第48話 ギルドマスター、ヴァレリー登場
前回のあらすじ
春風とリエラ、今日遭遇した出来事を報告する。
注)今回の話は、前回のラストから少し前に遡ってから始まります。
予期せぬアクシデントはあったが、無事に初めての仕事を終えた翌日。
朝食を終えた春風が、次の仕事を引き受けるために受け付けに向かうと、
「あ、ハル君!」
と、不意に自分を呼ぶ声がしたので振り返ってみると、
「あ、あなたは確か……ユーリエさんでしたよね?」
そこにいたのは、ギルドの新規登録の時の担当だった女性、ユーリエだった。
「ええ、そうよ。覚えててくれて、嬉しいわ……て、そうじゃなくって」
ユーリエは首をブンブンと横に振るうと、真面目な表情になって、
「ハル君、今日、仕事はまだ受けてないかしら?」
「仕事でしたら、これから受ける予定です」
「ああ、良かった。実は総本部長がハル君を呼んでいてね、すぐに総本部長室に来て欲しいんですって」
「総本部長さんがですか? わかりました、すぐに行きます」
そう言って、春風は走って総本部長室に向かった。そして、総本部長室のドアの前に着くと、トントンとノックした。
「はい」
「すみません、ハルです」
「ああ、どうぞ、開いていますよ」
「失礼します」
ドアの向こうにいるフレデリックに言われて、春風は静かにドアを開けて中に入った。
「あれ? リエラに、アリシアさん……」
そこにいたのは、総本部長のフレデリックの他に、リエラと昨日の仕事中に出会ったアリシア、そしてもう1人いた。ちなみに、リエラは隣にいる女性のせいかどこかぎこちなさそうな様子で、アリシアは昨日のことがあったせいか、春風に対してかなり気まずそうな雰囲気だった。
(……誰だ?)
その人は褐色の肌に長い銀髪を持つ女性で、フレデリックと同じようにビシッとしたスーツに身を包み、革製のロングコートをマントのように羽織っているが、スーツを着ててもわかるくらいがっしりとした体つきをしていて、雰囲気的にはバリバリのキャリアウーマンというより、数多くの死闘を潜り抜けた歴戦の猛者のようだった。
「あの、これは一体どういう状況なんですか?」
春風は恐る恐るフレデリックに説明を求めた。
「ああ、紹介しますよ、彼女は……」
フレデリックが銀髪の女性の紹介をしようとすると、
「待て。私が話そう」
と言って、女性はフレデリックを紹介をストップした。
そして、女性は春風に向き直った。
「はじめまして、ハルといったな。私の名は、ヴァレリー・ウィンチェスター。ハンターギルド『紅蓮の野牛』のギルドマスターをしている」
まさかのギルドマスターの登場に、春風は表情を崩さず、
「はあ、どうも」
と返事をしたが、内心では、
(おいマジかよ。ギルド名が『紅蓮の野牛』なんていうから、てっきり筋肉ムキムキの怖そうなオジサンかと思っていたのに、すんごい美人なんですけど。ていうか全身からすんごいオーラが出てる気がするけど気のせいじゃないよね?)
ちょっと失礼なことを考えていた。
そんな春風に、ヴァレリーが顔を近づけてきた。
「あの、なんですか?」
「いや、アリシアの言う通り、君はなかなか可愛い顔付きをしているなと思ってな」
「……あぁ?」
春風はヴァレリーの発言に対して不愉快そうな顔をすると、
「ああ、すまない、気を悪くしたなら謝る」
と、ヴァレリーは慌てて謝罪した。
春風は「ハァ」とため息を吐いた後、フレデリックに再び説明を求めた。
「あの、それで俺に一体なんの用でしょうか?」
「いやぁ実は、そちらにいる『紅蓮の野牛』のギルドマスター殿が、昨日のことについて話があるらしいのですよ」
その言葉を聞いて、春風はチラリとヴァレリーを見た。
「ああ、そうだ。昨日、君の仕事中に起きた出来事についてはリエラとアリシアから話は聞いている。うちへの加入希望者が、とんでもないことをしでかしたとな。今日はそのことについて君に謝罪をすると同時に、もう一つ話があってここに来たんだ。許さないのは承知の上で言わせてほしい」
そう言うと、ヴァレリーは春風に深く頭を下げて、
「すまなかった」
と、先ほど以上の謝罪をした。
春風はそれを見て「ふぅ」とすると、
「お話はわかりました。謝罪の言葉ににつきましては、すでにそちらのアリシアさんから頂いておりますので、えっと、ギルドマスターさん……は、どうか頭を上げてください」
「……ああ、わかった」
そう言って、ヴァレリーは静かに頭を上げた。
その時、春風はふと、あることを思い出して、ヴァレリーに質問した。
「あの、もう一つの話の前に、聞きたいことがあるのですが」
「? なにかな?」
「俺とリエラにロックボアを擦りつけた連中は、その後どうなったのですか?」
「あぁ、奴らなら昨日アリシアにボコボコにされたよ。で、当然私も不合格をくれてやったわ。いやぁ、あの時のアリシアの怒りっぷりは凄まじかったな」
ヴァレリーの言葉を聞いて、アリシアは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「そうですか、わかりました。それで、もう一つの話というのは?」
すると、ヴァレリーは真剣な表情になって、
「単刀直入に言おう。ハル、君を、我が『紅蓮の野牛』にスカウトしたい」
「お断りします!」
即答だった。それを聞いて、ヴァレリーは、
「グォハァ!」
吐血した。実際には血を吐いてないのだが、吐血した。さらに、腹に謎の衝撃を受けて、思わずお腹を押さえて、片膝をついた。
「「マ、マスターーー!」」
その瞬間、総本部長室に、リエラとアリシアの悲鳴が上がった。
新しい段階にはまだ進まないみたいでした。申し訳ありません。
というわけで次回、春風君、スカウトを断る理由を話す。




