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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第三章 白い巨人
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第六三話……合流2

「三人で一体を道連れにした?」


 戦禍のあとの電車内を畑中が足を進める。

 すでにナイツの調査チームが入り、車内各所で何やら採取や写真などを撮っている。

 無数の弾痕。不自然な角度で飛び散った血痕。ガラスをなくした窓からは、熱気を帯びた陽が差し込み、車内を異様な匂いで充満させた。床は撃ち抜かれ、シートはもちろんそん下のフレームまで見事に歪んでいる。

 モニターで確認していたかぎりでは、最後の犠牲者は岡島大地。


「彼の能力は『テレポート』だったわね……」


 映像で見るかぎり、持っていた手榴弾を瞬間移動させた事はわかっている。

 つまり『リフレクション』や『バリア』の中に手榴弾を移動させたってわけね。

 データでは、片方の手から逆の手に物を移す事ができる。しかし、それは手におさまる程度の大きさまで、とあったのを思い出す。 

 片方の手をクリエに密着させる事で手の先である体内に送り込んだのだろう。

 畑中はそこまで推理しながら、一つの疑問に首を傾げた。


「……」


 手榴弾一つでは、あんな爆発は起こらない。

 おそらく、クリエをここまで破壊するにいたら無かったはず。


「……とはいえ、二体投下して一体破壊か。あのクリエを一体でも破壊するなんて」


 ナイツがなぜ子供なんかに固執するのか、この現状を見ればわからなくもない。

 彼女は車内で歩みを進めると、両腕をダラリと下げたもう一体のクリエに目を向けた。

 こっちは藤本俊明の『ライド』を受けた方か。見ていたかぎりでは、行動に変化があったようにも見えたが……。

 彼女は襟につけていた通信機をにスイッチを入れると、「回収班、残ったクリエ一体と岡島大地の遺体も回収して」と命令した。


   ※


「隊長!」


「どうした!?」


 呼ばれて顔を上げたが、声の主は視界には入らなかった。

 捜索を開始して三十分ほど経過していた。捜索範囲を広げたが、実験体はおろか浜島隊の姿も見当たらない。

 もし、戦闘があったのなら、その痕跡があってもよさそうなものだが。


「女の子です、女の子がいます!」


 その言葉に奥山は佐藤の顔を見た。

 こんな所に女の子……。


「早く、早く来てください!」


 隊員の声に佐藤、奥山をはじめ、散っていた隊員たちが声のする方に駆けつけた。


「……!?」


「これは……?」


 浜島隊のメンバーが横一列に並び寝ている。内一人は負傷しているのか、応急処置がされている。

 佐藤達の視線は浜島隊のメンバーとそこに立つ少女の姿を交互に行き来させた。

 この女の子が……? いや、しかし……。

 この状況をどう理解したらいいのか、奥山は言葉が出てこない。

 こんな場所で、仮にも訓練を受けている大人数名が、女の子一人に?

 隊員の中には周囲を見回し始めるものもいた。彼女の仲間がどこかに潜んでいるのではないかと予測したためだ。しかし、今しがた周囲は自分達の目で捜索をしている。そんな人影を見てはいない。

 佐藤が口を開いた瞬間、彼女は口を開いた。


「待っていました。私は実験体ナンバー5、日倉如月です」


「……実験体、君が……? 本当に研究所を脱走した実験体なのか?」


「はい」


「これは、君が?」


「ええ」


 奥山は再び浜島隊のメンバーに視線を向けて問う。如月は、その事にあまり興味がないのか、短く頷くだけだった。


「待っていた、というのは?」


 今度は佐藤の言葉。


「私はあなた達の協力を得るためにここで待っていました」


「……協力? なぜ、俺達に協力を求める?」


「理由は三つ。一つはあなた達がここを通る事。私達の行くルートの途中で、接触がしやすかったため」


 隊員達は神妙な顔つきで彼女の言葉を聞く。


「もう一つは私達が生きるため」


「しかし……」


 それならば、浜島隊に交渉をしてもいいはず。しかし、浜島隊はおそらく彼女の手により夢の中へと送り込まれたのだろう。

 その疑問を口にしようとした瞬間、彼女は続けた。


「三つめは、あなた達は協力してくれるから」


「……」


 隊員達は面を食らった顔でお互い見合うな、佐藤は声を上げて笑った。


「はっはっはっ、なるほど、なかかなの交渉術だ。おもしろい、その話、乗ってもいい。そのかわり、君達の話を聞かせてもらえるんだろうな?」


「ええ、もちろん」


 日倉は初めて微かに笑った。


「では案内します。行きましょうか、佐藤さん」


「……!? ああ」


 日倉は男達の間を静かに歩き始めた。その方向には奥山達が止めた車両がある。

 今、名前……。


「隊長……今……」


「ああ、なるほど、これが実験体なのか」


 耳打ちする奥山に佐藤は興味深げに少女の背中を見つめていた。

  


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