第百八話……戦場の乙女2
「隊長!」
弥生は崩れ落ちる隊長のホルスターからすばやく銃を抜くと、周囲の隊員達が動く前に全弾撃ち尽くした。
隊長はこの銃を弥生に使おうとしていたのだ。実験体捕獲のための麻酔弾。撃たれても眠るだけという事はわかっている。殺すわけでないとわかれば抵抗なく撃つことができる。
弥生は狙撃手の存在にももちろん気が付いていた。今の彼女は視野の範囲を超えて声を耳にしている。闇雲に攻撃でもされないかぎり当たることはない。
いつまで、戦えるかしら?
「麗奈!」
「はい!」
倒れた隊員から武器を取り上げ、麗奈に投げ渡す。それと同時に麗奈の方に意識を向けた人間の足を撃って注意をそらす。
麗奈はそれを受け取ると一端身を隠しつつ、弥生を援護するために弾丸をばら撒いた。
麗奈のばら撒いた銃弾は部隊の戦力をわずかながらそぎ落とし、これを皮切りとしてその場は戦火をまとった。
不慣れな射撃は麗奈の心に罪悪感を芽生えさせた。胸が息苦しくなるようなその感覚を強引に頭の隅においやって彼女は自分に言い聞かせる。
大丈夫大丈夫、殺したわけじゃないし、時間稼ぎだけだから……。
麗奈の撃った弾丸は隊員達の足や肩に向けられ、命までは奪っていない。
狙ったわけでなく、偶然そうなっただけだが、そのおかげで心が折れることなく動くことができた。
「弥生さんすごい……」
弥生は敵陣の中を次々に走り抜けながら、少しづつではあるが敵を無力化している。その中で相手の注意が麗奈の方に向けば、タイミングよく敵の注意を引いてくれるのでこちらが狙われることがない。
これではどちらが援護しているのかわからないほどだ。
「もっと、私も戦えたら……」
麗奈は手にした銃を見た。麗奈が扱うには反動が強く手元がブレる。能力が使えない以上、彼女はただの女の子と変わりはない。麗奈の能力は姉妹間のでしか有効ではない。あの千堂の最後の声を聞いたのも、千堂の意志が強かったからに過ぎない。
しかしだからこそ、麗奈は戦わなくてはならないのだと知った。
「……?」
気がつくと辺り一帯がいつのまにか淡い光に包まれていた。
「はぁはぁ……」
弥生は息を切らし、倒れた隊員から奪ったハンドガンを手にしながら装甲車の陰に飛びこむと同時に何発か発砲した。
こうやって戦うしかないか……。
弥生は盾にしている車両を見上げ歯噛みする。
車両を奪えればいいが、弥生は運転ができなかった。弥生の能力で得られるのは隊員達の思っている事だけ、その技能を習得できるわけではない。
「ちっ、何なんだあの女!」
「動きは素人のクセに!」
一方の隊員達も歯噛みする。弥生の動きは素人そのものだが、何故か裏をかかれる。手にする武器も隠れる場所も、自分達が思う嫌な方へ嫌な方へと動いていく。
それに後方からはもう一人の実験体の少女が動いてくる。その動きに余計に撹乱される。
そちらに気を向ければ、間髪いれずに弥生の攻撃の攻撃が飛んでくる。
「……?」
隊員の一人がある事に気がつき、ふと辺りを見回した。
誰だ? 誰がしゃべっているんだ?




