「なあ、母さん。俺と双葉ってさ……」


 俺と双葉の関係について、朝食の席で母さんに意見を聞こうと思ったが、いざとなると上手く言葉に出来ないでいた。


「双葉ちゃん? あの子がどうかしたの?」

「あ、いや……何て言ったらいいのかな」

「もしかして、彼女に何か言われたの? 双葉ちゃんとのことで」

「うっ……俺、そんなに分かりやすい顔してた……?」


 いきなり図星を突かれて、思わず唸り声を上げてしまった。

 そんな俺を見て、母さんは苦笑しながら言った。


「まあ、これでも母親だからね。それに双葉ちゃん以外の子と付き合うなら、遅かれ早かれ問題は起きてただろうし」

「そこまでだったか、俺と双葉って……」

「そこまでよ、アンタたちの関係は。まあ、双葉ちゃんと付き合ってたら、大して問題にはならなかっただろうけどね」


 だが実際は俺と双葉は付き合わず、それぞれ別の恋人が出来た。

 だからこうして、今になって俺と双葉の在り方が問題になっている。


 果たして今日の放課後を迎えた後、俺たちの関係はどう変わるのだろうか?


「はよー。兄ちゃん、今日は早いね……」


 少しばかりシリアスな気分に浸っていると、それをぶち壊すかのように寝ぼけた様子の菜乃香が、リビングに姿を見せた。

 ちなみに父さんは、いつも通り出勤済みである。本当にお疲れ様です。


「おはよう、菜乃香……って、ボタン締まってないじゃないか。ちゃんと締めなさい」

「へ? えーっと、あ、あああー!? やだもう! 見ないでよ、兄ちゃん!」


 今日の菜乃香は、制服の上が中途半端にしかボタンを留められていなくて、よく日焼けした胸元やブラがガッツリと見えているような有り様だった。

 俺としてはいつも通り、だらしない格好をしている妹を嗜めたつもりだったんだが、何故か菜乃香はいつもと違って大袈裟に恥ずかしがっている。


「お、おお? 何だよ、いつもならそんなに恥ずかしがらないだろ」

「だ、だって今日のはわざとじゃ……な、何でもないし!」


 え、なんか今の発言を聞くと、菜乃香がたまにだらしない格好をしてるのは、わざとやってるみたいな解釈が出来るんだけど……。

 うーん、菜乃香は凄く恥ずかしがってるし、兄としてここは見て見ぬ振りをしてやるのも優しさだろうか。


 菜乃香がやって来たこともあって、母さんと双葉との関係について話すのもそこそこに、朝の時間は過ぎていった。


 そして家を出た後――。



「ん……今日も朝から、ごちそうさま♪」

「はは、何度やっても慣れないね、学校でするのは」


 いつも通り双葉と連れ立って登校した俺は、これまたいつも通りになりつつあるハレさんとの逢引きを堪能していた。

 朝の挨拶を和やかに済ませた直後、俺の手を引いて人気のない場所に連れ込んだハレさんは、すぐさま唇を重ねてくる。

 昨日のデートでの一件で、少しはハレさんの大胆な行動も落ち着くかと思っていたけど、彼女が望んでやっていた部分もあるというのは本当だったらしい。


「ん? まだ慣れてないの? 京太郎くん」

「え? ああ、そうだね」

「ふーん……練習不足かな。もうちょっとすれば慣れるかも?」

「え、いやちょっと、ハレさん?」


 抵抗むなしく……いや、ぶっちゃけ言うほど抵抗なんてしてないけど。再び唇を奪われてしまった俺は、ただただ魔性の妖花に身も心も蹂躙されてしまう。

 デートのアレで逆に開き直ったのか、今日のハレさんは時々舌で俺の唇をノックしてくるという、ヤバすぎる技を会得していた。

 本能に従って受け入れてしまいたいのは山々なんだけど、俺の方も口を開いてしまったが最後、行くところまで行ってしまいそうな期待……じゃなくて予感がして仕方がない。「ムダな抵抗しちゃって」という感じでチロチロと唇を舐められるのも、それはそれでヤバいんだけど。


「ちょ、ハ、ハレさん。流石にそろそろ教室に戻らないと……」

「ん……そっか。うーん、また京太郎くんを落とせなかったなぁ」

「いや、焦らなくても大丈夫って言ったでしょ……?」


 俺がそう言うと、ハレさんは悪戯っぽさと妖艶さが同居したような顔で、クスリと笑う。高校二年生がしていい顔じゃないな……。


「それとこれとは、話が別♪」


 ……もう何で自分が我慢しているのか、よく分からなくなってきた。




「キョータローとほのか、最近すぐどっか行っちゃうよねー」

「んんっ?」


 時は過ぎて昼休み、最近は定番となった双葉とハレさんとの昼食である。

 購買で買った甘ったるいパンを頬張りながら、双葉がそんなことを聞いてきた。


 ちなみにさっき変な声を上げたのは、俺の方だ。こういう時はハレさんが変な声で大袈裟な反応をするのが定番だったはずなのに、昨日からハレさんは妙に強くなったというか、こういう方面に対してかなり余裕が見られるようになっていた。


