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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第五章 守衛団
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第九十話……未来を変えるために2

 日倉は座っていた空の手を取り彼を立たせ、「空さん、頭を撫でてくださいぃ」そう言って皐月は空と再会した時のように戸惑う彼の手を自分の頭に置いた。それからギュッと甘えるように抱きついた。


「えっ、ああ、頭を? 撫でればいいのか?」


 空は言われたまま彼女の頭を撫でた。抱きつかれ空は妙にドキドキしながら、彼女小さな頭を撫でた。すると、日倉は猫のように目を細め、満足気に空の胸に顔をこすりつけてから体を離した。


「……? 日倉?」


 フッと日倉の雰囲気が変わる。顔つきも立ち方も、まるで別人だ。空は彼女に初めて出会った。日倉如月だ。

 如月は、凛とした流麗な瞳で改めて空の事を見上げた。その瞳に空はまたドキリとした。


「……君は?」


「次は私の番だ、空……」


「……?」


 如月の言葉に空はわけがわからずそのまま立ち尽くす。


「おい……」


「えっ?」


「皐月の頭を撫でたでしょう? 私も撫でなさいよ」


 怒ったようにように睨む如月に、空は慌てて彼女の頭を撫でた。

 今会ったばかりの女の子に怒られて、頭を撫でさせられる?

 空は不思議な気持ちで頭を撫でながら、自分に周囲の目を集まっている事が気になった。


「あの……」


「皐月の時は抱きしめていたわ」


「えっ、いや、でもあれは……」


 空が抱きしめていたわけではなく、皐月が抱きついていたのである。空は彼女の頭を撫ではしたが、腕はまわしていない。

 周囲にいる隊員達や佐藤、奥山がニヤニヤとした顔と、初めてあった如月に睨むような視線を向けられ、空は逃げ場を失ったように戸惑いながら彼女に腕を伸ばそうとした瞬間「それぐらいにしておいたら?」と冴木の声がして慌てて手を引っ込めた。

 如月が冴木を恨めしそうに睨む。


「……もう少しだったのに」


「そういう問題?」


「やれやれ、おもしろいものを見られそうだったに、残念だな」


 そう言って立ち上がった佐藤は空の肩にポンッと手を置くと「もう少しだったな」と言って笑ってみせた。

 空は複雑な表情をしながら、どう答えたらいいのかわからず首を傾げた。


「君は、如月だな?」


「ええ。どうも騒がしくなったみたい。大高って人が大勢の人間を動かしたみたいなの」


「さすがだな。で、俺達はどうすればいい? 女神はどう俺達を導いてくれるんだ?」


 空はあまりにテキパキとした如月の対応に言葉を失う。皐月のイメージの強い分、違和感に頭が混乱してくる。しかも、佐藤と話している彼女の雰囲気はどこか人を寄せ付けないような冷ややかな印象もあった。


「私と一緒にその本隊を横から叩きにいく」


「ほう?」


「本隊をって……」


 奥山が言いかけた言葉を佐藤は手で遮り、それから少し考えてからニヤリと笑った。


「おもしろい。その話、乗ろうか」


「……ありがとう」


「ちょっと待って、日倉、いくら何でも……」


 いくら何でも無茶な作戦だ。それに、佐藤達からすれば、それは同じ守衛団と交戦する事になるのだ。


「子供が大人の心配なんてするもんじゃない。とはいえ、その大人の尻拭いを君らにしてもらわねばならないのだから、言えた義理じゃないがな」


 戸惑う空に日倉は目を向ける。


「ここで手を打っていかないと、誰も第六研究所にたどり着けない。空はこのまま第六研究所に向かって」


「……でも……」


「向うで会いましょう」


 そう言って、彼女は空に顔を近づけると、彼にしか聞こえないように「そしたら、さっきの続きをしましょうね」と囁き、奥にいた冴木に婉然と微笑んでから空から離れた。


「風見君、君らもこれから先武器がいるだろう。これを持っていくといい」


 佐藤は自分の装備品である銃を差し出した。

 守衛団の基本装備品とは違ったモデルである。それは実験体捕獲作戦の出撃前に関口より支給されたものだった。


「扱いはわかるか?」


「いえ、使った事は……」


「そうか、簡単なレクチャーだけしておこう」


 隊員達に出発の準備をさせている間、佐藤は手慣れた手つきで空に銃の取り扱いの説明をした。冴木は嫌がったが、空と冴木に一丁づつ手渡し。念ためにと、空達の車に燃料を分け、慌ただしく彼らは出発したのであった。

 日倉達を見送ったあと、急いで空達もその場から出発した。


「ねえ、風見君……?」


「うん?」


「さっき、日倉に……いえ、何でもないわ」


「……」


 助手席から冷ややかな視線を受けつつ、車内には荒れた路面をタイヤが噛む走行音をBGMにして沈黙が流れた。 

 後部座席を見るとサヤとユキが丸くなって眠っていた。

 


「如月、一つ聞いていいか?」


 佐藤は道案内をするために助手席に乗った日倉に話しかけた。


「ええ」


「俺達の部隊で本隊とやりあう。この数じゃあ、やりあって勝てるとは思えない」


 車は土煙を上げ、夜闇の明ける空のもと走りゆく。


「俺達は生き残れるのか?」


 普通に考えれば、これからの戦いに勝因はない。いつもの佐藤ならこんな戦いには真っ先に反対するだろう。


「恐いの?」


「いや」


 真っ先に反対するだろう。戦いに意味がなければ。しかし、空や冴木、サヤ、ユキと出会い、日倉の能力を実感し、生物兵器の話を聞いた今なら、その戦いに意味がある。例え、そこが死に場所であったとしても。


「結果はわからないわ」


「……?」


「だって、運命は変わるもの。少なくとも、私はそう信じている。今はね」


「なるほど……おもしろい」


 佐藤は大声を上げて笑った。


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