「今朝も教室に着いたと思ったら、いつの間にか二人ともいなくなってたし。いつもどこ行ってるの?」

「い、いや、どこっていうか……」


 い、言いづらい……。双葉がいずれ気にするのは想定していたけど、いざ聞かれた時にどう答えるのかなんて全く考えてなかった。

 まさかバカ正直に「人気のないところでハレさんとチュッチュしてるぜ」なんて言えるわけもない。そんなもん相手が双葉じゃなくても言えないだろ。

 一体、何て言って誤魔化せばいいのか……。


「あー……えっとな……」

「恋人同士だから、やっぱり二人きりになりたい時もあるんだよ」


 俺が焦っていると、横で弁当を食べていたハレさんがしれっと答えた。

 その表情は特に焦っているわけでもなく、声音も含めて実に冷静である。


「えー、ずるーい。私だけ仲間はずれにしなくたっていーじゃん」

「ふふ。双葉ちゃんも、彼氏さんと仲良くすればいいのに」


 マジで昨日から、ハレさんの強キャラ感が半端ない。

 挑発と取れないこともないセリフに、俺の方が冷や汗をかきそうだ。

 しかし双葉は、そんなハレさんに対して気を悪くしているようには見えない。


「んー……キョータローは幼馴染で、ほのかは友達だし。先輩とはまた別で仲良くしたいってゆーか。先輩と仲良くするのが嫌ってわけじゃないんだけど」

「……そういうもんなのかね」


 元々、双葉の先輩に対する態度は彼女としてどうなのかと思っていたけど、ハレさんが予想して聞かせてくれた双葉の真意を前提に考えると、こっちはこっちで冷や汗ものである。

 結局、俺が一度弁当を作った時以来、先輩と昼を共にしたこともないみたいだし、放課後だって先輩が部活というのもあって一緒に過ごしていないからな。


 今日の放課後にはヨナ先輩が動くとはいえ、幼馴染として俺が責任をもって諭すべきなのかとも思うが、ハレさん曰くヨナ先輩に任せるのが一番いいらしい。

 あと「双葉ちゃんに厳しいこと言ったりするのは、京太郎くんには期待してないから」とも言われた。情けない話だが、実際にそうなんだろうなと思う。

 俺は双葉との関係が変わる時を、ただ座して待つしかないのだ。



 ――そして、数時間後。


 俺とハレさんは、学校の屋上にいた。

 時は放課後。奇しくも渡来先輩が、双葉に愛の告白をしたタイミングである。


 これからヨナ先輩が渡来先輩をここに呼び出して、告白することになっている。

 俺たちが何故そんな場所にいるのかというと、ヨナ先輩に同席を頼まれたのだ。

 流石に正式な同席ではなく、物陰から様子を見ているという話だが。


 本来、そんな出歯亀のような真似はごめん被りたいのだが、ヨナ先輩曰く告白をしようと決めたものの直前で怖気づきそうなので、逃げ道を塞いでほしいらしい。

 二年以上も秘めていた恋心を、それも彼女持ちの相手に伝えるのはたしかに怖いだろうが、それにしても強気な見た目に反して初心なのだな、と思う。


「そんなに心配しなくても、大丈夫だと思うよ?」

「いや、でもヨナ先輩って、ちょっと不安なとこあるし」

「そんなの聞いたら、先輩が怒るよ」


 俺とハレさんは物陰に隠れて、渡来先輩の到着を待っていた。

 正確には、屋上の出入り口がある塔屋の裏手である。


 ヨナ先輩は扉の真正面に立ち、いつ想い人が来てもいいように構えている。

 堂々とした立ち姿と凛々しい顔付きで、まるで挑戦者を待つ王者のような風格を漂わせているが、おそらくその内心は緊張でいっぱいだろう。

 俺たちとは昨日会ったばかりだというのに、驚くほどに分かりやすい人だ。


「……来たか」


 そんなことを考えていると、扉が開く音が聞こえてきた。

 慌ててハレさんと塔屋裏に身を潜め、顔だけを少し出して様子を窺う。


「え? あれ、双葉もいない?」

「……ほんとだ。ヨナ先輩が呼んだのかな」


 渡来先輩だけ呼んだと思っていたのだが、まさか彼女まで呼び出すとは。

 意外に小心な人かと思いきや、ここ一番での思い切りは凄いのかもしれない。

 俺たちにとっては意外な展開だが、ヨナ先輩はやはり自分で呼んだのか織り込み済みだったようで、そのまま慌てることなく会話をしているようだ。


 幸い距離があるので、俺とハレさんが小声で話しても、三人には聞こえない。

 しかし同様に向こうの声も聞こえないので、話の流れがまったく分からない。

 人の告白を盗み聞きしたいわけではないが、何も聞こえないのも微妙だ。

 そう思っていると――。



「私は、ちゃんとアンタのこと好きだから! アンタを幸せにしてあげるから! だからその子と別れて、私と付き合って!」



 ――あまりにも力強いヨナ先輩の寝取り宣言が、屋上に響き渡った。

本編最終回前に箸休め的な回を追加しました。

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― 新着の感想 ―
女の子強いなー。 ハレさんは言わずもがなだし、ヨナ先輩も京太郎に浮気してるか聴きに行くに留まらず寝取り宣言かます度胸だし。 男の子は存分に振り回されて強くなるんやで…
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